王子、入学するってよ2
賢王から賢い子供が生まれるとは限らない。
しかし人々は賢王からは賢い子供が生まれると盲目的に信じている。
親と子は別の人間であるというのに。
この国の第二王子として生を受けた私は、今日から王立の騎士学校に入学することとなった。
権力を欲する事無く、人々の平和の象徴としての人生を全うする。それが王族の務めだと日々教えられて育てられた。そして、私は継承権が第二位という事でいずれは王族の系譜から外れ一般人となる定めなのだと言われ、いずれ王族を去る日のためにと勉学や剣術に励むよう指導されてきた。
甲斐あって、私はさほど権力を欲することもなくただただ平凡な王子として生きてきたと思う。賢者とはいかず、さりとて愚者とも言えず。平凡な私を演じてきた。そして父が崩御するまでこの幸運な境遇を最大限に利用し好きな事をして生きていこうと、王族から去るその日まで好きな学問を究めようと思った。幸いにして小さなころから魔力量が大きかった私は小さな精霊の気配も人より感じる事が出来た。
いずれ王族から去る事が決まっている私や妹は、それが故にとても自由に生活出来ているともいえる。歴代の王が王権を継がせたのが最初に生まれた子だったのも私を自由にした。全ての者の目が、私はいずれ王族の系譜から外れる者として扱っていた。
正直、小さいころは腹立たしくもあり、反抗していた時期もあったがそのうち、慣れてしまったという事もあるが自由に動ける事のありがたさを知った。
小さいころからの興味といえば、200年前に突如として我が国から姿を消した大精霊たちだった。
幸いにして小さなころから国の禁書も読むことが出来た私は、ひたすらに消えた大精霊たちの事が書かれている文献に目を通した。童話から史実まで、それこそあらゆる文献を。古代語もマスターし、保存状態の悪い文献を研究者たちと一緒に修繕しつつ、知識を深めていく作業は私にあっていた。
果たして、言い伝えられているような悪い魔女が嫉妬に狂い大精霊たちと共に消えてしまったのだろうかと。
悪い魔女かは分からないが、当時のこの国には確かに『叡智の大魔法使い』と呼ばれる魔女がいたことは色々な文献に書いてある故、確かに存在していたことはわかってはいる。残っている文献は全てこの魔女の所為で大精霊たちが姿を消したのだと書かれていた。が、果たして叡智の大魔法使いとまで言われた彼女がそのような愚行を犯すのだろうかと。
叡智の大魔法使いの名は当時知れ渡っていたようであるのにも関わらず、文献にはこぞって彼女の悪事しか綴られていない事も気になった。彼女は果たして何者だったのか、どのような愚行を犯したが故、現在も小さな子どもまで知る嫉妬に狂った悪女として名をはせたのだろうか。もしや皮肉が故に叡智の大魔法使いと人々は呼んだのか。いまとなってはもはや正確なところは分からない。
ただ、私はあこがれる。
そう、最大の国の根底を揺るがす悪事に手を染めたのだとしても。
彼女のその存在に、賢者だったのであれ、愚者だったのであれ、大精霊たちをそれほどまでに支配できた彼女に。
恋焦がれているのだ。そう、200年たった今でも。
賢者と言われた悪女に。
自国でも最悪の魔女と言われる彼女の事が、他国でも記述があると知った私は隣国へと留学を決意する。勿論、魔石工魔術の研究も兼ねてだが。
そんな中、大精霊たちが姿を現したという知らせが入り、現在に至る。
私の師であり、ベルグマントにも名を連ねている恩師、そして父上から夜空に上がった大魔法の件、白銀の獅子の紋章が記されている少女の話を聞き、即座にその少女と同じクラスでの編入を希望した。
胸が躍った。
講堂の壇上で光り輝く二人を見たときは息が止まった。
ほかの者は分からないのか?
彼らを取り巻く精霊の祝福の多さを。
さぞかし、彼らは力のある者に違いない。今のところ、白銀の獅子も紋章と夜空に浮かんだ大魔法の関係や彼女の兄という尋常ではない風体と、大精霊が戻ってきた因果関係は分かってはいないのだがベルグマントの最高責任者を務める方が「彼らを怒らせてはいけません。彼らはこの国のみならず世界の大切な者です」という言葉を告げたという事から、彼らが何かしらの鍵を握っているだろうことは分かる。
どのような魔法を使うのか。
そしてどのような剣技を見せてくれるのか。
今から楽しみで仕方がない。
歴代の名のある騎士や魔術師が通い伝説を作ったこの学校。200年前の史実や魔術の研究に興味があったためこの学校に通うとしたら魔術学校の方だとばかり思っていたのだが。
彼らと共に学べるのであれば騎士学校でもいいとさえ思える。
Aクラスには確か、かの有名なジャクソン家の令嬢や名のある貴族の令息も通うと聞いている。王族の系譜から外れた際、彼らと共にこの王国のために働くのも悪くない。そう思いながら、私はAクラスの者の名前に一通り目を通す。
知った名前がちらほらと連なっている。
魔術学校のAクラスも錚々たるメンバーがそろっていた。
私はニコリと微笑み、講堂を後にした。
そして私はこの後、『彼らと同じクラスで頼む』と言った事を後悔することになるとは思いもしないまま。
「Dクラス…だと…?」
「あ、そうなんですよー。王子も同じDクラスにしておきましたからね」
あ、お久しぶりです!師匠!と声を掛けようとした王子に笑顔で学園長が衝撃の事実を告げる。
「は?D?」
「ええ!Dクラスです。私、王族でDクラスに入学される方を歴史上はじめて見ますので、とても楽しいですねぇ」
「え?…師匠?ちょ…?」
「皆さん、Aクラスに入られますから~。初のDクラス所属の王族!とてもいいと思いますよ!常識を覆す感じで。流石、私の弟子なのにこの学校に入学しないでさっさと隣国に留学した王子は一味違います!ええ!」
「…え、D?…今、師匠、Dクラスっていいました?っていうか、師匠・・・いや、学園長、話を聞いてください」
「あ、ちなみに。この第一学年のクラス発表なんですけどね…国がお金を出しているんで…」
「?…出しているんで何ですか…」
「この学校に入学される前に隣国へ留学されていた王子はご存じないかもしれないんですけどね。王族及び、ベルグマント、そして高位貴族の方々にはこのクラス一覧が名前と共に密やかに、そして大々的に発表されるんですよ。Aクラスからの入学は一種の彼らのステイタスですからねぇ。なので、このクラス替えは結構重要なわけなのでお金でクラスを買われる貴族の方々もいらっしゃるほどです」
「え、そうなのか?」
昔の癖で敬語で話す事も忘れ王子が学園長に聞く。
「そうなのです。長年、それがステイタスになってしまっていて。なので必ずそれらの方々のご子息やご令嬢はAクラスだったものですから、私、長年つまらなかったんですよね。だから今年はとても楽しいんですよ、ええ」
「…ん?!ちょっと待て!」
「歴史上初のDクラスから入学された王子!これは素晴らしい事だと思いますよ!」
「え、いや、はっ!?」
「権力や資金で買うクラス替えなんぞに屈しないというルドガー王子の志!いいです。ええ、いいです」
「いや、ちょっ…私は実力だけでもAクラスだと思うのだが!」
「いやいやいや~。王子~。今更ですよ~。彼らがDクラスだと知っていて、彼らと同じクラスにってわざわざ私に早便でお願いされたんですよね?」
「そんなわけあるか!」
「いえいえ、私は分かっています。王子は自らその長年の悪しき習慣にメスを入れられんですよね?流石です、王子!」
「いや!誤解だ!」
「はっはっは。御謙遜を。分かっています。分かっていますから。私は王子の味方です!祝!Dクラス!はっはっはっは!」
「まてー!!誤解だー!!!!」
祝、Dクラスと言い放った後、笑い声と共に目にもとまらぬ速さで去っていった自分の師である学園長を見送りながら、やられた・・・と膝から崩れ落ちた王子だった。
ルドガー王子、晴れてDクラスからのスタートです。
あーそんなことより、ダメだー最近、やっぱり雨が降る前の日とか無理ー。
あと、肩がバッキバキです。
年々、気圧による片頭痛がひどくなっている気がしております。
で、この間片頭痛に特効薬がっていう記事見かけたんですけれども、わお、欲しいと思ったら注射だったんですよねぇ。
いやぁ、注射は無理ですー。
私、注射、マジ怖いんで。
注射はー無理ですー。
※でも、注射を打たれるときは、がっつり見る派。




