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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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ハウンドになって〜2

昼が過ぎて夕方の病院は人がまばらになって来ていた。



「……………………」



病院の休憩所の様な場所で理玖は1人白く燃え尽きていた。理由は先程の身体検査という名の蹂躙であった。



理玖も最初は普通の身体検査だと思ったのだが、凄まじい勢いで揉みくちゃにされて心身共に疲弊してしまった。




「あ〜りゃりゃ……、燃え尽きて白くなっちゃてるよ………。おーい?大丈夫かリクー?」




いつの間にか来ていた愛莉珠に顔をペチペチを叩かれても無反応な理玖。




「おーいリクちゃんやーい」



「………………………………なに?」



「お、気づいた。大丈夫?」



「これが大丈夫に見える?」



「いや全然。あそこって殆どあの女狐の私物になっているから中は変態趣味全開のやばい玩具だらけの魔窟なんだよ。素行の悪い奴とか跳ねっ返りとかをあそこに丸1日ぶち込めばどんな子でも大人しくなるってこと」



「……………確かにそうだった。というかなんで俺が」



「さぁ?この先、リクがなんかやらかしそうだったから釘刺しの意味でぶち込んだんじゃない?…………それよりさリク。どこか2人だけで話しよ?ちゃんとしたお話」




と愛莉珠はそう笑みを浮かべながら理玖に向かって言った。




「ここじゃ駄目なやつ?」



「そうだね。できればふたりっきりで」



「…………じゃあ、屋上か中庭」



「なら中庭だね。それじゃあ行こうかリク」




そうして愛莉珠は理玖を軽々と持ち上げ、病院の中庭へと向かった。




***




病院の中庭は環境保養の為に大きな木があり、それを囲む様に背が高い花壇が植えられている。ちなみに花は鼻が効くビーストに合わせて匂いが強くないものになっている。




「さて、ここなら問題ないかな。では改めて。───僕の名前は礼華 愛莉珠。歳は今年で23でテルゼウスの特級戦乙女に任命されている。得意属性は雷と氷だよ」




と愛莉珠は理玖をベンチに下ろすと理玖に向かってそう自己紹介をした。




「………急になに?」



「なにって自己紹介さ。今日まで落ち着いて2人だけで会話なんてできなかったからね。書類上では君を知っているけど、君自身から聞きたいからさ。さ、ほら」



「……大泉 理玖。歳は17で元男の学生。得意……というか出来ることは料理とか家事全般かな?」



「うん!よろしくねリク」



「………よろしく」




愛莉珠は友好の印として握手を求め、理玖はその手を恐る恐るといった感じで握った。




「さて、さっそくで悪いけど1つ質問いいかなリク?」



「答えられる範囲なら」



「わかった。じゃあ、単刀直入に聞く。───君は、僕を恨んでいるかい?僕は君のあったかもしれない未来を全部潰して一生僕のハウンドに仕立てた。性別を無断で変えられて、二度と戻せないときた。


しかもその一生付き纏う相棒である僕はこんなにも面倒臭い奴ときた。


それについて何かあるかい?」




愛莉珠は先程までの微笑みを消して、理玖に向かってそう聞いた。その吊り目気味の紅眼にはどんな言葉も受け入れるといった強い意志を感じられた。




「自分が面倒臭い奴ってわかってるんだ」



「最初そこ?………まぁ、僕は好き嫌いが激しいし優秀だからね。おかげで友人は少ないし同僚からは妬まれてるんだよ。…………それで?君の回答はどうだい?」



「俺はお嬢の事を恨んでないよ。あれはただ偶然が重なっただけのこと」



「随分と素っ気ないね………。もっとこう、ないの?夢とか目標とか」



「特にない。あっても意味がないでしょ。俺は流れに沿って生きていくだけ」



「……………」




理玖の答えに愛莉珠は真剣な表情を崩して呆れた表情を浮かべた。




「話には聞いていたけど、ここまで無気力とはねぇ…………」



「そんなもんだよ。というか俺が恨んでるって言ったらどうしてたの」



「別に?僕は全て受け止めるだけだよ。罵詈雑言やら暴力やらリクが気が済むまで。なにをされても僕はやり返さない」



「そっちはそっちで狂っているな」



「あははっ、そうかもね。…………でも君は私にとってそれだけ欲しい存在ってことさ」




愛莉珠はそう言って、ベンチに座っている理玖を押し倒した。理玖がなんの抵抗もせずに倒れ込むと愛莉珠は彼女の腰に跨る様にして覆いかぶさった。




「リク。僕はね、君を何がなんでも手に入れて自分だけのものにしたいんだよ。ハウンドとか戦乙女(ヴァルキリー)とかそんなのどうでもいいってくらいね。


君のその視線を独り占めしたいし、その身体も心も僕一色に染め上げたいのさ」




愛莉珠の銀髪がカーテンの様に理玖の顔を覆い尽くし、周りの景色を遮断する。理玖の目に写っているのは紅眼を爛々と輝かせて笑みを浮かべる彼女の顔だけだった。




「1つ……僕が見る夢の話をしよう。これは誰にも話したことのないことだ。


僕はよく同じ夢を見るんだよ。真っ白な空間で僕は当てもなく歩いているんだ。何をしても満たされない空っぽの空洞を抱えて、ただただ歩いている夢。


だけど、その夢に最近変化があったんだ。


ある日、いつものように歩いていたら向こうから1つの群れが見えてきたんだ。


狼の様な生き物なんだけど、生き物じゃない。無機質な鎧の様な外皮の宙に浮く前脚だけのボイドみたいなやつ。その中に1匹だけ違う奴がいた、多分群れのボスなんだろうね。4つ脚で3つ首の鎧の狼、茶色と白の鬣に血の様に真っ赤な目を持った狼。


僕はその狼に近づいてその子の貌を撫でたんだよ。…………そこで夢は終わっちゃった。どうかな?」




理玖はその夢の内容に聞いて驚いた。それは場面は違えど理玖が見ていた夢とそっくりだったからだ。




「その顔……どうやら覚えがあるみたいだね。真のハウンドと戦乙女(ヴァルキリー)は互いに共通の夢を見ることがあるそうだよ。リクはどうなんだい?」



「……………狼になって真っ暗な場所をただ走って、腹が空いて乾いた感覚を満たす為何かを探す夢。仲間は沢山いたから寂しくはなかった。走っていたら最後に誰かがいてその人が撫でてくれた。


…………初めてそこで自分の中の何かが満たされた気がした」



「そっか………。じゃあ、僕と君は視点は違えど同じ夢を見ていたわけだ。…………よいしょっと」




愛莉珠はそう言うと少し身体を移動させると理玖の両脇に差し込んで、そのまま抱き締める形で上体を持ち上げた。



ちょうど愛莉珠が理玖の太ももに跨ったまま、お互い抱き合う格好となる。背丈の差から、彼女の肩らへんに顔を埋める形となった。



愛莉珠はやや背筋を丸めると、理玖の鼻先を肩ではなく自らの首筋に押し当てる。



鼻腔を突き刺すのは僅かな汗の匂いに焼き菓子の様な妙に甘ったるい香り。その香りは理玖の中の何かをゆっくりと満たしていく様であった。




「リク。僕は君が夢で探している自身を満たす何かになろう。どんなに時間がかかっても構わない。だから君も………僕のことを満たしてくれ。頼むよ僕の愛しいハウンド……リク」




愛莉珠は背中に左手を回して上体の逃げ道を潰し、余った右手は頬に添えて、有無を言わさず上を向かせた。鼻先が触れ合い、燃えるような深紅の瞳の中に反射して映し出されるのは理玖の顔ただ一つ。



彼女の頬を撫でる手に感じる優しく慈愛に満ちた感覚。けれども、それには煮えたぎったマグマの様などろどろとした感情が籠められている様に理玖は感じた。




「満たせるかはわからない。…………だけど、お嬢が望むのなら俺はお嬢の側いる」



「そうだね。それがいいね。それじゃあ、よろしくねリク」





そうして愛莉珠は挨拶と言わんばかりにゆっくりと理玖に向かって深い口付けをした。

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