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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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最悪の出会い

「いや〜〜、たまにこうやって派手にお金使うの気持ちいいねぇ!」



「確かにのぉ!やはり素材は活かしてなんぼじゃ!」



買った服を詰めた紙袋を大量に持った愛莉珠と神崎はホクホク顔で店を後にした。一方で後ろからついて行く理玖はなんとも言えない虚無な顔をしていた。



肉体的には問題ないのだが慣れない服の着せ替え人形状態を延々と繰り返され、精神的に疲弊しているのだ。加えて、会計時に見た服の代金が理玖が普段着ている服の値段よりも0の数字が3つ程多く、血の気が引いたというのもある。



そんなわけでもう何も考えず泥の様に眠りたい理玖は2人の後をぼんやりとしながらついて行っているわけだが………ちょうどその時であった。




「──ゲッ?!神崎ッ!リクを隠して!」



「む?なんじゃ急に──っ!理玖坊こっちじゃ!」




先程まで神崎と楽しげに会話していた愛莉珠は何かに気づいて露骨に顔を顰めた後、神崎にそう指示した。指示された神崎は初めは不審に思ったが、愛莉珠が見ている方角に何が来ているのか気付き、理玖を自分の尻尾で包んで隠した。




「ちょっ、な、なにっ?!」



「いいからじっとしておれ!……それと静かにしているんじゃぞ」



「いやだからなん───」



「あらあら、まさか平日にこんな場所で出会うなんてね礼華」




理玖が神崎に対して抗議しようとすると神崎は少し焦った様子で理玖を自身の尻尾に押し込んで全身を隠した。そしてちょうどその時、鼻の奥に突くような嫌な匂いと共にそんな声が聞こえてきた。




「……今日は僕にとっての休日だよ。それに休みの日に買い物をするのは当たり前のことじゃないかグラウシス」




対する愛莉珠は今までで理玖が聞いたことがない程不機嫌そうな声で相手側……燃えるような赤髪に猫を彷彿とさせる碧眼を持つグラウシスにそう言った。



ちなみに理玖は神崎の尻尾で頭まで包まれている為、相手側の容姿などわかっていない。




「それはそうだけど、貴女最近少し休み過ぎじゃない?職務怠慢と言われても知らないよ?ま、戦うことしか能がない蛮族ですから別に構わないよね」



「上から働き過ぎだと言われたからねぇ。有休消化も兼ねてやってるのさ。というか、毎日平和な場所をぐるぐる周るだけのボンボン様方には僕達の大変さがわからないだろうね」



「……これはユグドラシルの治安維持に必要なものよ」



「それなら僕達のは都市と民衆の安全の為に必要だね。そういえば、第一はボイド狩りしないの?戦乙女(ヴァルキリー)はボイド殲滅の為に存在してるんだからさ、特級ならば軽く10匹20匹単身で狩ってきなよ。ねぇ、自称ナンバー2様?」




会話を重ねる毎に周りの空気が重くなっているのは気のせいではないだろう。事実、愛莉珠は目が笑っておらず相手を煽るような笑みを浮かべており、グラウシスは煽りに対する耐性が低いのか笑みを無くして威圧がてら魔力を放出している。



その魔力に当てられた理玖は気分を悪くし少しばかりふらついた。大量の魔力を喰うことに慣れていてもそれ以外ではまだ慣れていないのだ。加えて、グラウシスの魔力と理玖の相性は最悪の様である為、理玖は今にも吐きそうな気分になっている。




「……グラウシス様。あそこ」



「ん?…………ちょっと神崎。その無駄に大きい尾に何を隠してるの?」




その僅かな動きというよりかは不自然に大きくしている神崎の尾を見て不審に思ったのか取り巻きの1人がグラウシスに伝えた。グラウシスもその取り巻きに言われて気づき、興味を示し出した。




「別になぁーにも隠しておらんよ?」



「なら左右に振りなさい。隠してないなら」



「嫌じゃ」




隠しているものを見せるよう指示するグラウシスに神崎は満面の笑みで拒否。その反応にただでさえ愛莉珠の返しに気分を悪くしていたグラウシスはそのまま近づいて見ようとした。それを愛莉珠は近づけさせない様に邪魔をしている。




「邪魔よ!退きなさい!!」



「やなこった。ほらそっちは仕事中でしょうが。さっさと行け」




苛立ちながら叫ぶグラウシスに我慢の限界に近いのか先程までの煽るような笑みを無くしてそう言う愛莉珠。心なしか声色も若干低くなってきていた。



そうした2人の言い争いの途中で理玖は耐え切れずに神崎の尾から出てしまった。




「あ、しまった……」




そんな気の抜けた神崎の声が響くだけで辺りは微かな街の喧騒以外静まり返った。言い争いをしていた愛莉珠とグラウシスも静かになって、愛莉珠は『やってしまった……』と言わんばかりの表情を浮かべ、グラウシスはというと先程までの苛立った雰囲気は消えて理玖を凝視している。




そしてしばらく理玖を見ていたグラウシスはまるで面白い玩具を見つけた子供の様な顔になり……




「ねぇ礼華?あれって貴女のハウンドかしら?」



「………そうだけど、それがどうした?」



「随分と魔力量が少ないのねぇ?それに私の威圧に当てられてるみたいだし。貴女、もしかしてハズレ引いたの?」



「………………」




グラウシスの煽るような口調に愛莉珠の顔から表情が無くなった。周りの空気が明らかに冷たくなっていっている。



神崎もグラウシスの取り巻き達もその異変に気づき、少しでも2人から離れようと後退りしていった。




「どうやらアレと契約を結んだはいいが、力があまり上がらなかった。それどころか魔力量が少ない使い物にならないときた。それならば私が有効活用してあげる。だからそのビースト、私に寄越し───」



【──調子に乗るなよグラウシス】




グラウシスの最後の言葉で愛莉珠はブチ切れた。



背中に太い氷柱を差し込まれた様な強烈な悪寒にグラウシスの威圧が微風に思える程の比べものにならない何もかもを押し潰す物理的な性質を含んだ殺気。



愛莉珠が出す魔力の威圧により空気中の水分が急速に凍結して氷霧が発生し、更には僅かながら放電している。そしていつの間にか手に氷でできた剣を作っており、それをグラウシスの目と鼻の先に突きつけていた。




「僕のことをなんと言おうが勝手にしろ。相手を蔑むことしか能がない家系と金にものを言わせてしか地位を獲得できないお前に何言われようと痛くも痒くもない。…………けどね、リクのことを蔑むならば僕は容赦しない。僕はあまり実家に頼ることはしたくないんだけど、お前を潰すならば僕が持っている権力を全てを使ってお前の家系ごと潰してやる」




燃えるような深紅の瞳には冷徹な怒りの業火を灯したその顔は氷の様に冷たい無表情。まさに『極氷姫』の名に相応しいものだった。



そんな愛莉珠の特大の殺気と威圧を受けたグラウシスはというとその場に倒れ込み泡を吹いて気絶してしまった。当然取り巻きたちもである。




「……………行こうか」




しばらくの沈黙の後、愛莉珠は理玖と神崎にそう言って歩き出した。2人もそんな愛莉珠の後を慌ててついて行くのであった。

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