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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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定例会議の裏では

定例会議が始まったその直後、理玖は第二特殊闘部隊の区域にある検査室にいた。



理由は理玖の異能力の解析の為である。愛莉珠と仮契約をした最初の頃は魔力が安定しておらず、調べようにも解析結果にブレが生じる可能性があった。



今は魔力が安定して本契約直前ということで本人の異能力を調べることになったのだ。事前に知っておけば万が一暴走した時に対処できる可能性があるからだ。




「──というわけで今日はよろしゅうな理玖ちゃん」



「よろしくお願いしますレイチェルさん」



「そんな固くならんでもええんやで〜。リラックスリラックス」




レイチェルはそう言って理玖の肩を叩く。




「しっかしまぁ…………前も思ったけど身長の割に随分と実っているなぁ。毎日礼華っちに揉まれてるん?」



「これは自前です。…………邪魔で仕方ないですけど」



「まぁ、そんなにデカかったらなぁ。ウチのとこの子もデカいだけの荷物だって言っておったし」



「…………"ウチのとこの子"?レイチェルさん、ハウンドいるんですか?」



「おるよ。ほらあそこでぴょこぴょこやっとるウサギちゃん。おーい!芽依(めい)!」



「は、はーい!」




レイチェルが検査室の奥の方で棚の上の物を取ろうと格闘していた垂れ耳の兎のビーストに呼びかけると兎のビーストは元気よく返事して2人の側に駆け寄ってきた。



芽依と呼ばれた優しくポワポワとした雰囲気のその女性は身長は大体理玖と同じくらいだが、一部の装甲がスイカ並みだった。




「紹介するで理玖ちゃん。ウチのハウンドで衛生兵(コンバットメディカル)の芽依や」



「初めまして理玖さん!私は宇佐美(うさみ) 芽依(めい)です!異能力は『催眠』と『完全治癒』で『催眠』は痛みを和らげたり寝かしつけたりするぐらいしか出来なくて、『完全治癒』は1日に1回だけどんな大怪我でも治すことができます!」




と元気よく自己紹介する宇佐美。癖なのかやたらぴょんぴょん跳ねており、その度にその豊かな胸部装甲が盛大に自己主張する。




「な?エライもん持ってるやろ?ちっさいの好きなもんでも確実に目が行くんや。おまけに本人はちゃらんぽらんやで鈍臭いから、ラッキースケベなことが度々起こるんや」



「あぁ………なるほど。………初めまして宇佐美さん。今日は宜しくお願いします」




レイチェルの囁きに理玖は宇佐美から感じるほんわかとした雰囲気で察した。これは絶対重要な場面でやらかす人だと。




「いいよそんな畏まらなくても。それよりレイちゃん。準備終わったよ」



「おう、わかったで。ほな理玖ちゃんや。そこの装置の中央に座ってな。ほんじゃ芽依さん催眠よろ!」



「はいはーい!それじゃあ理玖さん!検査の為にちょ〜〜とだけ寝ていてくださいね〜。は〜い目を逸らさないでくださいね〜。貴女は段々、眠くな〜る眠くな〜る………」





宇佐美はそう言って円形の装置の中央に座る理玖の肩をがっしりと掴み、目をカッと開いた。その目は先程までの青い瞳ではなく、妖しく輝く紅月の様に真っ赤になっていた。



その目に当てられた理玖はすぐにぼんやりとした表情となり、こっくりこっくりと船を漕いだ後、ストンと眠りについた。



宇佐美の異能力の『催眠』は人を操る様な催眠はできない。できるのは今やった眠らせたり、痛みを和らげたりするだけである。しかし、逆に言えばそれに特化した能力である為、相手の耐性関係なく付与できるというのだ。



欠点はバディであるレイチェルと意識のない者には効果がないという点と催眠の効きが人それぞれである点である。




「さてさて、ちゃっちゃと終わらせるで。理玖ちゃんは覚醒ハウンドやから芽依の催眠がどんだけ効果あるかわからんからなぁ」



「あれ?この子覚醒ハウンドだったの?それじゃあ、16人目かぁ……。ご両親はどんな人なの?」



「元第二特殊戦闘部隊隊長様と副隊長様のや。あんの鬼畜コンビのハイブリッドやからとんでもないで」



「へぇ〜、そうなんだ。私その時はまだいなかったからよくわからないんだけど、すごかったみたいだね」



「すごいってもんやないで。ほんと死ぬかと思っ───お、でたでた。………………あぁ、やっぱりかぁ」




結果が出るまでの間、2人で会話していると軽いチャイム音が流れてレイチェルの目の前にある機材に検査結果が表示された。



検査室で扱われる機材はレイチェルの解析魔法とリンクしている為、彼女の協力が必須なのだ。




「やっぱりって?」



「理玖ちゃんの異能力や。『群狼』と『空想錬金』で1つは化け物狼の群体を生み出して操る異能力でもう1つはそのまんまやな。最後の1つは…………まだ時間がかかるな。まだ顕現しておらんな?」



「その3つ目の能力って出るのに条件があるの?」



「あるって聞いたで?まぁ、人それぞれらしいんやけどな。さてさて………気長に待つとするか。芽依〜。コーヒー淹れてきてくれへん?ミルクと砂糖たっぷりで」



「わかったよ〜」




宇佐美はそう言って検査室を出て行き、レイチェルは椅子に座ってぼんやりとしている。聞こえるのは機械の音と理玖の寝息だけである。



その時だった。



宇佐美が慌てた様子で戻って来た。




「なんや芽依。どなんし─」



「レイちゃん敵襲だよ!!第一のアホが攻めてきた!!狙いは理玖ちゃんだよ!!」



「なんやてッ?!……まずい!今は動かせんよ?!」



「バリケード!バリケードだよ!」




宇佐美はそう言って部屋に置かれてる箪笥や机などを扉の前に置いて外から開けられない様にしていた。レイチェルも宇佐美の報告を聞いてそれに加勢する。その直後、扉の先から爆発音が響き、外から扉を壊そうと何かが叩き始めた。




「やばいやばいやばい!!ほんとなに考えてるんやあのボンボン共!?こんな大事にしたらただでは済まされへんよ?!」




何度かの衝突ののち、ふと扉の外が静かになり外の何かが離れていく気配がした。



諦めたのかと思ったレイチェルだが、扉の外から微かに彼女にとって聞き覚えのあるアラーム音が聞こえてきた瞬間、その顔に焦りを浮かべた。



それはテルゼウス支給品の爆弾のアラーム音だった。




「──ッ?!芽依ッ!!」



「え、なに──うわっ!?」




レイチェルの行動は早かった。



咄嗟に宇佐美を守る様に飛び付いて抱きかかえる。出来るだけ遠くに逃げる様に途中で理玖を回収できるように向かうが、それは間に合わず扉は爆音を上げて即席のバリケードごと吹き飛ばした。



レイチェルと宇佐美はバリケードの下敷きとなってしまい身動きが取れなくなり、理玖は周りにあった装置が壁となって無事だった。



爆発の後、数人の足音が検査室に響き渡る。




「──いました!意識がないみたいです」



「意識がないなら好都合。会議中の今なら外に連れ出せるわ。それでさっさと契約を上書きする。準備は出来てるんでしょうね?」



「はい問題ありません」



「そう。それじゃあ、連れて行くわよ。あんた達は撹乱と妨害よろしくね。しくじるんじゃないよ」



「「はい」」




そう言って今回の襲撃犯であるグラウシスは理玖を抱えて去っていった。





***




〜そして現在〜




愛莉珠に連絡を入れたレイチェルと宇佐美は逃げ回っていた。後ろからはのっぺりとしたデッサン人形と蜘蛛を合体させた見た目のゴーレムが手足をわちゃわちゃさせながら追いかけている。




「なんでウチらばっかりなんや!他に行くとこあるやろがぁあああッ!!」




既に本部のあちこちで戦闘が繰り広げられている。目的は第二特殊戦闘部隊の足止めと時間稼ぎである。グラウシスは愛莉珠と理玖の契約を上書きして力を手に入れようとしている。だが、その上書きは簡単なことではなく特級戦乙女である愛莉珠のなら尚更である。



しかし時間を有すれば上書きできる為、こうして部下に足止めを命じたのである。




「レイちゃん早く倒してよ!」



「無茶言うな!ウチは後衛職で戦いは不得意!そんでもって武器は保管庫の中!だから逃げる!愛犬盗まれてブチギレ姫さん来るまで逃げる!」



「そんなぁ?!」




そんなこんなで逃げ回っていると一際大きな爆発音が響き、2人を追いかけていたゴーレムがまるで糸が切れた操り人形の様に崩れて止まった。



2人は顔を見合わせて、それがゴーレムの術者になにかあったというサインを意味していると決めつけて2人は爆音の場所に向かった。



そしてそこにあった光景は………



真っ白で派手な装飾がある軍服の戦闘用スーツを着た愛莉珠が無言でゴーレムの術者と思わしき人物に馬乗りとなって殴り続けて、周りはそれにドン引きしている光景だった。




「……………な、なぁ、礼華っち?もう、よくない?」



「……………ん?なんだレイか」




恐る恐るとレイチェルが呼びかけると少し遅れて愛莉珠が振り返った。真っ白な軍服は返り血で汚れ、紅眼はハイライトが消えて赤一色である。更には感情を一切感じさせない無の表情であるのがまた恐怖を誘う。




「なぁ、レイ。僕のリクを盗んだのはグラウシスだった?アイツはどこに行った?」



「た、確かにグラウシスやったで。確か外に出るって………」



「そう…………外か。………………ブチ殺す」




愛莉珠はそれだけ言って自身の武器である2本のサーベルを抜き、魔術で飛んでいった。それに続く様に夜奈や炎乃華も後を追っていった。




「「………………」」




残された2人は今回の件をやらかした人物に心の中で合掌した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 3つ目の能力、未覚醒・・・あっ [一言] この人やらかす際に限っては有能なんだろうなぁ、まさに才能の無駄遣い
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