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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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魔狼の狩り《ワイルドハント》〜1

大地を黒く埋め尽くすは何百何千もの鎧の外皮を持つ異形の狼の群勢。2本脚で宙を滑るものや四つ脚で天を駆けるものはもちろん、身体を赤黒い雷で包み込んで放電を繰り返すものや顎の端から青白い燐炎を吐き出して草木を燃やし尽くすものなど様々な形態を有するもの達がいた。



それら全てに共通するのは行く先道中、ありとあらゆる魔獣をその身を余す事なく捕食してある一点を目指して突き進んでいること。



そんな魔狼達の進群を妨害する者達がいた。




「ドラァァッ!!」




炎乃華が威勢のいい叫びを上げ、地面に向かって拳を繰り出すと彼女を中心に地面が広範囲に渡って爆散し、魔狼達は足止めをくらう。




「あぁクソッ!コイツらどんだけいんだよ!!やっぱここは『爆炎』使って……」



「そんなことしたらあの子達が強化されるでしょうがッ!!これ以上面倒くさい状況にするつもり?!」



「なんだと銀髪!?テメェは切り刻む事しか出来ねぇだろが!!」



「ア゛ァ゛?!五月蝿いわ脳筋ッ!!」




そう怒鳴り返す愛莉珠は双剣を用いて魔狼達の襲撃を捌いている。というか何故か愛莉珠のところばかり魔狼達が集結し始めている。




「ちょっと2人ともこんな時に喧嘩しないでくださいッ!!ひとまずはこの進行を止めないと行けないんですよ?!」




ロザリアは喧嘩をし始めた愛莉珠と炎乃華に叱咤しながら自身の武器である2丁の大型グレネードランチャーで魔狼達に向かって対大型魔獣捕獲用ネット弾をぶち撒けていた。



大型魔獣用とだけあって範囲は広く、小さい個体なら十数匹を纏めて縫い付けることができていた。しかし、大きい個体はその巨体に似合わず俊敏で網には捕まらえられずにいた。



……本来こういった状況下ならば広範囲魔術攻撃などで応戦するのだが、何故彼女達がその魔術を使わないのには理玖の3つ目の異能力に関係している。




理玖の3つ目の異能力……それは『魔喰い』




魔力もしくは魔力を有するものであれば一切の制限なく捕食することができる能力である。



ここで言う『魔力を有するもの』というのは魔獣、魔導具、魔力触媒、現存する魔力を用いた魔術……そして魔術師と戦乙女(ヴァルキリー)のことである。



魔力を含む攻撃ならば無効化でき、更に厄介な事に捕食した際にその対象が何かしらの能力を有していた際にはその能力を自らのものに出来るというのだ。



例えば、毒を扱う魔獣を理玖が『魔喰い』で捕食したとする。理玖はその魔獣の毒に蝕まれることは無く、更にはその魔獣が用いていた毒を扱える様になる。また魔術に関しては捕食してもその魔術が使える様になる訳ではなく、その魔術がもたらす効果が使える様になる。



要するに理玖は喰えば喰うほど能力も多彩になり、より強力になるというわけである。そしてそれは魔狼達にも適応する能力である。



つまりここで魔術もしくは魔力を用いた攻撃………この場合は炎乃華の炎を拳に纏わせて当てた瞬間に爆散させる『爆炎』など……を使えば魔狼達に喰われて強化してしまうというわけである。



現在、理玖は魔力が不足して暴走状態にあり、見境なく魔力を含む生物や物を喰い漁りながら1番魔力が集まっているユグドラシルへと向かっているのである。



そしてそのユグドラシルの魔力を喰い尽くしたのであればその次は都市部に向かうであろう。ここ十数年、人々の暮らしに魔力は欠かせない存在となっている。機械や食品などにも込める事もしばしばあり、都市部に住む人々は魔力に染まっているに変わりない。つまり、都市部にあるもの全て魔狼達の標的となるのだ。




「あぁもう!ちょっと神崎!!魔蓄箱まだなの!?もう何十匹か抜けちゃってるんだけど?!」




愛莉珠が通信機に向かって神崎を呼び出して怒鳴りつける。ちなみに神崎は現在、魔狼達の気を引く為の魔蓄箱を掻き集めている最中だ。



魔術の搦手オンリーの神崎は魔狼達にとって格好の餌。しかも理玖の『魔喰い』がハウンドの異能力の一部にまで適応することもわかり、もしそれが神崎の『虚無反転』にも当てはまるとしたらとんでもない事になる。




『いちいち怒鳴らんくてもわかっておるわ!今ありったけ詰め込んで輸送中じゃッ!!もう少しだけ辛抱せい!』



「早くしてよね!!………あぁもうッ!グラウシスの奴、一体リクになにやったのよ!ただの契約の上書きならこんな事になる筈がないのに!」



「おそらく、坊主が暴れるのを防ぐためになんか体力を奪う魔導具を付けさせたんじゃねぇか?確か、魔獣かボイドの捕獲用にそんなのがあった筈だ」



「馬鹿なの?!ほんと迷惑しか掛けてこなかったんだから!精々、リクの腹ん中で踠き苦しめ!!」



「いやそれはどうなんだ……?というか局長どうしたんだよ?」



「局長ならあっちにいますよ。ほら」




炎乃華の疑問にロザリアがある方向に指差して答えた。



その方向には鞘に入れたままの大太刀をバット代わりにしてバスケットボールサイズの手榴弾を魔狼目掛けてフルスイングでかっ飛ばしている夜奈がいた。



一見ふざけている様な感じではあるが命中率はほぼ100%で大型魔狼の鼻先にクリンヒットして魔狼は悶絶している。そして動きが止まった瞬間、周りを巻き込んで大爆発。自作のものなのかやたら火力があり、更に可燃性の液体を仕込んであるのか広範囲に広がり被害を拡大させている。



ある意味魔狼の襲撃よりも大惨事を引き起こしている夜奈に3人は引き気味だった。



そんな時だった。魔狼達が向かう方角……つまりユグドラシルの方から大型車特有のエンジン音が響いてきたのは。



その音の方角を見るとそこには5台の大型トレーラーが魔狼をわんさか引っ付けて爆走して来ているところであった。




「待たせたのぉ!!あるだけ全部持ってきた!!爆破させるから早よ離れろッ!!」



「ひぃぃぃぃ?!?!死にたくない死にたくないぃぃ!!」



「待って置いてかないでレイちゃああああん!!」



「帰ったら絶対に有給取って酒浴びるほど飲んでありますよぉぉ!!いやぁぁぁぁ!!」



「そんな暇絶対ない………貴女方も早く離れてッ!!」




状況が追いついていない愛莉珠達の隣をそう叫びながら走り去る神崎と涙目のレイチェルと宇佐美と日暮。そして身体を叩いて避難を促す縁流。



愛莉珠達も5人に続いて避難しようとした瞬間、背後のトレーラーが一斉に爆発した。その爆発の後、少し経つと花火が弾ける様な音が響き、見てみると赤や青やオレンジといった色鮮やかな閃光が空に向かって昇っており、それに魔狼達が一斉に群がっていた。




「………………神崎と局長、なんで2人揃って爆弾やりまくるのよ。そんなに好きなの?」



「む?楽じゃからに決まっておろう。処理も簡単じゃし。のぉ?夜奈」



「確かにそうですね。弾け飛ぶ様は綺麗です」



「…………もうなんなのこれ」



「………な、なぁ、3人とも?ちょ、ちょ〜〜っと後ろ見てくれへん?なぁ?」



「ん?どうしたのレ……イ………………」




レイチェルの震え声に後ろを振り返ればそこには一際巨大な魔狼が愛莉珠達を見下ろしていた。



体高が10メートルもあり、首元からは赤黒い炎が立髪の様に燃え盛り、黒塗りの鎧の様な外皮はより鋭く凶悪にそして全体に禍々しい赤い光線が走っている。



他の魔狼とは明らかに違うその個体は彼女達を襲う訳でもなく、ただ愛莉珠の事を主(理玖)と同じ紫色の目で見つめていた。そして、その魔狼は少し前屈みとなり愛莉珠へと近づくとただ一声小さく吠えた。




「………あぁ、大丈夫だよ。この子は問題ない。暴走していないみたいだ」




愛莉珠がそう言って顎の下を撫でれば気持ち良さそうに目を細めた。ある程度撫でられると満足したのか魔狼は立ち上がり、小さく唸りながら自分の背中の方を鼻先で示した。




「ん?……あー……乗れってこと?」




愛莉珠の問いに頷く魔狼。そして魔狼は愛莉珠が乗り易い様に膝を曲げて屈んだ。




「……ちょっとこの子の指示に従うけどいいかな?局長」



「構いません。一刻も早く理玖の救助に急いでください」



「わかってるよ。よし!そんじゃ連れてって!」




愛莉珠の掛け声に魔狼は力強く吠えて宙を滑る様に駆けていく。目指すは目的の場所で1番危険でもある理玖がいる所へと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 創作の狼は一匹狼が多いけどやっぱり狼といったら群れですよね! [気になる点] 相手の能力を取り込んで使う系はだいたい下位互換になったり使用回数に制限あるけど主人公の能力は魔力さえあれば制限…
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