・受験まであとわずか。
試験日まで、あと残りわずか。
俺は日々、その日に備えて、英単語やら数学の公式やらを頭の中に詰め込んでいた。
なのに俺の頭ときたら、てんで空っぽ。
無知もいいところだ。
なにひとつとして覚えられてねえ。
今度大学受からなかったら就職しろと、親から口酸っぱく言われているってのに。
「こいつは呑気でいいよなあ」
うちで飼っている犬のゴンを見ながら、思いを馳せてみる。
犬になったら、さぞや楽な一生を過ごせるんだろうな。
「こいつめ」
すり寄るゴンの頭を撫でたら、目を細くして嬉しがった。
ふと、勉強を再開しようと、何気なく机の前にある窓に目を向けると、寒空の下、猫が一匹庭をかけていった。
「猫もいいかもな⋯⋯でも野良はやだな」
猫が霜を舐めていた。そんな生活は送りたくない。
部屋に視線を戻してゴンを見れば、ストーブの近くに寄ってあくびをしていた。
暖かい部屋で寝転び、鳴けば何の苦労もなくエサが出てくるんだからな。
まったく、いいご身分だこと。
俺は廊下に出た。
吐く息が僅かに白む。
「今年こそは実らせないとな⋯⋯」
浪人生の肩身は狭かった。俺は野良になんかなりたくない。
【パングラム】
実らせろ冬。俺は無知。
猫、外駆けまわり、霜を舐め。
部屋に餌。
犬、暖房機寄って、欠伸する。
【解説】
みのらせろふゆ。おれはむち。
ねこ、そとかけまわり、しもをなめ。
へやにえさ。
いぬ、たんほうきよつて、あくひする。