姫の猟犬は寂しがり屋〜3
その日の理玖は上機嫌だった。理由は今日の夕方に愛莉珠が帰って来るからだ。
当日、夜奈に言われた愛莉珠の帰還に理玖は非常に分かりやすく表情が明るくなり、耳や尻尾の毛の艶も戻った。
そして夜奈に邪魔されない様に念のため強めに釘を指しておいた理玖は非常に生き生きとした様子でいつもの家の帰路についていた。
エントランスにある暗証番号ロック付きのロッカーに番号を入れて鍵を取り出し、エレベーターに乗って部屋がある40階へと慣れた様子で向かう。
そして部屋に辿り着き、帰宅してリビングを見れば見慣れた銀髪の塊が床に倒れて呻いていた。
「…………ただいま、おzy『──リィィクッ!!!』──っとと………大丈夫か?」
理玖が荷物を置いて側に寄れば、銀髪の塊……愛莉珠は待ち構えていたかの様に飛び起きてそのまま理玖に抱きついた。
「つかれたおなかすいた」
「はいはい、お疲れ様。今日の夕飯はお嬢が好きなチーズハンバーグカレーだよ。あっちじゃあのクソ不味いレーションくらいしか食べてなかったんでしょ?とりあえず、お風呂入ってゆっくり……」
「やだはなれたくない」
「……………わかった。あんまり邪魔するなよ」
「りょーかい」
そうして愛莉珠はもぞもぞと理玖の背中の方に移動してひっつき虫となった。理玖はそれを気にする事をやめて身支度を整えた後夕飯の準備を始めた。
細身の女性とはいえ大人1人を背負ったまま料理を始める理玖はある意味凄かった。
「チーズはハンバーグに入れるか?それともかけるか?」
「いれる。あとポテト」
「山盛りにするよ。カリカリで塩キツめの」
「おー!やっぱりリクはわかってるね!」
「ちょっ、揺らすな」
そうして2人の和やかな空気が流れていった。
***
その後、大皿に乗った山盛りこんがり狐色カリカリポテトに特大チーズインハンバーグ大盛りカレーをハムスターみたいに頬張りながら号泣する愛莉珠に理玖が慌てたり、風呂に入ったら愛莉珠のスキンシップが過激になって理玖が少しイラついてアイアンクローをキメたりと色々あった。
………そして、現在はリビングの大きなソファに愛莉珠は理玖を抱えたまま寝そべりながらテレビを見ていた。
しかし、抱えているというよりかは理玖が愛莉珠に抱きついている様な形である。両腕を軽く背中に回して身体は愛莉珠の足の間に置いて彼女の胸を枕代わりにしている。
完全に気を許して身を預けている。
愛莉珠はテレビに視線を送りながら視界の端に見える垂れ気味の狼耳を軽く手慰みにする。硬くはなく、柔らかくもないその大きな耳は温かくて触っているとなんとなく癖になっていく。
一方で理玖はというとあまり気にした素振りは見せていない。………だが、尻尾がパタパタと嬉しそうに揺れている。顔に出てなくても尻尾の方は正直である。
愛莉珠はその理玖の態度につい先日まで感じていたストレスが綺麗さっぱり無くなっていく様な感じがした。更に彼女の視線を感じ取ったのか理玖は愛莉珠を一瞥すると顔を少し押し付けて表情を緩ませた。
「ねぇ……リク」
「……なに?」
「僕のこと、好きかい?」
「………………まだわからない。そういうのなった事ないから。でも、お嬢と一緒がいい。あんまり離れたくない」
「そっか……」
理玖のなんともふわふわした答えでも愛莉珠は満足した様であった。そしてそのままキスをしようと理玖を少し持ち上げて頭に手を添え……るよりも先に理玖が動いて軽く触れるくらいのキスをした。
「………随分積極的じゃないかリク」
愛莉珠は一瞬驚いた様に目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべて理玖にそう言った。そして彼女の頭を優しく撫でると理玖は気持ち良さそうに目を細めてクルクルと小さく鳴いた。
「ねぇ………お嬢」
「なぁに?リク」
「この前の続き、しないの?」
その後に理玖が言った言葉に愛莉珠はわかりやすく固まった。
「あの日は夜奈姉が来たから出来なかったんでしょ?今日は夜奈姉にはちょっとキツめに釘指しといておいたから大丈夫だよ」
そこからは行動が早かった。
愛莉珠はそのまま理玖を抱きかかえて寝室へと駆け足で向かい、理玖をベッドの上に放り投げると自分も飛び込んで理玖が逃げられない様にする。
「リク。本当にいいんだね?僕は自分でも言うのもアレだけどかなり溜め込んでるから野獣になっちゃうよ?」
「………あんまり暴走して欲しくないんだけど。あと痛いのもあんまり」
「そこは善処するよ」
理玖のアメジストに似た紫色の瞳と愛莉珠の爛々と輝く紅眼が至近距離で交差する。そうしている間にも愛莉珠は理玖の寝巻きのジャージに手をかけて脱がしていっている。
そうして着ているものは下着のみとなった後、愛莉珠は部屋の電気を小さくした。薄暗くなった部屋でまるで夜空の星の様に爛々と輝く紅眼と八重歯を剥き出して笑うその姿はまさかに飢えた野獣だった。
「それじゃあリク──────いただきます♪」
こうして銀色の美しき野獣は我慢し続けてきたものを解放して目の前の獲物へと踊りかかった。




