戦闘用スーツ〜素材集め1
温かな日差しと何かいい匂いで目を覚ますとそこは見慣れない和室だった。寝起きで頭がぼんやりとしている理玖は本能に従って起き上がり匂いがする場所へとのろのろと移動を始めた。
昨日着ていた筈のベビードールは何故か少し大きめの甚平になっていた。一体誰が着せたのだろうか。
匂いがする場所に着くとそこは和風のリビングで台所には割烹着を着て朝食の準備をしている神崎がいた。
「おぉ、起きたか理玖坊。もう少しでできるからそれまでに顔を洗ってこい。洗面所は廊下を出て右の突き当たりじゃ」
「…………ん」
寝ぼけ眼の理玖は神崎に言われた通り、廊下を出て突き当たりにある洗面所へと向かい顔を洗った。
顔を洗ってさっぱりした理玖がリビングに戻れば既に朝食が用意されていた。メニューはじゃがいもと玉ねぎの味噌汁に白米に焼き鮭と焼いた油揚げに卵薯蕷とザ和風の朝食。
そして席に着いて食事の挨拶をして味噌汁を一口飲んでひと息吐く。味付けは神崎か夜奈の好みなのか若干薄味である。ちなみに愛莉珠は濃い味付けが好みである。
「ねぇ、澪姉さん」
理玖は向かい側に座って朝食を摂る神崎に話しかけた。
「なんじゃ理玖坊」
「なんで俺ここにいんの?着てる服も変わってるし」
「昨日の事は覚えておるか?随分と乱れておったが」
「っ……ま、まぁ、覚えてはいる………」
理玖の質問に神崎がそう返せば、理玖の寝気味の耳は更に伏せて顔は真っ赤になった。
思い出されるのは昨日の夜の情事のこと。急な出来事で反応が追いつかずされるがままだったが、あれはあれで良かったと理玖は思った。
「なにもかもが鈍いヌシがそんな顔するくらいじゃ。どうやら良かった様じゃな」
「………………」
神崎の言葉に顔を赤くしたまま目を逸らす理玖。
「ヌシのご主人様はヌシの貞操の危機を察知して蜻蛉返りしてきた夜奈に連行されて今日から数日不在じゃ。あの部屋で1人は寂しい筈じゃからしばらくはここで生活せい」
「わかった。………今日は夜奈姉が前に言ってた父さんと母さんの遺品の整理に行くの?」
「そうじゃ。本当は鑑定も兼ねて愛莉珠も着いてくる予定じゃったが、当てが外れたのでの。特戦隊の技術部門長を連れて行く事にした」
「なるほど。………というかどんだけあるの?」
「さぁ?検討もつかん。あの2人、溜め込むだけ溜め込んであとはほったらかしにしておったからの。ひょっとするととんでもない代物が出てくるやもしれんな」
理玖の両親は希少な男性の戦乙女とそのハウンド。しかも2人は前第二特殊戦闘部隊隊長と副隊長………つまりは愛莉珠の前任である。
それなりの物を溜め込んでいたと思うのは妥当であろう。
「さて、ご馳走様。……それでは理玖坊。ヌシの着替えは今朝寝ていた部屋にあるからの。それに着替えから出立じゃ」
「わかった。それとご馳走様でした」
「うんうん♪………あ、そうじゃ。ひとつ言っておこうと思っていたんじゃが」
と朝食の後片付けを始めた神崎はふと思い出したかの様な口ぶりでそう始めた。
「ビーストの発情期はその時期に入ったら誰彼構わず襲うという情報は間違いじゃ。実際は番い……恋人や妹背の体臭などを起爆剤として襲うというわけじゃ。そしてそれらの類いがいない者が発情期になっても月物と似た症状になる。無論、発情期を強制的に起こさせる様な魔法や魔導具を用いてもそれは変わらん。
………つまりなにが言いたいのかというと、昨日の乱れっぷりを見るに理玖坊は愛莉珠の事をそういうものと無意識のうちに認識しておったというわけじゃ。お〜お〜、お熱いのぉ〜?」
神崎がそう茶化す様に言った。理玖は一瞬神崎が言った言葉の意味が理解出来なかったが、やがて言葉の意味に気づいた理玖は一気に顔が茹で上がったタコの様に真っ赤になり耳と尻尾の毛もブワリっと逆立った。
「まさか本当に無自覚じゃったのか?もう少し自分自身に興味を持ったらどうじゃ?後々になってから気づくよりかは遥かにマシじゃよ」
赤い顔のまま立ち尽くす理玖に向かって神崎はそうカラカラと笑いながら言った。
***
「おい〜す管轄長に理玖ちゃん!………って、どったの理玖ちゃん。顔赤いんやけど」
「………気にしないでください。ちょっと、朝方に色々あったので」
「おぉ………そうやったか」
指定の場所に着くとそこには既にレイチェルと彼女のハウンドの宇佐美、それに縁流と日暮がいた。
「レイチェルさんと宇佐美さんがいるのはわかりますが、なんで縁流さんと日暮さんもいるんですか?」
「私たちは技術部門長のストッパー役ですよ。あの馬鹿でかい倉庫にどんなお宝があっても不思議じゃないんでそれを見てこの人が暴走しない様にと。最初は宇佐美医療兵がストッパー役の予定だったんですけど、彼女体力が無いので」
「そうそう!芽依はいっつも肝心な時にバテるんや。この前だって夜ヤる前の前座が終わってさぁ本番だって時なんk──ッゲボフォ?!」
理玖の問いに日暮が答え、レイチェルは何か口走ろうとした瞬間、彼女は顔を真っ赤にして膨れ面になった宇佐美に腰の入ったボディブローを食らって轟沈した。
ズドンッと鈍い音が鳴った為相当な威力である。例え体力が無くてもそこは戦乙女と契約したハウンド。それなりの力があるのだ。
そんな時だった。地下倉庫への入り口から声が掛かったのは。
「ほれほれ、そんな朝っぱらから騒がしくしてらんで早うこっちこんか」
理玖がその声がした方へ目を向けるとそこには赤と紫を基調とした和服と洋服を合わせた不思議な見た目の服装をしたビーストの女性がいた。
耳は丸っこい犬耳で瞳は金色の若干の細目。尻尾は大きめのラクビーボールサイズとなっており、彼女の両肩辺りをふわふわとポメラニアンみたいな見た目の人魂が2つ飛んでいた。そして、ちょうど眉間の辺りには月の入れ墨が両頬には炎の様な入れ墨が入っていた。
「おー、おー、話には聞いてたんけど理玖ちゃんが16人目かぁ。ウチと同じで犬系……いや狼系か。理玖ちゃん背ちっこい割にどえらいもんくっつけておるなぁ。肩凝らんか?というか見れば見るほど幸子ちゃんそっくりやわぁ。色と表情は翔太くん似やなぁ。あ、ウチの事覚えとる?前に遊びに行ったことあるんよ」
そう言いながらその女性は理玖の顔を両手で包んでムニムニと揉みほぐしながら触っていた。一方で理玖は名前が喉の手前まで出かかっているが目の前の女性の事をなかなか思い出せずにいた。
「ん?思い出せんか?まぁ、ちっちゃい頃やったからしゃあないなぁ………。ほれ、これなら思い出せんか?」
そう言って彼女は片方のポメラニアン人魂を頭に乗せると人魂はチャラチャラと軽快な電子音を鳴らして口のところからレシートの様な細長いカラフルな紙を吐き出していった。
「………………あ。大道芸のお姉さん」
「そうそう!思い出してくれたかぁ。ちびっ子達好きやったからなぁこれ。ウチは金持、金持 智鶴や。ここの地下倉庫を含めた貴重品やらなんやら仕舞う区域の管理人やっとるよ。ちなみに理玖ちゃんとそこにおる神崎さんと同じく覚醒ビーストや」
「そうだったんですか……」
「というか面識あったんじゃなヌシらは。片方は忘れておったみたいじゃが」
と理玖が彼女……金持の事を思い出したところで神崎が会話に加わってきた。
「だってウチは華重ちゃん達と同期やよ?時折家にお邪魔させてもらったんや。あとはあの馬鹿でかい倉庫の管理関係とかで行ったり。そん時によく遊んだんよ〜。女の子みたいで可愛いくてなぁ〜……あ、今はもう女の子か。ほれほれ理玖ちゃんが好きだった飴ちゃんや。はいあーん」
「いや今はいりま──ッモゴ」
そうして金持は理玖の口の中に飴を突っ込んだ。飴はべっこう飴で理玖の好物でもある。………ちなみゴルフボールサイズなので食べ切るのに非常に時間がかかる。
「そんじゃ確認に向かいましょうや。ヤラいもんぎょうさんあるから楽しみにしててなぁ」
金持はそう言って全員を地下倉庫の入り口へ指を指す。そうして理玖達は金持の後をついて行った。