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寮の部屋(ローレンス様)


 『二度見』

 それは、一度見ただけでは理解し難い、もしくは脳が受け入れを拒否している状態により確認を二度するよう視覚に指示を出している状態の事。

 二度見。

 そう、僕は今、手元の学園長から渡された寮の部屋分けの名前を確認している所だ。


 入学式が始まる前、今後の人生で重要なクラス分けのテストが行われる。国営のこの学校は入学することが難しいとされてはいるが、その実、入学するまでは自身の持っている元来の素質や能力が高ければそれまでの学力等は度外視され、入学することが出来る。

 これは、それまで魔術や剣術を学ぶ環境に身を置くことの出来なかった辺境の者も能力さえあれば入学することが出来る措置だ。故に、学園に入学出来るその歳になるのを夢見ている辺境の能力持ちの若者も多い。が、残念な事に実際は1/3が、金を積めばそれなりに入学出来る枠が存在していることも否めない。(とはいえ、全く能力のない者は入れはしないのだが)

 そして、それは入学した後のクラス分けテストでも優遇されることが多々ある。

 準獅子の族譜に名を連ねている者。つまりは、先祖に獅子の称号を持つ者がいたという親類縁者の者たちだ。彼らは、準獅子の族譜に名を連ねている事で数々の優遇を受けられる。一族に獅子の称号を得た者がいたというだけで。

 まぁ、それも金を持っている一族に限られるが、彼らは試験を受けるまでもなくA

クラスへの入学が決定されている。


 ローレンスは再び、今度は脳に教え込むように手元の紙をじっくりと見る。

 そして、何度も確認したのちに、その紙に書いてある事が事実なのだという事を理解しようとして、放棄した。

 紙は確かに持ってはいるが、目は遠くを見つめている。

 現在、ネイサンによって生徒に配られている紙は何度見た所でおんなじだ。


 「ん?どうかしたんですか?」

 Dクラスの生徒に寮の部屋割りの紙を配り終え、ローレンスの元に戻ってきたネイサンは今さっき、生徒に配り終えた部屋割りの紙を手に遠くを見つめて動かないローレンスに声を掛ける。

 「…なぁ、ネイサン」

 「はい」

 「…入学することになった王子様の名前ってなんだっけ?」

 「…」

 「なんだよ、そんな目をして」

 「いや、バカなのかなって」

 「おーまーえーはぁぁぁぁぁぁぁ」

 結構な時間を一緒に過ごしたはずのネイサンが呆れた顔をして自分を見てくる。

 「いや、だって、第二王子様の名前を忘れるとかって…はっ!まさか、誰かに忘却の魔法とかかけられましたか?それとも、頭を強く打ちました?はたまた、元々?!」

 「元々ってなんだ、元々って!!」

 「いや、自国の王子の名前を忘れるとかってありえないですよね?元とはいえ白士団長していた人が!」

 「まだ言うか!これだこれ!これ見てみろ!」

 ネイサンに、さっきまでネイサンが生徒に配っていた寮の部屋割りの名前が印刷されているプリントを見せる。

 「さっき、俺が配っていた紙じゃないですか。これがどうかしたんですか?」

 不思議な顔をしてネイサンが紙を受け取る。

 「…同じ名前の生徒がいるみたいなんだよ」

 「誰とです?」

 「だから、王子と」

 「は?」

 「いや、だから、王子の名前が書いてあるんだ!」

 「へぇ…どこにですか?あれ?でも、これってDクラスの部屋割り表ですよね?」

 「そうだ」

 「何故、王子の名前が書いてあるんです?」 

 「お前もバカなのか」

 人の事は言えないとネイサンを冷ややかな目で見る。

 「いやいや、だってありえないですよね」

 「そうだ。王族がDクラスの寮に名前が書いてあるなんてありえないだろう?」

 「ですねぇ。…で、同姓同名の生徒だろうかという事ですか」

 「そうだ」

 「…あれー…でも王家の性って名乗っていいんでしたっけ?」

 「…だよなぁ」

 「で、どこに恐れ多くも第二王子様と同姓同名の方がいらっしゃるので?」

 「…同室の方の名前ってもしかして」

 王子と同室の場所には『キース・パーカー』という名前がはっきりと書かれている。

 「そう…僕の弟だ…」

 「…脳筋だという?」

 「そうだ…筋肉バカの…」

 「・・・・」

 「・・・・」

 二人で、顔を見合わせる。

 「これ、学園長のスペルミスとかじゃないんですかね。ほら、王子様の名前そっくりだけど一字違いの苗字とか」

 「…そうだよな」

 「そうですよ…多分…」


 第一学年の最初のクラスは大変に重要である。

 学園に入る事は、その後の人生も左右する大事ではあるが、それだけではない。入学時のクラスもまた、その後の人生に大きく関わってくるのだ。

 それは、辺境の者たちにはあまり知られていない事だが、城に勤める者、準獅子の族譜に名を連ねる人々、重要な職務に就くものにとっては大変重要な事柄なので、それらのご子息やご令嬢たちは挙ってAクラスに入学できるよう、便宜を図る。

 そして、第一学年のクラス分け名簿一覧は生徒に発表されると同時に城の城門前に張り出されるばかりか、各省庁、そして王族、端やベルグマントまで、その一覧が配られる。

 冒険者や事業を立ち上げるなどになるのであれば、役には立たないが、国の重要な役職に就く気ああるのであれば大変重要だ。

 なぜならば、入学時に入学したクラスはよほどの事がない限りそのクラスのまま卒業することになるからだ。そして卒業後の進路で必ず聞かれるのが卒業時のクラスであるからだ。

 因みに、先ほど生徒に配られていた寮の部屋割りは学園長が作成したものだ。

 Aクラスほど寮の部屋割りに関しては苦労する。Aクラスには名のしれた一族のご子息、ご令嬢が集まっている。寮の部屋は2人部屋だ。故にペアにする人選に苦労するというわけだ。そこでいつの時代からか、学園長がクラス替えの発表の後すぐに寮の部屋割りも決めるという事になっているそうだ。

 良かったと、しみじみ思う。

 自分では、部屋割りなど決められなかっただろうから。

 だからといって…


 ローレンスは再度、ネイサンに渡した紙をせいいっぱい顔から離して遠目でみる。

「ローレンス…紙を遠くから見ても内容は変わりませんよ」

ネイサンに冷静な突っ込みをされたが、確かに書いてある事は変わらない。


 「…うん。印刷ミスだな」

 「そ。そうですよね。それですよ。印字ミス!」

 「だよな!」

 「そうですよ!だって、ありえないですよね?Dクラスに…王子様の名前だなんて」

 そう。ありえないのだ常識的に。

 なったことにしよう。そうしよう。僕はネイサンと共に学園長のミスだという結論に達する。

 「王族でDクラスはありえないもんな」

 田舎者の僕でさえわかる。王族でDクラスはありえない。ましてや第二王子とはいえ、まだ王位継承権がある王子だ。

Dクラスに来るわけがないのだ!

 それに、だ。

 王子の同室だという名前『キース・パーカー』という文字に頭を抱える。

 ミスであってくれよ。本当に!

 何であの弟と王子が同室になってるんだ!

 「それに、王子がDクラスにくるにしても、今のこの時間に来ていないという事はやっぱり学園長の印刷ミス…!!!」


 ネイサンの声が途中で止まり、目線が寮の入り口に向けられる。他の生徒のざわめきが聞こえる。王子だ。王子が来たらしい。

 ネイサンと僕は祈るようにそのざわめきを注視する。Aだ。Aクラスに行くに違いないい。・・・・が・・・・。

 「えー嘘ですよねぇ・・・・」

 ネイサンが小さい声でうめく。ざわめきがこちらに向かってきている。

 そして、Dクラスの寮の廊下に王子様が現れたのだった。


 うん、なんでかな。僕、何かしたっけな。

 白銀の獅子が現れた少女と一般人ぽくはない外見をしたその兄(しかも記憶喪失)。そして、第二王子と同室の弟。全ての要注意人物が何故かDクラスに集結するという謎だ現象に自分の半生を振り返る。

 何かの罠なのか。はたまた嫌がらせなのか。

 うん、よく分からないけど、考えない事にしよう。

 そうしよう。

 僕は、顔を上げて微笑むとこちらに向かって歩みを進めてきた王子に「ようこそ、Dクラスへ」とにこやかに言ったのだった。

 学園長、恨んでやると思いながら。


****************

 「ハロルド様、どうしたんですか?」

 元黒士団長のハロルドが笑いをこらえている姿を見て、目線の先を見る。

 「いや・・な」

 ハロルド様の視線の向こうには、Dクラスの寮がある。先ほど、王子様が少しだけ険しい顔をしながらDクラスへと消えていった姿を思い出す。

 「…何か…楽しんでいますね?」

 「・・・・」

 スッと真面目な顔に一瞬で戻ってしまったが、私は知っているのである。ハロルド様は一見真面目で融通の利かない芯の通った男に見えるのだが、その実態は愉快な事が大好きなのだ。Aクラスの寮割に王子様の名前がなかった事で、特別室に行かれるのかと思っていたのだが・・・・もしかして王子様はDクラスなのかもしれない。

 ハロルド様の笑みを見て、面白い事になっているのを我が主が楽しんでしまっているのが分かり、心配になる。

 果たしてDクラス担当のローレンス様は大丈夫なのだろうか。

 一抹の不安を感じ、ふぅとため息をつくと、もうその場にいなくなってしまった主の元へと歩みを進めたのだった。

 

 


休みになると、眠くて眠くて仕方がないのは何故なんだろうか。

寒いからか。

あいたいとかでなく、寒くて寒くて震える私におこたをください。

ぎぶみーおこたー!

おこたにみかん!いえー!!

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