・跡取り長男。
俺は「家業」を継がない。(「か行」がない。)
俺の家は代々、餅屋を営んでいる。
餅屋、つまり餅や餡、抹茶や煎餅などを取り揃えるスイーツ店。
スイーツって言えば耳あたりはいい。
でもさ、商品は妙に古いラインナップだし、ほら例えば「素甘」。
いまの女子に流行るって!? んなアホな。
素甘なんてインスタ映えしないだろ?
時代は洋なんだよ。和じゃない。
ホイップやちょっぴりビターで、でも甘いそんなスイーツ。
あまーいジュースにもちもちとした歯触り。なあ、タピるって知ってる?
色とりどりのフルーツで、思わず写真に撮ってS N Sに載せたいと思わせるやつをよ〜。
俺はそういうのじゃないとダメだと思うんだよね。
無茶言うなって親には言われたさ。
でもな、俺にだって夢ってもんの一つや二つは持ってるんだぜ。
それは、老舗と言われるうちの店を守って、伝統の味を絶やさないって夢。
そのためにも、ダメな部分はダメと言わないとな。
時代に合わせて改めて、常にニーズを捉えるアンテナってやつを持ってないとさ。
ゆえに俺は家を弟に譲った。
俺は旅に出るとしたのさ。
今はまだ俺は一人前になっていない。
支えられるほどの腕はない。ゆえに俺は家を出る。
立派になれたら絶対に戻る。
それまでは頼んだぞ、弟よ。




