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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第7章
100/181

東支部へ〜4

ちょうど100話目






灼熱の砂漠に囲まれた東支部。



多種多様の鉱石の採掘場としても機能している場所であり、多くの労働者が滞在している。そして鉱石が再生するのを待つ休暇期間になると殆どの労働者は中央へ向かう。



主な理由としては仕事を探す目的なのだが、単に東支部に留まっても他の支部に比べて娯楽が少なく休暇が楽しめないからである。



一面危険な砂漠地帯であり、近場の密林は入れば最後猿にボコボコにされる。その有り余る砂を活用しようにも活用方法が限られている。



残っている労働者は採掘場になんかあった際の対処要員として残っている。当然ながらこれはかなり不人気である。



これはテルゼウスの戦乙女にも言える事で配属されたい支部ランキングで通年最下位を記録しているのが東支部である。ちなみに上位は中央か南支部である。



なお、不人気さは北支部もどっこいどっこいなのだが、北支部の方は魔獣の高級肉がある意味食べ放題な為、それが人気の補強になっている。



そしてそんな娯楽に恵まれない東支部での数少ない娯楽といえば時たま起こる危険性の低い騒動である。



……………そう、今現在起こっている騒動のことである。




***




砂漠の比較的安全な場所に位置する東支部でも砂嵐に巻き込まれる事がある。その時に運ばれた砂は道に積もり、車や走っている人の足を絡め取る。



そんな東支部でスピードを落とさず走っているのは愛莉珠であった。普段の余裕有り気な表情から打って変わって、非常に険しい表情で何かから全力で逃げている様であった。



彼女の後方を見れば、凄まじい砂煙が立ち昇っており、砂煙の奥には無数の赤黒い眼光が見え隠れしている。



それは鎧の外皮を持つ異形の狼の群勢。2本脚で宙を滑るものや四つ脚で地を駆けるもので構成された群勢であり、そしてその先頭を走るのが鎧の魔狼と化したアルファ(理玖)である。



理性などとっくの昔に消え去っており、ただ本能に従うまま目の前の獲物を捕える事しか頭にない。



ただし、理性と共に人としての知能も蒸発している為、彼女のビーストとしての原型に当たる狼の本能と知性しか持ち合わせていない。



それでも群れで行動して獲物を追い詰めるくらいには考えがある様であった。




「ア〝ァ〝!もうッ!!体力無限かよォォ!!」




魔狼の群れに追いかけられている愛莉珠はそう叫びながらスピードを落とさずに路地裏へと入っていく。



………何故空を飛べる筈の戦乙女である愛莉珠が空を飛んで逃げようとしないかというとそもそも出来ないからである。



というのも戦乙女に限らず魔法を扱う魔術師には個人によって扱える魔法の属性が違う。



基本属性から始まりそこから自身の鍛錬により特定の属性が強化されたり新しい派生属性が扱える様になる。



ゲーム風にいうならば初期の職業の『魔法使い』から上位職の『炎魔導士』や『水魔導士』といったものに変わるというもの。



もちろん得意属性以外の属性魔法も鍛錬すれば使えなくはないが、適性のある者と比べるとかなり劣る。



更に得意属性を使う際にも周りの天候や気候に威力などが左右される。煮えたぎるマグマの側で冷たい水を作るのも極寒で湿った大地で燃料もなく火を起こすのが難しい様に魔法も同じことが言える。



そして戦乙女や魔術師が空を飛べる理屈はその各々の得意属性の魔法を使って飛んでいるものである。風ならば風を纏って、火なら周りの空気との膜を作って気球の様に、水ならば宙を泳ぐ様に。



ここで愛莉珠が扱う魔法は『氷結魔法』と『雷電魔法』というもの。



どちらも東支部の気温が高く乾燥している環境では扱いにくい属性である。もちろん魔力に物を言わせてゴリ押すことは可能ではあるが、それだと魔力の消費がエゲツなく魔力切れになった瞬間、捕食者(理玖)にパックンチョされる。




「おい誰かァァァ!!!なんでもいいから助けろォォォ!!!」




東支部に愛莉珠の悲痛な叫びがこだまする。しかし、どの建物もこの大騒動に巻き込まれない様に扉や窓をきっちり施錠しており、その全員が安全圏内で観戦していた。



自ら飢えた狼の群れに飛び込むわけがない。そんな事をするのは余程の勇者か自殺志願者である。




「おい聞いてんのアーミラァッ!!魔力由来じゃない鎮静剤ばら撒けッ!!」



『いや〜、あるけどさぁ?その数落ち着かせるだけの量無いよ〜?』




愛莉珠の叫びにアーミラは街の全体放送で答えた。




「他のちっこい奴らはいいから1番デカいやつにぶっかければいいからッ!!」



『でも〜、愛莉珠ちゃんがその子のお相手してあげれば解決するじゃんか〜』



「ただでさえギリギリだった性欲にブーストかかってんだよッ?!干からびるよ僕がッ!!」



『でも〜、楽しそうじゃんか〜』



「つべこべ言わずにさっさとy──『ガァァ!!』──げぶぅ!?」



『あっ』




先頭を走っていた理玖はアーミラののほほんとした雰囲気にキレそうになった愛莉珠の隙をついて飛びかかり獲物を捕まえた。


魔狼の鎧を纏った理玖は愛莉珠が逃げない様に前脚で押さえつけながら顎で咥えて軽やかな足取りでどこかに向かった。



その間、愛莉珠は動かなかった。彼女の経験上ここで抵抗すれば余計な体力を使ってしまい、バテるのが早くなるのがわかっていたからである。



理玖はそのまま東支部で新しくできたラブホへと向かい、魔狼達に周りの警護を任せると愛莉珠を俵担ぎして中へと消えていった。



………………その後、2人がラブホから出てくるまで3日はかかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 祝100話!
[一言] 遂に食われる側になったか(´-﹏-`;) 血の一滴、骨の髄まで味わって食われるだろうな(⌐■-■)
感想一覧
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