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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第3章
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秘め事の露見〜1

────いずれ来たるべき日がやって来た。



理玖はそう思った。



別に積極的に隠していたわけではないが、秘密事はいずれ表に出てくるもの。それが今日だったというわけである。



理玖の視線の先には先程まで自分自身にとある魔法を使用していた変な表情で固まって顔腰まで伸ばしたプラチナブロンドが目立つ薄味な女子生徒。



理玖はとりあえずコールが止まないスマホにでた。




***




夜奈が夕食を食べに来てから4日後の金曜日。理玖への質問攻めはようやく落ち着き、普段通りの日常が始まった。



そして理玖の側にはやはりというべきか幼馴染である詩織と美桜がいる様になった。




「そういえば理玖くん、テルゼウスでの所属ってどうなったの?」




とぼんやりと外を眺めていた理玖に詩織がそう聞いた。




「……ん?………あぁ、第二特殊戦闘部隊だよ。中央のね。お嬢がそこに所属してるからさ」




理玖は詩織の質問にそう答えた。……もっとも、所属してはいるがどちらかというと率いているのだが。




「ちょっと待って今理玖君、第二特殊戦闘部隊って言った?なら極氷姫様に会ったことある!?」



「お、おぉ………あるよ」




理玖が第二特殊戦闘部隊と言ったのを聞いた美桜は珍しく興奮した様子で彼女に詰め寄った。その普段あまり見ない美桜の様子に理玖は少しばかり驚いた。




「どんなだった?どんな感じだったの!?」



「ちょ、ちょっと落ち着け。急にどうしたんだよ美桜」



「美桜ちゃんは極氷姫の熱心なファンだからだよ理玖くん。ブロマイドとかよく買っているし」



「そう!ほらこれ見て!すっごくカッコいいでしょ!」




そう言って美桜が財布から取り出して見せて来たブロマイドを見て理玖は一瞬誰だか理解出来なかった。



そこには愛莉珠が写っているというのはわかるのだが、そのブロマイドに写っている彼女は煌びやかな勲章と雪の様に真っ白な軍服ドレスに身を包み、刀身に竜と獅子の彫りが施された半曲刀タイプのサーベルを構え、更には周りに雷光と氷霧を纏わせ、月の様に輝く長い銀髪を靡かせて冷徹な表情を浮かべている。



明らかに理玖が普段知る愛莉珠ではない。




「極氷姫様は氷と雷の使い手であらゆる敵を絶対零度で凍らし雷光を轟かせて一網打尽にするの!」



(お嬢はそれで氷作ってバリバリ食ったり、静電気やって脅かしてきたりするけど……)



「特にあの方が率いる第二特殊戦闘部隊は極氷姫様が鍛え上げたあらゆる側面から対応できる精鋭中の精鋭!花形部署だよ!」



(そのお嬢は実力差があり過ぎるからっていつも訓練所の隅で暇そうにしてるけど。あ、最近は書類関係ばっかりだって言ってたっけ?)



「それに極氷姫様が笑う姿はほとんど誰も見た事なくて、ファンクラブの人達も一生に一度は見てみたいって思っているの!」



(よく笑ってるんだけどなぁ〜………)




そんな美桜の熱い語りに理玖は頭の中でそう訂正していた。しかし、それを理玖が言うことはない。理想と現実は違うものというのは当たり前の話。彼女が楽しそうであればそれでいいと理玖は思った。



例え、先日の食堂爆破の件で愛莉珠と夜奈が神崎と縁流にドヤされた後、魔法での実力行使はやめて一切自重無しの素手での殴り合いとなり、レイチェルがその愛莉珠と夜奈のファイトに賭け事を始めててんやわんやの大騒ぎになったとしても。



例え、たまには甘えてみようと思い、この前の夜に実行したら愛莉珠が暴走して普通に玄関からピッキングで侵入して来た夜奈に飛び膝蹴りを喰らい、そのまま部屋の中で素手ボクシングが始まったとしても。



そうして理玖は美桜の熱の入った演説を静かに聞いていた。




***




学校での運動といえば部活動を除いて体育がある。というわけで理玖は着替える為に詩織にほぼ引き摺られる形で更衣室へと向かった。



思春期に突入済みの男子諸君ならばまさに天国というべき場所か。年頃の女子が恥ずかしげもなく下着を晒して着替えているその光景に理玖は………………特になんとも思わなかった。



絶世の美女といわれる愛莉珠と生活していれば、彼女のラフな姿………下着オンリーやバスタオル一枚姿など嫌でも目に入る。それに毎日一緒に風呂に入ったり同じベッドで寝ていたりしていれば耐性も付くし慣れもする。今更、同年代の女子の下着姿を見ても興奮などしないというわけだ。



そんなことで理玖はさっさと着替えていこうとしていると近くで着替えていた詩織が何かに気づいた。




「理玖くん。背中のそれなに?」



「ん?背中?」




詩織に言われた理玖はロッカーの備え付けの鏡で見てみるとちょうど頸の下辺りにソフトボールサイズの入れ墨かなにかがあった。よく目を凝らせばそれは三つの竜の頭に荊を纏った剣が交差している家紋の様なものだった。




「……いや分からん。そもそもこんなのついてたの知らなかった」



「なんかモヤみたいなのでよく見えないけど理玖くんの顔にある入れ墨みたいなのかな?美桜ちゃんこれ見える?」



「………いや私には全く見えないけどそこに何かあるの?」




どうやらはっきり見えているのは理玖だけの様で他はモヤがかかった様にボヤけている様だった。そして見え方は人それぞれの様である。




「なにをしているの?早くしないと遅れるよ」




とここで後ろから声をかけて来たのは詩織達と仲が良い魔術師の生徒達であった。ここ数日での詩織達以外の生徒との関わりは基本的にビーストの女子生徒が殆どである。あとは詩織達を通してではあるが魔術師の生徒が数名。



魔術師の生徒は初日の理玖の脅しが効いたせいかあまり近寄ろうとはしてこなかった。ちなみに内訳は怯えが6割、好奇心が3割、敵対的が1割といった感じである。



敵対的な反応の者はただ睨んでくるだけで特に何かしてくるわけでもなく、理玖も必要でなければ関わろうとは考えていなかった。




「ちょっと気になる事があってね。あ、そうだ。理玖君のこれ見える?」



「ん〜?どれどれ……あぁ、これ多分契約紋ね。確か大泉さんって戦乙女のハウンドでしょ?そこにあるのは『誰々と契約しています』っていう証なんだよ。…………ただこれは見えない様に隠蔽魔法かけられているね。よほど見られたくないのか知られたくないのかな?」



「普通にあるの?こんなの」



「ないない。優秀な子ほど手放したくないから普通見える様にするよ。誰かと契約している子を勝手に上書きして盗るなんて事は犯罪だし」



「へぇ……そうなんだ」



「なになに?なにやってんの?」




そう話し込んでいるといつの間にか周りには大勢集まっていた。




「うっわなにこれ………隠蔽に加えて情報撹乱まで付与してるじゃん。一体誰の?」



「この術式突破できないかな?」



「特化型のフローレンならいけるでしょ」




そして会話は理玖の頸下の入れ墨をどうやって見るかという方向になっていた。




「あ、大泉さん。この契約紋、見ても大丈夫なやつかな?見ても大丈夫なら見てみたいんだけど」



「ん?……大丈夫だと思います。お嬢……俺の契約者からそれについて聞いてませんし、なにか重要なやつなら向こうから言ってくる筈ですから」



「それならよし。許可を貰いましたからね。では始めますよ!───『秘匿されし事象を我に示せ。看破(ファイド・アウト)』」




理玖に許可を取った女子生徒が詠唱をして魔法名を唱えると目元を覆う様に魔法陣が出現した。




「やっぱりやたらガチガチだね……。でもこれはこの穴を突いてやれば見えr─────え゛ッ」




その女子生徒は何やら手元で操作して理玖の頸下の契約紋の隠蔽を解くと変な声を上げた後、まるで石化の魔法を食らったかの様にビシリッと固まった。



その直後であった。



皆が固唾を飲んで静かになっていた更衣室にスマホの軽快な呼び出し音が鳴り響いた。その音の出所を見るといつの間にか頭だけひょっこりと影から出ていた魔狼が鳴り響くスマホを咥えていた。



そのスマホは以前、愛莉珠が何かあった時用に理玖に持たせていたものであった。



理玖は自分がしでかしたであろう事に嫌な予感を感じながら魔狼からそのスマホを受け取るとそのまま出た。

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