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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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これから始まる同棲生活〜3

閉じた瞼越しに日の光をうっすらと感じて、理玖はまだ眠たい目を擦りながら欠伸する。



冬が明けて春になってからしばらく経ったといえど、少し冷えた部屋の空気に布団から出る気を奪われたので、窓と反対側に向き直して二度寝することにした。



だが、今度はお腹に違和感を覚えて、ふと目が覚める。直ぐに違和感は無くなったが、辺りには何故か愛莉珠の匂いがした。



そして、その香りが布団からするなぁ、ぼんやり思うと全身を愛莉珠の匂いに包まれた様に感じてなんだか安心する。しかし、寝起きのぼんやりとした頭では危機感が上手く働かなかったので、香りが意味する事に気づけなかった。



そのまま理玖はその謎の安心感に包まれながら三度寝しようとすると先程よりも遠慮しない腹への攻撃が始まり、理玖はは無意識に逃れようとゆっくり身体を後退させる。



すると、後退する身体をガシッと布団の中の誰かに掴まれて布団の中へ一気に引き摺り込まれる。身体をがっちりと固定され、今度は胸の方に何かが張り付いてきた。



流石に目が覚めた理玖が布団を捲るとそこには理玖の胸に顔を押し付けてスーハースーハー匂いを堪能している愛莉珠の姿があった。




「ちょっと大人しくしててね〜……………スゥーーーハァーーー………スゥーーーハァーーー」



「………………おい。朝っぱらから何してんだ」




理玖はその変態の頭を鷲掴みして剥がそうとするが、体勢が悪いのか引き剥がせないでいた。そうしてもたついている間にも愛莉珠はずるずると上の方へと移動して行った。




「いい加減にし……んむぅ?んッー!!」




いい加減、我慢の限界だと怒鳴るために開いた唇は途中で愛莉珠の唇によって塞がれてしまう。更にその柔らかい唇から、熱の籠った更に柔らかい舌が理玖の口に侵入して理玖の口内を蹂躙していく。



先日の魔力補給とは違う、ちゃんとした?キスであった。



逃げようにも、両手で頭を.......というより耳を塞がれてしまい逃げられなくなっており、そして耳を塞がれているせいで、頭に直接口内の音が響いてくる。




「ふぅっ.............あむ.............ん.............」



「んんっ……………んっ…………」




そうしてキスをしていくうちに理玖の抵抗する力は抜けていき、思考も寝起きとはまた違うぼんやりと霞かかって来ていた。



一方で愛莉珠は恍惚とした表情になっていく理玖を見て楽しんでいた。



そして、長い蹂躙は愛莉珠が満足したことにより終わりを告げた。




「んふ〜〜♪おはようリク。そしてご馳走様でした」




朝からそんな調子であった。




***




「それじゃあリク。夕方には帰ってくるからね。買い出しは保護者の『執行官』………日暮と縁流だったけ?その人達と一緒にね?支払いはこのカードでお願いね。それじゃいってきます!」



と朝食(備蓄の菓子パン)を食べた後、愛莉珠は制服姿になって出勤していった。



玄関が締まり、なんとも言えない雰囲気が空間を支配する。昨日は家主である愛莉珠がいたからなんともなかったが、今は理玖1人であり、色々と気になってしまう。



例えるなら借りてきた猫になった気である。




「………………………掃除するか」




理玖は買い出しは午後にして午前中は掃除をしようと考えた。そうして始めた掃除だが、愛莉珠は綺麗好きだった様であまり埃など見当たらなかった。



その為、軽く床を拭く程度で終わらせてからはどこに備品が置いてあるかを確かめに行った。というのも昨日の案内では物置についての説明がなかった為である。



そうして物置を探している最中、気になる扉を見つけた。



その扉は廊下の突き当たりの段ボールが積み上がっている場所の奥にあり、入るには段ボールを撤去しなければならない。それに他の扉や壁に比べて、明らかに最近増設されたといった具合に新しい物である。




「……………」




理玖は段ボールを退けて、その怪しさ満点の扉へと向かった。そしてドアノブに手をかけて軽く引くと鍵がかかっておらず、すんなりと開いた。



そしてその開いた扉の隙間から顔だけ覗き込み…………………………そっと扉を閉めて段ボールを元の位置に戻して見なかったことにした。



何故ならその部屋はお仕置きする気満々とか調教とかする気全開の幼い頃に近所の神社で見つけたピンクの薄い本に出てきたやばい部屋にそっくりであった。



更に極め付けは入り口の目立つ場所に置いてあった段ボールに『りく』と平仮名のネームプレートが付いた首輪が入っていたことである。




(やばいやばいやばいやばいっ………あいつマジの変態だろ!)




理玖は顔を青くして落ち着きもなくリビングでうろうろし始めた。そうでもしなければ気が落ち着かなかったからである。



理玖自身を何がなんでも手に入れて自分だけのものにしたいと言っていた愛莉珠のことである。最終的に確実にあの部屋を使うであろう。



助けを求めようにもできる人物が限られている。1番有力な夜奈の元にはSっ気が強い神崎がいる。きっと事情を聞けば嬉々として参加するであろう………



そうして閉じ込められて『教育』されて最終的に出来上がるのは身も心も愛莉珠(変態銀髪)に従順になった哀れなワンコで………



と丁度の時、来客を告げるチャイム音が鳴り響いた。



理玖は反射的に身体を強張らせ、恐る恐ると言った感じで玄関のドアスコープから覗き込むとそこには日暮がいた。




「理玖くーん、私ですよ〜。礼華さんに頼まれて来ましたよ。一緒に買い出しに行きましょう」



「……日暮さん、でしたか。わかりました。ちょっと待っててください」




理玖は外出用に着替え、昔から使っている買い物袋を持って外に出た。




「お待たせしました」



「いえいえ。………それより理玖くん、なんだか顔色が良くない様に見えますが大丈夫ですか?」



「……大丈夫ですよ。ちょっと朝から色々あって」



「……………………あぁ、なるほど。そうでしたか。………大変ですね」




そうして2人は食材の買い出しに出かけた。




***





ユグドラシルの商業スペースにあるスーパーは業務用スーパーさながらの広さで品揃えも豊富であった。




「今日は何を買うか決めているんですか?」



「お嬢がチーズ入りハンバーグが食べたいって言っていたからその材料。あとは数日分の食材かな?日暮さんは?」



「私は特にありませんね……。一応、荷物持ちと付き添いで来ましたし」



「なんか……すみません」



「いえいえ。私の方から立候補しましたし、それに私の異能力も立場も今の状況に適していますよ」




日暮のハウンドとしての異能力は『収納(ストレージ)』と『鼓舞』である。



収納(ストレージ)』は日暮が触れた対象を中身の物質ごと角砂糖サイズまで小さくできる異能力で制限は自身の体重の10倍まで且つ生きていない物に限られる。しかし、その範囲内ならばどんな物でも持ち運びが可能である。



『鼓舞』は一定範囲内の味方の能力を限定的に底上げするものである。ただし、効き目が出るまで時間がかかる上にその日の体調によって強化倍率が変動してしまう。




「そういえばお嬢が日暮さんと縁流さんの事を『執行官』とか言ってましたけど、役職かなんかですか?」



「そうですよ。戦乙女(ヴァルキリー)にもいくつか種類がありますからね」




そうして日暮は理玖に戦乙女(ヴァルキリー)の種類について説明し始めた。



まず1番多いのが『戦闘騎士(バトルナイト)』。これは文字通り戦闘特化であり、愛莉珠はこの戦闘騎士(バトルナイト)に当てはまる。ちなみに1番民衆の目に留まるのがこの役職。



次に『衛生兵(コンバットメディカル)』。これは小隊に必ず1人はおり、名前の通り怪我の応急処置など後方支援を行う。普段はユグドラシルの病院に勤務しており、理玖が入院中お世話になった看護師や医師はこの役職。



次に『機巧技師(マキアクラフター)』。これは戦乙女とハウンドに必要な備品や武装の開発や修理や製造を行う役職で、最近では災害復興の為に破壊された建物の修復も行っている。ちなみに数は2番目に多い。




「──そして最後に『執行官(ジャッチメント)』は経歴や戦歴などは考慮せずに無作為に選ばれた者によるテストを合格した者のみがなる役職です。権限は戦乙女の強制捕縛及び無力化の許可、一部機密区域以外の全区域の通行許可、外部への無期限渡航です。やる事は治安維持ですかね。戦乙女もハウンドも人ですから間違いだって犯します。それの監視です。あ、ちなみに月に一回抜き打ちテストをしますよ?私と芽衣子は執行官を8年連続で維持しています!……………どうですか理玖くん?」




一通り説明を終えた日暮は理玖に感想を求めた。今は一通り買い物を終え、昼ご飯として2人は近くのカフェに寄っていた。




「どうって言われても………。まぁ、日暮さんと縁流さんが意外と上の役職で優秀だってのはわかりました」



「いやそこですか。というか私たちって下っ端だと思われていたので?!」



「縁流さんはともかく日暮さんはいつもうちに来た時、酒飲んでばっかりじゃないですか」



「…………………自宅だと厳しいんですよ芽衣子が。1日ビール缶1つだけとか足りないんですよ」



「充分じゃないですか?」



「いや理玖くん!酒は満足するまで飲む事に価値があるんですよ!そりゃあ、芽衣子はそれで満足するみたいですが、私は全く足りないですよ!」



「日暮さん落ち着いて」




そうして日暮の愚痴が始まり、それを理玖が宥めた。




***




日も暮れて、辺りの家々には灯りがつき始めた頃に愛莉珠は帰ってきた。




「たっだいまぁーー!!おぉ!いい匂いだね!」



「お帰りお嬢。お嬢が言っていたハンバーグ、今できたから少し待ってて」



「うんわかったよー」




愛莉珠が制服から部屋着に着替える為に寝室へ行き、理玖は残った工程を済まして出来た料理を皿に盛り付けていった。




「おーー……、豪華だねぇ」




と部屋着になって戻ってきた愛莉珠は机に並べられた料理を見てそう言った。




「そうか?あー、でも今までのお嬢の食生活を聞く限りだとそうか」



「たまに友人が来て作ってくれるけど、どちらかというと夜食だったからね。さてさて、それじゃあいただきます!」




そうして愛莉珠は勢いよくハンバーグをぱくついていく。目をキラキラさせ、子供みたいに嬉しそうに食べている彼女を見て、理玖は少し嬉しい気分になった。




「リクどうしたの?笑ってなんか」



「いや、別に。それより味の方は?」



「凄くいい!また作って!」



「わかった」




そうして2人は夕食を食べ終え、理玖が後片付けを愛莉珠は風呂の準備をしてまったりしていた時、ふと愛莉珠が理玖に何気ない雰囲気で聞いた。




「そういえばさ、リク」



「なにお嬢」



「向こうの段ボールが積み上げてある廊下の先にある扉の奥、見ちゃったでしょ」




愛莉珠のその言葉に動揺して理玖は洗いかけの皿を落としてしまった。幸い、割れたり欠けたりはしなかったが、それでも派手な音が鳴った。




「なんでわかったかって顔だね〜?あの箱にはちょっとした仕掛けがあって、詳細は省くけど動かしたりすると僕に連絡がいく様になってるんだよ。ちなみに扉も同じ仕掛けが施してある。空き巣に関してはこのユグドラシルに於いて絶対に有り得ないし、昼間迎えに来た執行官も家の中までは入っていない。つまり、そういう事だよリク。


───さぁ、リク。こっちにおいでよ」




最後の一言だけ、妙に響いたのはきっと気のせいではないだろう。理玖は愛莉珠の言う通りに従って彼女の側に向かった。



愛莉珠はやってきた理玖を強引に手繰り寄せ、そのまま押し倒した。




「別に僕は怒ってないよリク。時期が来ればあの部屋について説明しようと思っていたんだからね。あの部屋はねリクの為に用意したんだ。リクが粗相した時の為に…………ね?」




そう言って理玖の腹の上に馬乗りになりながら、愛莉珠はそっと顔を寄せて、艶かしく舌舐めずりを見せつけた。




「僕の友人の中にはあの部屋の様なものを使って懐柔させたって話もあるけど、僕としてはあまり使いたくはないんだ。もちろんリクが興味があるんなら使うけど………その反応じゃあ、あまり興味ないみたいだね」




愛莉珠が服越しに理玖の胸元に手をやれば、その手に伝わるのはとっくに冷静さを欠いた理玖の鼓動。その時の理玖の顔は涙目で血の気が引いていた。普段垂れ気味の耳も完全に伏せてしまっている。




「そんなに怖がらなくてもいいんだよ。今は"まだ"大丈夫だからね。だけど…………僕の機嫌を損ねたりしたらわからないかもね?」




愛莉珠が嗜虐的な目で見るからに怯えている理玖に向かってそう言った直後、丁度良いタイミングで風呂が沸いたチャイムが鳴った。




「………お風呂沸いたね。一緒に入ろうか」




先程までのドロリとした笑みは鳴りを潜め、そういつもの笑顔で言う愛莉珠に理玖は昨日の様に反論しようとは考えなかった。



自分が自分でいられる様に………

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