試験官ハロルド
綺麗に整備された石畳の上を颯爽と歩く試験官たち。
統制されたその動きに王立騎士の誇りと尊厳が光る。
白と黒に色分けをされた騎士団たちは今日は身軽な制服を着て、現在行われているそれぞれの試験会場に赴いている。
魔獣と戦闘することを重きにおいた黒い軍服を身に纏っている黒士団。
市民と王家を守ることを重きにおいた白い軍服を身に纏っている白士団。
鍛え抜かれたその体躯。
そしてそれら騎士団を羨望のまなざしで見つめる生徒たち。
今日は、それぞれの重鎮たちが会場の試験監督および試験官として王立騎士学校に集合してくる年に一度の貴重な日でもある。
この、年に一度の王立騎士学校の試験日は、全州から重鎮も集まってくるため試験後はお祭り騒ぎになる。
全州に散らばていた同志たちが一同に王都に集まるのだからそれも頷ける。
また、全州から一次試験に合格した強者たちが試験に参加するということで市民も興味深々だ。
一次試験の合格率は驚くほど低いが、この二次試験はほとんどの者が受かる、顔合わせ程度のものだ。
だからなのか、受ける側も面接をする側も緊張感はあまりない。
今後の騎士学校のそれぞれの科の振り分けのために行っているに過ぎない、軽い顔合わせ。
それが今日の二次試験の意味だ。
と、数分前までの私は思っていた。
そう、数分前に私の元に届けられた、とある学生の書類を見るまでは。
とある試験会場のとある会場にて真っ青な顔をした黒い色の軍服を着た者があわてて団長のいる部屋に駆け込んでいく。
軽い身体測定が行われた後の最終面接会場とされている部屋は全部で5つある。
この黒士団の最高責任者であるハロルドの部屋はその一室で、主に入学後は魔獣対策を学ぶ黒士団を希望する学生が面接に来る部屋である。
その部屋の中心に落ち着いた顔をして座っている、銀獅子と名高い男こそ、黒士団団長、ハロルドだ。
「ハロルド様!こちらです!」
「…試験を受ける二日前に記憶喪失になったという者か…」
「はい…。その…記憶喪失云々より、こちらの…」
部下が青ざめた顔で持ってきた書類に目を通すととある紋章に目を止める。
王立騎士学校では古代魔術が使用されている羊皮紙が正式な書類として認められている。
通常の書類はもちろん、そのような大層な物は使用されていないが生徒の身分証および履歴に関しては犯罪者を抑制するためにも、前もって羊皮紙に記録されるように管理されている。
そこには、一般的には知られていないが、古代魔法によって世間には知られていない自身の犯した犯罪が明るみになり、試験会場に着くなり騎士団に捕まる者もいるほど厳正な物だ。
そこには勿論、逆の功績の履歴も載る。
良い業績も、キチンと古代文字にて自動的に羊皮紙に浮き上がる仕組みだ。
そう、良い業績も。
「なんだ、これは・・・」
私は手元にある、本日試験会場に訪れるはずのキャサリン・ヴィルフリートの身分証の横に浮かび上がった紋章を見つめる。
「…本当に16歳なのか?」
「はい。本人の姿も確認済みです」
信じられないと部下と顔を見合わす。
そう、その身分証の横に浮き上がった獅子の紋章を見つめながら・・・・。
「あの、本物でしょうか?」
…確かに偽物だと疑いたくはなる。
身分証の横に獅子の紋章が浮かび上がるほどの功績を16歳の少女が行ったこととは一体何であろうか。さっぱり見当がつかない。
いや、つくはずがない。
そもそもこの獅子も紋章はここ何年か見たことがない。
王家の者をも凌駕するほどの逸材でなければ、この紋章は浮き上がってはこない。
獅子の紋章が浮かび上がる者は、ベルグマントの一員になる資格も与えられる。
それほどの功績とは?
「とりあえず、会おう。それと、ローレンスも呼べ」
「はっ!」
手元にある羊皮紙を前に頭を抱えた。
明日仕事なんですよ。
行きたくないんですよ。
あー。