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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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騒動の終息

「…………………………んぅ?」




暖かな日差しが瞼を指して理玖が目を開けるとそこは見慣れているが最近は見る事が無くなった真っ白な天井……つまり病室の天井であった。




「俺……どうしてたんだっけ?」



理玖は身体を起こしてそうぼやきながら病室に備え付けてある洗面台で顔を洗う。何故か身体の方は調子がすこぶる良かった。




「………ん?…………なにこれ」




顔を洗ってさっぱりした後、ふと鏡を見ると自分の身体に妙な変化が起きているのに気がついた。ちなみに理玖は眠りにつく直前の記憶が曖昧になっている。



そうして理玖はぼんやりとする記憶を探りながら病室を出ると見舞いにきたのかちょうど神崎と鉢合わせた。




「……おぉ!目が覚めたか理玖坊!」



「えっと……おはようございます?なんか色々とあったみたいですけど……」



「まぁ、色々あったのぉ。それは後で説明するとしよう。とりあえず部屋に」




神崎はそう言って理玖を病室へと押し戻して備え付けの椅子に座らせた。




「まずはヌシの身体の変化についてじゃ。その体毛の変化や妙な入れ墨みたいなもんはヌシの身体が『極氷姫』の魔力で染まり切った証。つまり本契約の準備が完了したということじゃ」



「ハウンドってみんなそうなるの?」



「なるぞ?わっちも昔はこんな派手な色ではなかったしの。ちなみにわっちの紋章は背中にある。ただ、わっちらみたいにこんなにはっきりとは出ないがの。はっきり出るのは覚醒ビーストのみじゃ。そんで今の段階になれば今まで制御が難しかった異能力も制御しやすくなる。理玖坊も身体の調子が以前よりもすこぶる良いじゃろ?」



「確かに身体が軽く感じるよ。というか本契約ってなんか儀式的なもんでもするの?」



「いや、専用の紙に署名と血印をするだけじゃよ。ただ、これをすると簡単には解約はできんからよく相談せい。…………っと、ここでようやく飼い主のお出ましじゃな」




神崎がそう言いながら病室の端へと避けていく。まるで何かから避けるように。




「飼い主ってそれ『―――――――ィィィィィィクゥゥゥゥゥッ!!!』ッうぉ?! 」




その直後であった。病室の廊下から騒音と奇声が響き、ちょうど病室の前に止まったかと思うと扉が破壊され愛莉珠が理玖目掛けて飛び込んできた。



理玖はその飛んでくる変人を反射的に床に倒れ込む形で避けようとしたが、それよりも早く愛莉珠は彼女の病衣を掴んでベッドにシュート。そのまま壁を蹴って自分もベッドにダイブして理玖が逃げられない様にした。




「よし捕まえたッ!!まずは大人しく吸われろリクゥ!!」



「なにを吸う気だ!?や、やめッ服を脱がすな!」




そうしてある意味暴走状態である愛莉珠は荒い息をしながら理玖の防御力皆無の病衣を脱がしていく。というか引き剥がしていく。




「さぁ!身体は僕の魔力で染まり切った!あとは心のみ!そしてその心も堕ちる寸前ッ!ならば………そのままベッドでファイヤすれば籠絡できるッ!!」



「なんだよその謎な理論はッ?!というか今真っ昼間だし澪姉さん見てるし!!」



「わっちの事は気にせずハッスルすれば良いぞ〜」



「良くないッ!!」



「よし!許可貰ったからそのままファイy─────」




そろそろ理玖が謎の光加工されそうなところまで脱がされたその時、破壊された扉から飛んできた何かに愛莉珠が吹き飛ばされた。そしてそのまま窓を突き破り落ちていった。



ちなみに病室は5階にある。




「無事ですか理玖」




吹っ飛んだ愛莉珠と入れ替わる様にして来たのは夜奈だった。かっちりとスーツを着こなしたまさに外面は『デキる女』である。そして愛莉珠を吹き飛ばした犯人は夜奈で断定である。




「な、なんとか無事……。ありがとう夜奈姉」



「えぇ、どうも。それよりも………無事で良かった。本当に」




そう言って夜奈は理玖を優しく抱きしめ頭を撫でた。




「その………ご迷惑をかけました。ごめん」



「謝るのはこちらの方です。もっと早く対処をしていれば貴女が苦しまなくて済んだ筈ですから……。………というか澪。何故あの変態の蛮行を止めなかったのですか?」



「わっちがアレに肉体戦で勝てると思うのかの?それに少しガス抜きせんとまともに話聞かんじゃろが」



「それでも理玖の貞操が危うい事になっていました。意地でも止めなさい。…………まったく」



「……おい爆弾女。なんで僕とリクの逢瀬を邪魔した!そもそもお前とリクは一体どんな関係だッ!!」




そうして夜奈が呆れた様子を見せていると窓の外に吹き飛ばされた愛莉珠が這い上がり、夜奈に向かってそう叫んだ。




「至って普通の関係です」



「それで通るか!!──リクッ!そいつと一体何の関係?!」




愛莉珠は夜奈からまともな返事が出ないだろうと考え、理玖に向けて聞いた。



対する理玖は夜奈との血縁関係を隠している理由が理由なので愛莉珠に話してもいいか少し悩んだ。別に彼女を信用していない訳ではなく、ただ今まで秘密にしてきた事であるから話すのに僅かながら抵抗があった。



そんな悩んでいる理玖の頭を夜奈は軽く叩いて小さく「話しても問題ありません」と言った。その言葉を聞いた理玖は愛莉珠に向かって簡潔にわかりやすく話す事にした。




「この人、俺の叔母だよ」



「………はい?」




理玖の解答を聞いた愛莉珠は最初彼女が何を言っているのかわからないといった表情を浮かべ、そのあと理玖と夜奈の顔を交互に見比べて、2人の容姿がそっくりな事に気づき、更にそこで夜奈が理玖の母である幸子と瓜二つな事に気づいた。




「………………………………………………………マジで?」



「マジ」



「oh……マジかぁ………」




そう言った愛莉珠は普段から側にいる理玖でも見たことない顔になり、頭を抱えてその場に蹲ってしまった。




「道理でなんか覚えがある筈だよ……。リクの雰囲気が局長そのまんまじゃんかぁ………。え、じゃあ、神崎が持って来てた魔蓄箱って局長の?」



「そうですよ。澪は少食で有り余っていましたから。理玖の成長促進の為に。何か不満でも?」



「いや無い。むしろ助かった。………けど、もうちょっと早めに教えて欲しかったなぁ……」



「当時は私の立場的に色々と面倒事がありましたので。現在でも血縁関係がバレればグラシウス辺りが貴女と理玖を引き剥がしに来たことでしょう」



「あ〜〜………確かに。それもそうか。アイツらなら絶対やったね。まぁ、これでなんでお前が僕のリクにやたら構うのかという疑問は解決できた。というわけでリクを返して」



「拒否します」




愛莉珠の言葉に夜奈は一切の躊躇いもなくそう言い切った。そうして夜奈は理玖を後ろから抱きつく形に抱え直した。




「………柳龍。僕がまだ大人しくしている間に早くリクを返せ」




夜奈の返事を受けた愛莉珠は額に青筋を浮かべ再度忠告する。感情が荒ぶっているのか辺りに静電気が発生して来た。




「ようやく人目を気にせず可愛い姪っ子を愛でる事が出来る様になったのです。もうしばらくこうさせてください。それに貴女は普段から理玖にべったりでしょ?これくらい許容しなさい。あ、あとしばらく理玖は私が預かりますので。これは決定事項です」



「よし戦争じゃゴラッ」




………その後病院内で死んだ魚の様な目をした理玖を抱えたまま何処となく浮ついた雰囲気を醸し出している無表情の夜奈とそれを目のハイライトを消して全力疾走で追いかける愛莉珠の鬼ごっこが開始されたのであった。

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[一言] 夜で二人っきりならOKて…ってコト!?
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