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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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定例会議

その日はテルゼウスの定例会議が行われる為、各支部の代表がユグドラシルに招集されていた。



世界の治安維持とボイド討伐を主とするテルゼウスはユグドラシルを中心に東西南北の支部がある。



北方支部は寒冷地であり、ボイドとはまた違う存在である魔獣が多く生息している。南方支部は担当区域の殆どが海であり、東支部は逆に砂漠地帯で西方支部はボイドの活動が最も活発な激戦地帯である。



そもそもこの世界の気候は『天災』の影響でめちゃくちゃになってしまっている。極寒の銀世界がある場所を境に砂漠地帯に変わったり、海も1年を通して嵐が止まない海域やバレーボールサイズの雹が降り注ぐ海域も存在する。



そんな危険地帯の監視と一般人の安全の為に各支部が配置されているのだ。



そして本日はその支部の代表者がほぼ全員集まって定期報告も兼ねて今後の話し合いをするのである。




***




ユグドラシル中心部に位置する本部の会議室。そこには既に何人かの人物がいた。



まずは愛莉珠。彼女は第二特殊戦闘部隊隊長である為、基本的には定例会議には毎回参加している。ただ、非常に退屈そうな顔でだらけているが。




「随分とつまらなそうな顔をしてますね礼華隊長。なにかあったのですか?」




そう話しかけてきたのは全体的に厚着の軍服を着たホワイトブロンドの長髪を持つ熊系のビーストの女性だった。



彼女は北方支部雪中部隊副隊長のロザリア・エイビスである。本来なら隊長が会議に参加するのだが、今回は予定が合わず代理として彼女が出席してきたのだ。




「いや、いつもつまんないよこんなの。というかなに?急に」



「普段の貴女なら人形みたいに無表情を通しているじゃないですか。それが今は表情を見せていますし」



「僕だって感情くらいはあるよ。……………そんなに変わった?」



「えぇ、目に見えてはっきりと」




ロザリアにそう言われた愛莉珠はふと頭の中に理玖の顔が思い浮かんだ。それで彼女は自分がそう言われたのはほぼ確実に理玖のおかげだと感じた。




「おうおう、なに話し込んでんだオメェら」




そんなガサツな喋りで会議室に蹴りで入ってきたのは全身が古傷だらけの筋肉質なヤクザ風の女性だった。



彼女は西方支部鎮圧部隊隊長の大門寺(だいもんじ) 炎乃華ほのかである。戦乙女(ヴァルキリー)ではあるが、魔術は不得意で出来るのは自身の身体能力の強化や魔力を纏うことぐらいである。しかし、戦闘に関してはまるで災害の如く暴れ回りボイドを千単位で殲滅してきた為、階級は特級になっている。




「ちょっと炎乃華。扉蹴破って来ないでよ。吹っ飛んできたら危ないでしょ」



「別にオメェらなら問題ねぇだろが。それよりなにやってたんだ?」



「礼華隊長の表情が豊かになりましたねという話をしていました」



「なんだ礼華。オメェ仮面被るのやめたんか?」




ロザリアの説明に不思議そうに愛莉珠に聞く炎乃華。実際、以前の愛莉珠は基本無表情で親しい者達の前でも笑うこともなかった。それが最近では僅かではあるが表情が出てきていた。




「いやだからなんで2人してそう言うのかなぁ。ハウンドだよハウンド。ようやく僕も見つかったんだよ」



「ほう!マジか!そいつはめでてぇな!」



「あらあら………それはそれは。一体どのような方で?」




愛莉珠の解答に炎乃華は素直に祝福し、ロザリアは愛莉珠が言ったハウンドについて聞いた。




「元第二特殊戦闘部隊隊長と副隊長の娘さんだよ。名前は大泉 理玖で今はうちの技術班に異能力の解析の為に預けてる」



「あの2人のか?いやあの2人の子供って女顔の坊主1人だけだった筈………………あぁ、そうか。覚醒ビーストか」



「そゆこと。というか知ってたんだ。リクのこと」



「まぁな。たまに会ってたりしてたんだ。流石に西支部には来なかったけどよ。北はどうだった?」



「よく3人で来てましたよ。時折、一緒に訓練したり猟に出かけたり。理玖くん解体上手かったんですよ」



「………………子供になに教え込んでのさ」




そんな風に会話していると夜奈と神崎がやって来てその後を縁流が付いてくる形で会議室に入ってきた。




「定例会を始めます。席に着きなさい」



「南と東とボンボンが来てないけど?」



「南支部は海が大荒れになり東支部は季節外れの大砂嵐に出くわし立ち往生して動けないそうです。ボンボンはもうここには来ません」




愛莉珠の質問に夜奈は淡々と答えた。南支部と東支部の代表が来れない理由は理解できるが、ボンボン………第一近衛部隊副隊長が来ない理由が理解できなかった。それは神崎以外の他のメンバーも同じであった。




「ではまずはじめに。………今日より第一近衛部隊は解散致しました。理由は隊内部の問題行動の多発と隊全体の能力低下からです。再編については各支部から希望者を募り、執行官の審査の下で決定します。所属隊からの移籍についてはそれは本人の意思ということで。───なにか質問は?」



「除隊になった隊員はどうすんの?まさか……全員特戦に移すってことにならないよね?」



「元第一近衛部隊の隊員は全員がその他の支部に振り分けられます。使えるように鍛え上げてください。──他には?」



「問題行動がある奴らはどうしたらいいんだ?前に私んとこ(西支部)に副隊長様御一行が来るっていうお達しがあったが?」



「彼女らは既に降格処分を下しています。中心格である元副隊長は特級から3級へ降格とします。ただ、彼女自身強さに執着を持っている為、最前線に立たせてあげてください。もちろん、貴女自ら"教育"してもいいですよ」



「そのつもりだ」



「それでは次の報告を───」




そうして定例会はつつがなく進行していった。





***





「礼華隊員。少しいいですか」




定例会が終了した後、理玖の迎えに行こうとしていた愛莉珠を夜奈が呼び止めた。




「………なに?」



「ハウンドとの関係は良好ですか?」



「それ神崎に聞けば済む話じゃない?」



「本人の口から直接聞きたいので」



「ふーん………あっそ。リクとの関係は良い方だと僕は思っているよ。リクも僕に懐いてくれているようだしね」



「そうですか………なら、問題ありま──」




その時だった。愛莉珠が持っている携帯が鳴り出した。携帯の画面を見るとそこにはレイチェルの名前が出ていた。




「ちょっと失礼。………なにレイ?急に電話なん」



『礼華っちぃぃぃぃぃぃッ!!良かった繋がった!ごめんなさいマジでごめんなさい緊急事態やっ!!』



「ちょっと落ち着いてよ。なにがあったの?というかそっちうるさくない?」




電話が繋がった途端、電話の主であるレイチェルが焦った様子で叫んでいた。また、奥の方では訓練の時とは違う明らかに争っている様な音が響いていた。




『り、理玖ちゃんが……第一のもんに攫われたんや!!』



「……………はぁ?!」





レイチェルの報告に愛莉珠の叫びが響き渡った。

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