強行手段
気づけばブックマークが300越えでありました。ほんとありがとうございます……
今回のはかなり筆が乗ってしまい、少々濃い内容になってしまいました。読む時はご注意を………
「………失敗した。僕は失敗したよリク」
理玖が夕食を作っていると突然愛莉珠がそんなことを言い出して項垂れてた。
「……なにが失敗したんだよお嬢」
「リクに裸エプロンさせたまではいい。一見すると着ているから裸よりはいいと思われるが、エプロン1枚だけとガードがそれだけという心許なさと覗き見られるという事への羞恥心から全裸とはまた違ったエロさがあるんだよ」
「頭大丈夫かお嬢」
「僕は至って真面目さ。着せられている本人は少しでも大きな動きをすれば見えてしまうかもという焦りから前のガードに行きがちで後ろは疎かになる。そこから見える艶やかな背中や可愛らしいお尻はまさに絶景。
…………だけど、僕は致命的な失敗を犯したんだよ。
それはね。リクの尻尾がデカ過ぎてお尻が見えないんだよッ!!」
「…………お嬢。本当に頭大丈夫か?」
心底そう悔しそうに叫ぶ愛莉珠に理玖はまるで生ゴミを見るかの様な視線でそう返した。
実際、理玖は昼間の愛莉珠の宣言通り裸エプロンにさせられた。しかもサイズが普段使っている物よりもワンランク下な為、屈んだりすれば見えてはいけないところが見えてしまう。
愛莉珠もそれを狙ったのだろう。
しかし、理玖の尻尾の大きさは通常の犬系ビーストの3倍ありしかもそれが3本生えている。自然な形にしておけば内側に少し丸まった扇子状に広がる為、後ろから見ればロングスカートを履いている様に見えるのだ。
加えて理玖はそれを着て夕食の支度をしている。台所とリビングは繋がっているが料理をするとなるとリビングから背を向ける形となる。理玖のエプロンの両端から溢れそうなブラ要らずの豊かなマシュマロ胸や股下辺りの絶対領域も見えない。
つまり、愛莉珠が望んだ絶景は拝めないのであった。
「あ゛ぁ゛………なんて事だぁ……本当にやらかしたぁ」
「馬鹿な事やってないで。ほら夕食できたよ」
「よし食べよう」
理玖から夕食ができたと言われると項垂れていた愛莉珠は気持ちを切り替えるべく食事をする準備を始めた。
***
「いや〜、今日も美味しかったよリクぅ」
夕食を食べ終え理玖と一緒に風呂に入れば愛莉珠は普段の調子に戻っていた。理玖には愛莉珠自身が選んだ薄い生地のベビードールを着せてそのまま後ろから抱っこしてソファに座っている。
………見方によれば逃がさない様にしているように見えるが。
一方で理玖はなにやら様子がおかしかった。
視線はぼんやりとしていて顔は熱に浮かされたかのように赤みがかっている。若干息も上がっており何かを我慢するかのように身体を震わせていた。
「どうしたのリク?そんなに顔真っ赤にして」
「な、んか………変。…………お嬢、一体、……なにやった」
「ん〜?知らないなぁ。僕は何にも知らないよ?」
理玖が睨みつけながらそう息絶え絶えに聞いても愛莉珠はニヤついた笑みを隠さずにそうはぐらかす。その間、愛莉珠は背中から抱き締めながら理玖の体をまさぐっている。
「っ…ぅ…く…んっ………や、やめっ」
「やめないよ〜。ほら気持ちいいでしょリク?素直になりなさいな。今自分の身体に起きていること、君は気づいているんでしょ?」
「や、やっぱり………お嬢の、仕業かっ……っ」
理玖は悪態をついて逃げ出そうとするもうまく力が入らなかった。
決して離さない、という意志を体現するかのように肩ごと抱き締める腕と、その先で踊る手のひらと五指が彼女の体をくまなくまさぐる。ただ、触れているだけ。ただ、撫でているだけ。
ただそれだけなのに理玖の身体はまるで初めから火種が燻っていたみたくじんわりとその奥から耐えがたい熱を放ってきている。
────ほぼ全てビーストの共通の特徴のひとつに一定周期で強い性衝動で自分が保てなくなる期間が存在している事がわかっている。
発情期と呼ばれるそれは、普人の女性が切っても切り離せないアレと同じものであり、現在の技術では薬によって抑制することが可能である。もちろん一番早く、身体に負担が少ないのは薬に頼らず正しく発散させることだ。
そして魔術師の夫婦が確実に子を成す為に用いる魔導具と術式も存在しており、これを使用すると意図的にアレを起こすことができる。
つまり何が言いたいのかというと………
遂に愛莉珠は強行手段に移ったというわけである。
***
〜side愛莉珠〜
リクの反応からして僕の作戦は成功した様だ。
リクがようやく正式に僕のハウンドになってから早2週間ばかし。あの糞ババァに邪魔されまくって手出しできなかった2週間ばかし。
というかなんなのあの感知能力。
普段は全く反応しないのにリクに手を出そうとするとどこに居ようが察知して乱入してくるし。生身で高層マンション40階に窓からダイブとかありえないし。そんで窓壊すなって言ったら今度はピッキングや天井裏経由で侵入してくる様になってもうどこに向かってるのかわからなくなった。
……こういう変な所で超人じみてるのが華重副隊長の血筋なのかなぁ?
あの人も海に入ったかと思うと12メートルくらいの海獣を素手で狩って来たり、1人でスコップ1つで深さ1メートルくらいで10キロぐらいの塹壕を鼻歌交じりで1日で掘ったりしてたし。………ちなみにそれを脳筋だって言ったらマンツーマン訓練が倍になった。
理玖はそれを料理関係や手芸やらで披露してくれてる。肉や野菜やらの空中高速ミンチやミシンみたいな速度でやるレース編みやら。
そう考えると大泉隊長の血は薄いのかなぁ?いや、あの人もあの人で濃い人だった。それにあの狂犬、料理とか出来なかったから多分リクの今の得意分野はあの人直伝だ。
………まぁ、とにかくだ。
今は目の前の最重要作戦を遂行しようじゃないか。
ガードが硬いリクをその気にさせるにはやはり発情期にやるのが1番手っ取り早い。けど、リクのその時期がまだわからない以上それを待つのも僕の性に合わない。それに絶対アイツが邪魔してくる。
ならば意図的に発情期を起こさせるという事になる。幸いにもその手の魔法は教養の為に会得している。しかし、リクの『魔喰い』のせいでその魔法は無効化されてしまう。
そこで僕はリクの異能力について色々と調べた。異能力にはどこかしら欠点が必ず存在するからだ。そしてその結果ある事がわかった。
それはリクの『魔喰い』には喰える魔力の最低値が存在している事。あまりにも魔力が小さいと『魔喰い』が発動しないのだ。それは魔力を用いた家具や魔導具とまで呼べない魔力が付与された道具などはリクが触れてなくても問題なく使えるからだ。
欠点とも呼べない欠点だが、これに僕は光を見出した。──ならば、感知されるギリギリまで魔力を落とした術式でやればいけるんじゃないかと。空っぽの器に少しずつ流し込んで満たしていく様にゆっくりと術をかけていけば、リクの『魔喰い』に引っかからずに出来るんじゃないかとッ!!
そうと決まれば行動するのみ。
とりあえず僕は夜なべしてリクが普段着ている下着にその術式を付与してしばらく待つ。当然魔力は尽きるから辛抱強く毎日夜なべして付与し直す。
そしてある程度溜まったら今度は発動に必要な術式を付与したエプロンとベビードールを言葉巧みに着せて術式を発動させる。
結果は完璧大成功ッ!うまく発動してくれた!
最大の懸念材料のババァは今北監獄で半年に一回起こる囚人達による監獄長への愛のサバトの鎮圧応援の為に出張中。片道3日の長旅だから3日目の今日戻ってくるわけがない。
女狐には賄賂を送ってあるから絶対来ない!
さぁ、メインディッシュをいただく時が来たぁッ!!
***
リク自身にとってそれは未知の感覚であり、彼女はその快楽を必死に耐えている。だけど、その耐えきれない疼きに身体を震わせながら顔を伏せしまっている。
「ねぇリク、こっち見て?」
彼女の耳元でそう囁くと、口を噤んだままゆっくりと顔を上げて蕩けた瞳で僕を見つめてくる。じっと見つめ返すと何か言いたげに口を開くものの…彼女は何も喋らない。まるで餌を待ち侘びている雛のように、綺麗な桃色の咥内が見え隠れする。
そう、そこには僕の手腕 (と魔法)によりすっかり出来上がったリクがいた。
僕はそのまま向かい合わせになる様に抱き直して片腕で身体をしっかりと抱きながら、彼女の頭の後ろへと手を沿わしキスをする。
「ん…ぁ…んぅっ…んんっ…………」
最初は優しくそっと触れるくらいのバードキスで。唇が触れる度に目を瞑り、唇を離す度に切なげな声を漏らす彼女の様子は僕に今までにない興奮を齎してくれる。
そして僕は頭の後ろにやっていた手をリクの腰から生えている尻尾の付け根へと伸ばして掴み、少しだけ引っ張る。痛みを感じさせない様に。
「ふぇっ…!?や、やっ……んんぅっ…!」
突然の慣れない刺激に身体をビクリッと震わせ目を見開いて驚くリクに追い打ちをかけるように舌で柔らかく瑞々しい唇を優しく、ゆっくりと、焦らすように抉じ開けていく。
久しぶりの深いキス。けれど今回は僕が一方的に貪るディープキスだ。僕以外考えられなくなる様に深く、深く、もっと深くへと誘い込む。もちろん尻尾への刺激も忘れずに。
未知の感覚に恐れを感じながらも本能には決して抗えないその表情でリクは僕を求めてくる。
「っ…ふ、ぅ゛…んぅっ…んっ…く…ぅ…っ」
僕のよりも短くて小さな舌に、軽くて薄い唾液…全てを舌で絡め取り自分で上書きしていく。僕がゆっくりと飴を味わうように彼女の舌を舐ると身体を震わせながら背中へと回した力の入らない腕で僕の身体を弱く締め付ける。その健気な反応が堪らない。
「は…ぁ…もっと、続きをしたいかい?それともここで終わりにする?リク」
僕はリクとの口付けを一旦中止して彼女にそう聞く。彼女の思考回路を蕩けさせる口付けを止めてしまうのは勿体ないけれど、彼女の声をもっと聞きたい。他の誰もが知らないような、僕にだけ聞かせてくれる声を。全部僕一人で独占してしまいたい。
「やだぁ……もっとぉ……もっとしたいぃ」
リクは尻尾をパタパタと振って蕩けた表情でそう甘えるように答えた。
(遂に、堕ちた………ッ!!)
僕は心の中でガッツポーズを取った。
「……わかった。じゃあ、移動しようか」
「……………………ぅ、ん」
僕は堕ちたリクを抱えて寝室へと運ぶ。
さぁ………待ちに待った瞬間だ。
ここまでよく耐えたよアリス・ドラゴローズ・レイブンハルト。我慢強くない僕がここまで耐えたんだから今夜は確実に素晴らしい夜になるだろう………。
リクのベビードールを脱がして発情してほんのりと赤く色づきしっとりと汗をかいている柔肌を露わにして………部屋ヨシ!防音ヨシ!雰囲気ヨシ!邪魔者ナシッ!心構えヨシッ!!
さぁ、パーティの時間だッ!今宵は燃えるぞッ!!それじゃいただきm───────
「───両手を頭の後ろにやってこちらを向け礼華 愛莉珠」
「………………………………………………………………………」
気のせいだろうか。なんか今いない筈のババァの幻聴が聞こえたんだが。
いやそんなまさか。だってアイツは今は行ったら3分の2で発狂するといわれる監獄長の変態ドマゾ覚醒ハウンド主催の『我らが監獄長に捧ぐ愛のサバト〜Roar and erupt! Ferocious muscles! Now is the time to show our love!〜[※正式名称]』の鎮圧の応援に向かっているh────
「聞こえてるのだろアリス・ドラゴローズ・レイブンハルト。大人しく従え」
うん。気のせいなんかじゃない。幻聴なんかじゃない。だって、今凄い威圧感を放つ奴が真後ろにいるもん。僕のフルネーム言えるの限られてんもん。
そうして振り返ればそこにはやっぱりバb……柳龍がいた。
普段の腰まで生やした夜烏色の髪が奴の二つ名の『炎獄の魔王』の由来となった灼熱色に変化していて、まるで太陽がそこにあるかの様にジリジリと熱気と重たい殺気が伝わってくる。それに対極するかの様にその瞳は真っ黒に冷え切って感情を一切窺えない。そして完全武装。
や、やっべ。マジのやつじゃん……というかどうやって来た?!片道3日だぞっ!?
「身体強化魔法を駆使して全力疾走してきました。あの程度の距離で地形の破壊を鑑みなければ10分で着きます」
「バケモンかッ!?」
思わず声に出してしまった。もうコイツ人の領域踏み外してんじゃん……
「さて、では貴女を処断しましょうか。強制的に発情期を起こさせることは理玖の身体にとって多大なる負荷が掛かります。更にそれが私利私欲で起こさせたの事ならば─────万死に値する」
一気に上がる殺気で建物自体が軋みを上げる。一方でリクは術式の効果が切れたのかこの物理的な質量すら持っている尋常じゃない殺気の中でスヤスヤと眠っている。大物だね。
リクに助けを求めるのは無理だ。ならば僕に残された道は…………
「……………だりゃああああああああッ!!!」
僕は素早く煙幕を張り、窓から身を投げて脱出した。
逃げの一点。僕が持っている全ての力を全力で駆使して逃げる。あのブチギレ大魔王から。
今度こそ上手くやってやるッ!!絶対リクを食ってやるからなぁあああああああッ!!!!
………そうして真夜中のユグドラシルに轟音と怒声が響き渡る死の鬼ごっこが始まったのである。




