『群狼』
今回はほぼほぼ説明回
授業の方は何も問題なく進み、下校時刻となる。
理玖の不気味な笑みが効いたのか魔術師の生徒たちは向こうからあまり近寄らない様にしており、近寄ったとしても気の弱そうな者は怯えた様子を見せた。
…………ただ、彼らは理玖をというよりかは理玖から見え隠れするナニカに怯えたり警戒したりしている様だったが。
「理玖くん!また明日!」
「また明日ね〜」
「あぁ、また明日」
そうして皆と別れた理玖はしばらく歩いた後、路地裏へと行き自身の影の中へと消えた。
***
ここで理玖の異能力の1つの『群狼』について解説する。
まず『群狼』は理玖の母親である幸子が持っていた異能力で能力者本人を群れの最上位とし、1つの群れという全体が1つの異能力というもの。故に群れの個体数に上限など一切ない。犬科動物の特徴を備え、群れ、連携し、狩りをするまさに1人で一国に匹敵するの軍隊を形成できる異能力である。
幸子の場合は1メートル級のハイイロオオカミに似た異能生命体であり、その狼は平均的な戦乙女1人に対して1匹増えていた。
理玖の『群狼』もこれに似ているが違う点がいくつかある。
まず理玖の異能生命体である『魔狼』は理玖の残り2つの異能力を扱え、魔力を喰らえば喰らうほど成長する。まずは前脚だけの『幼体』から始まり1メートル級の四脚の『成長体』、そこから10メートル級の固有能力と増殖能力を得た『成体』となる。
その魔狼は平均的な戦乙女1人の魔力に対して5匹増えていく。そして愛莉珠の魔力はその戦乙女200人分ある。つまり本契約の1ヶ月の間に最低でも3万匹増えたことになる。
そして現在は愛莉珠1人分の魔力がある肉餌があり、それが魔狼達の魔力供給源となっている。
魔力を喰らえば成長し『成体』になれば1人分の魔力を喰らって5匹増えて更にそれが成長して『成体』となる。……………つまり魔狼は倍々に増えていくというわけである。
────以前の理玖の暴走がどれだけ緊急事態だったのかがよくわかるであろう。魔力を帯びた攻撃や仕掛けが通用せず、魔力を取り込めばその能力を模倣する様になる。喰えば喰う程強く成長し最終的にはその全てが母体となりまた倍に増えて更に喰らい続ける飢えた暴食の群勢。
そんなものが世に解き放たれれば間違いなく破滅に向かっていたであろう。
もっとも、あまり増え過ぎない様に理玖が制限している為、現在は約5万匹まで留まっている。更に群れの最上位である理玖が愛莉珠を信用してマスターと認識しているので愛莉珠にも理玖と同じくらいの命令権を有している。魔力補充の肉餌もあり、余程の事がない限りでは暴走はほぼ無い。
次に出現方法。
理玖と幸子の共通点としてどちらの『群狼』も群れの最上位である本人の影を基点として現れる。また能力者本人の影が繋がっていれば出現場所も広がっていく。
そしてここから2人の違う点だが幸子の場合、狼達の出現と生物以外の物品を収納するのに留まっていたが、理玖の場合はその影の中に入る事ができる。
本人と魔狼と物品のみという制約はあるが使い様によっては擬似的な瞬間長距離移動と物資輸送が可能となる。
欠点は影同士が繋がっていないとできず、また影に潜って移動や運搬する場合あらかじめ出る場所を定めておかないといけない事、更にはこの移動や運搬は本来の用途ではないので体力の消耗が激しいという事、そして魔力を有する物に関しては影に潜む魔狼に喰われてしまう可能性があるということだ。
***
理玖がその影移動でユグドラシル唯一のゲートまで移動し影から這い出ようと上半身を出すとその場にいた誰かによって両脇を抱えられ引っ張り出された。
「おかえりリク!」
その誰かとは案の定、愛莉珠であった。
「………なんでわかったの?」
「勘だよ!」
「あぁ………はい」
愛莉珠の答えに理玖は呆れた様子を見せた。そして愛莉珠はそのまま理玖を持ち替えて自身の顔を理玖のうなじ辺りに押し付けた。
「なにしてんの」
「確かめてるの。……………やっぱりメス猫の匂いがべったり引っ付いてる。しかも以前僕が消した筈の匂いだ。付け直さなきゃ」
そうして愛莉珠は自身の身体を押し付けて犬がマーキングをする様にぐりぐりし始める。
「お前は犬か」
「僕は戦乙女さ。それより今日の夕食の予定は?」
「このまま早く帰る事ができたらおかずがもう一品増える」
「よし急ごう!」
そうして愛莉珠は理玖を抱えたまま帰路に着くのであった。
なんだか物足りない感じがしましたので同日12時に次の話を予約投稿しました