メイン武器はどうなるか
スーツの素材が決まれば次はメイン武器である。
戦乙女やハウンドのメイン武器もスーツと同様で本人のイメージ力を補強して攻撃の威力を上げる役割があり、それは人によって違う。魔法使いが他人と同じ杖を使わない理由がここにある。
理玖の戦闘スーツの材料を回収した次の日、神崎に連れてかれた先はいつもの訓練所の隣にある検査用の室内訓練所であった。そこで何をするのかといえばメイン武器の選定であるのだが、一向に決まる気配がなかった。
「一体なんででしょうか………どれを持たせても対して魔力変換効率が上がりませんね。けど、何故か武器の扱いには長けていると」
「あの親バカ共の英才教育の賜物じゃよ。………まったく自分達の子になに教え込んどんじゃよ」
日暮の疑問に神崎は呆れた様子で答えた。
理玖の武器の扱いは『戦闘騎士』の戦乙女やハウンドには及ばないものの、両親の血筋か本人無自覚英才教育のおかげか天性の才能かはわからないが最近まで一般人だったとは思えないくらい達者であった。
しかし、扱いが良くても戦乙女とハウンドに求められるのはどれだけ自身の魔力をより効率よく高められるかだ。
今のところ、大鎌と投擲武器、それに愛莉珠とおなじ双剣が有力候補なのだが、どちらもあまり上がった様子はない。ちなみに杖は相性最悪であった。
「あと試しておらん武器はなんじゃ?」
「あとはナックルダスターに銃火器ですね…………まさか理玖くん、銃火器に適性あるじゃないですか?ほら投擲武器がいい結果でましたし」
「そんなもんかの?……まぁ、もしかしたらそうかもしれんの。───おーい、理玖坊!こっち来んか!」
「はい、わかりましたよ」
100メートル先の的にひたすら投げナイフをしていた理玖は神崎に呼ばれると残っていたナイフを全て的に投げて駆け寄った。ナイフは全て的に命中していた。
その光景に神崎と日暮はなんともいえない表情となった。
「理玖坊、次は銃火器じゃ。銃の扱いは習ったかの?」
「護身銃なら学校で。あとは北の方に行った時に免許と許可証も」
神崎の問いに理玖はそう答えた。
───多数の命が失われ、数多の人が露頭に迷い、世界に混迷を与えた『天災』以降、犯罪件数が増えて世界の全体の治安は悪化の一途を辿っていた。
そこで政府は護身という名目で一般人の銃火器の所持を合法とした。現在では学校のカリキュラムには銃火器の使用の心得や扱い方が義務教育に組み込まれている。
ただし、使用するのは実弾ではなくスタンガンやゴム弾専用の低威力のプラスチック製拳銃のみである。
ちなみに実弾の使用と猟銃などの殺傷性の高い銃火器はそれぞれ専用の許可証と免許証が必要であり、その両方を所持していない状態での実弾使用及び所持は重罪である。
「しかしよく取れましたねそれ。あの試験、毎回結構な倍率ですよ?」
「座学はお父さんからで訓練は北支部の姉さん方の極寒スパルタ指導で覚えました」
「…………あぁ。なるほど」
日暮は疲れた様子でそう言った。
「まぁ…………とりあえず理玖坊。適当に手に取って的に向かって撃ってくれぬか?」
「わかった」
そうして理玖はセーフティを外し、少し大きめの拳銃を的に向かって両手で構えた。ちなみに拳銃を両手で構える理由は命中率を上げる為である。そして理玖はひと息吐いた後、まるで見本誌の様な姿勢で引鉄を引いた。
その拳銃に装填されている弾は特殊加工が施されており、撃ち込んだ本人の魔力総量に応じて威力が跳ね上がる代物だ。人に対しては過剰だが、小型ボイドに対しては有効な代物である。ただし、あまり多過ぎると銃本体が弾の衝撃に耐えられずかえって危険である。
影の中の肉餌やら覚醒ビーストやらの理由で魔力総量が多い理玖が撃った弾は通常ではあり得ない爆音を上げて飛んでいき、命中した的は木っ端微塵に吹き飛んだ。当然、反動で理玖も後方に吹っ飛び壁に激突する。
「理玖くんっ!?」
「理玖坊っ?!大丈夫かッ!?」
急な出来事に2人は慌てて理玖に駆け寄る。当の本人は後頭部を強くぶつけたせいで目を回していた。
「頭は大丈夫そうですね………というか簡易術式弾であの威力でるんですね」
「あればあるだけ上限無しに威力が上がるもんじゃからの。…………ただ、銃本体がお釈迦になるのは異常じゃな」
そう言って神崎が拾い上げた拳銃を見ればバレルの部分がひび割れており、ハンマーはひん曲がっていた。
「うわぁ…………。ん?そういえば測定の方はどうなりましたか?」
「それならさっき見たぞ。今日1番の最高得点じゃ」
「なら理玖くんの適性武器は銃ですかね」
「まだ試しておらんものもあるからなんとも言えんな。………さて、ほーれ。起きんか理玖坊」
「ん………ん゛ん゛………」
そうして理玖の顔をペチペチ叩いて起こす神崎。
────その後、色々と試した結果、最も魔力変換効率が良い武器が銃火器でその次がナックルダスターとなった為、理玖の戦闘スタイルはガン=カタスタイルになりそうだった。
「ねぇ、澪姉さん。俺、ガン=カタ知らないんだけど」
「わっちも知らん。というか話に聞く限りではテルゼウスには使い手はおらんな。傭兵辺りにはおるかもしれんが、見た事ないの。独学でマスターせよ」
「…………………なんか映画でも見て真似てみる」