入学式3
数日前、王城内。
「エドウィン、本当なのか」
獅子の間に呼ばれた魔術総長エドウィンは、仰々しく上座に立つ者に膝をおり頭を垂れいつも通りの決まりきった挨拶をする。
と、そんな挨拶はいいからと男はゴドウィンをまぁ座れと椅子を自ら引きエドウィンを座らせ、早く話せと促す。
200年前、とある魔女の所為でほとんどの精霊たちが姿を消し精霊魔法が廃れ、戦に勝機がないと分かるや直ぐに友好を結び、戦の締結を宣言した事は広く知られている事実だ。
当時、精霊たちが姿を消した混乱を収め現在主流となっている魔石工魔術の基盤を作り国に甚大なる貢献をしたと言われているのが現在もその名を轟かせているジャクソン家の祖先である偉大なる魔術師であり、魔石工魔術の父と呼ばれた男だ。
彼は、精霊が消えた国を支えた功労者として現在も銅像がジャクソン家の敷地の直ぐ外に建てられ、現在は観光名所としても有名だ。
彼の銅像にお気に入りの精霊の顔のコインを後ろを向いて投げ入れ、丁度彼の手の中にコインが収まると希望の学校や職に就けるともっぱらの噂だ。
エドウィンはやったことはないが、学生の頃、どうしても魔法省に受かりたいという同期についていった事がある。その時、投げたコインは手の中に入らなかったが彼は希望の職場に受かったのであまり関係がないんじゃないかとは思っている。
その後、大魔法を使える精霊たちが姿を消した事で戦好きだった王が力を失い、反対にベルグマントの力が増し平和な世の中が現在も続いている状態だ。
上座でゆったりと紅茶を飲みながらエドウィンにも、まぁ飲めと勧めてくる王を見ながら、この王だったらまぁ、精霊たちが戻ってきましたといったところででは戦をしてやろうなどとは思わないに違いないと確信している。
現在の王は、政策のほとんどをベルグマントに託している。
いつの王からかは分からないが、彼らは権力に極めて慎重に接しているといっていいだろう。彼の子、王子たちもまたしかり。
現在、王族といえど直系以外は全て王族からは外れる事になっている。ただ、王子たちのどちらかが王になるまでは王族として扱われる。彼らはどちらも王族を外れたとしても生活できるような教育がなされているらしい。ベルグマントなどの古代魔法に縛られている国民はともかく、古代魔法に唯一縛られる事がないとされている王族だからこそ、200年前の王の力が強く、戦ばかり仕掛けていたのかもしれないと歴史の教師が昔言っていた。
現在、王が政策決定の場に出席する事がほぼないので古代魔法に本当に縛られる事はないのかは実際は分からないのだが。
今回、エドウィンが王を訪ねたのは大精霊たちが戻ってきたという話をするためだ。
精霊魔法はすでに廃れており、モノ好きだけが精霊魔法に関する研究をほそぼそと行っている。魔法に使う言語でさえ、精霊魔法と魔石工魔術では全く違う。
廃れた精霊魔法の言語は元は古代魔法から派生したと言われているが、その古代魔法に至っては文献が極端に少ない事から既に読解不可能で実現不可能な魔術になっている。
読むことはかろうじて出来るが、古代魔法そのものを使いこなす事は出来ない。
魔石工魔術を使用する場合、精霊の力を利用しなくとも理論と己の持つ魔力によって発動するため魔力を持つ者であれば努力さえすれば簡単に力が手に入る。が、やはり魔力量には叶わない。幸いにしてエドウィンの魔力量は人並み外れており、かつ魔石工魔術の勉強が己に会っていたものだからこの、魔術総長の座についている。
そして魔術量が多い者には少なからず精霊を感じる事が出来る者が多い。
といっても、あぁ、そこにいるな、とか今力を借りたな。程度のものだが。
それが、である。
数日前に何やら精霊を感じる事が多くなったか?と違和感を感じたと思っていたら、夜空に特大祝福魔法が打ち上げられ、大精霊の力を初めて感じたというわけだ。
以降、魔法省、魔術騎士団等、魔法を主に扱う機関は大荒れで、未だ混乱が続いている。
現在も続く混乱を思うと、この後自分の部署に戻りたくないなぁと目の前の紅茶を見つめながら遠い目をしてしまうエドウィンである。
この獅子の間は精霊たちが王族の濃い気配を感じ、一切入れない部屋だと言われている。
魔術の一切効かないその部屋では、しばしば王との報告のために使われる。
古代魔法も効かず、精霊の干渉も受けず、孤高の者、それが王である。
エドウィンは一口紅茶を飲むと頭を上げ、まっすぐ射貫くようなその瞳を目の前の者に向けながら口を開いた。
「はい。私を含め、精霊を感知できる者であれば現在、その存在が驚くほどに増えている事が分かるかと」
「いつからだ」
「ちょうど、夜空に祝福大魔法が放たれた2日前くらいからの事で。ですが、確実に精霊たちが戻ってきたと感じたのは、夜空に大魔法が放たれたその時であり…面目ありません」
「…ふむ。で、ベルグマントは、どうすると?」
魔術総長エドウィンは、彼にベルグマントの総意及び経緯を慎重に伝えると、上座に座っていた者はしばし上を向きながら考えると、エドウィンに彼の希望を伝えた。
「隣国にいるルドガーに伝えてみてくれ。あの子は精霊魔術に憧れを持っていたから…きっと喜ぶと思う」と。
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「かーしゃまー」
「かーしゃまー」
二人が私を呼ぶ声がする。
可愛い。
精霊は普段は姿を見せず、光や感覚で、あ、そこにいるなぁと思うものだったりするのだけれど、たまに波長がすごく合う精霊はちゃんと姿を見せてくれたりする。
そして上位精霊になればなるほど、人間のような容姿で登場する。
勿論、幼い精霊は幼い容姿で。
そして現在私の周りには、二人の人間の子どもよりは全体的に小さな容姿をした幼子がちょろちょろとしている。
勿論、精霊だから床を走り回るのではなく、飛んだり浮いたり、はたまた転げたり姿を消したりとなんでもありだ。
最近では、彼らも言葉を覚え私の事をお母さんだと呼んでくる。
まぁ…子供、いる歳ですからねぇ。ははは。
とりあえず、可愛いけれど私以外の人前には姿を現さないようにと注意はしている。
そして、決まって彼らは朝の弱い私のために朝7時になると起こしに来てくれるようになった。朝の太陽の光と共に彼らが来るのに私はいつでも寝ていたからだ。
しびれを切らせた彼らが朝の7時に僕らが起こす!と私の目覚まし係をかってでたのだ。
可愛い声で起こされるのかと思い快く承諾したら、えらく怖い思いをすることになったのだけれど、そのおかげで起きられるようになったのだから有難い。
祝福魔法が大のお気に入りで、朝の7時に起こしてくれた後は彼らとこの世界に祝福魔法と防衛魔法をかけるのが習慣になっている。
「かーしゃま?」
「どうした?かーしゃま」
可愛い二人が心配して顔をのぞき込んでくる。
「うん。ちょっと、色々と疲れちゃってねー」
疲れちゃって…そう。疲れちゃったのだ。仲良くなったこの子達にはとても申し訳ないのだけれど…私は、この世界からいなくなろうと思うの!!!
そう力を込めてこぶしを握った瞬間、現実世界へと引き戻されたのだった…。
「うはっ!!」
あっぶない、あぶない。ひ~。
入学式の最中に、熟睡して夢までみちゃったよー。
あー、冷や汗かいた。
にしても…。
あー…よかった。昔の事で。…そういえば、あの仲良くなった可愛いあの子たちはどうしただろう‥‥。200年前、大精霊…というか、お兄ちゃんを呼び出した時はお兄ちゃんの姿に驚いて瞬間的に近くからいなくなっていたなぁ…そういえば。
まさかお兄ちゃんを呼び出して直ぐに転生するとは思わなかったものだから…お別れも言えなかったけれど。
昔の夢を見て、かいた冷や汗を持ってきたハンカチで拭きながらしみじみしていると、突然、周りの生徒たちの反応が変化した事に気付いた。
ざわざわと興奮している空気が伝わってくる。
ん?なんだろう。
悲鳴というよりは、歓声だろうか。
周りを見渡すと彼らは一様に興奮し、顔を輝かせ、どうやら壇上ではなく入り口を見ている。
何かがやってくるようだ。
誰が?
ふと、お兄ちゃんこの状況でも寝ていたりして・・と思い隣を見ると、お兄ちゃんは滅茶苦茶、悪いことでも考えているのかなーという含みのある悪い笑顔をしていた。
…え・・・・精霊にあるまじき笑顔…。
微笑んでいるのに怖いとか…ないわー。
っていうか、何?…誰が今からくるの?
お兄ちゃん、その顔、たぶん人前で見せたらダメなやつだから隠したほうがいいんだけど注意した方がいいのかな。
まぁ、いいか。
凶悪な顔をしているお兄ちゃんはちょっと怖かったのでそのままにしておいた。
笑顔が怖いとか、ほんと、ないわー。
精霊って皆こうなの?ちょっと印象が違うんですけど…。
色々と複雑な心境になりながら皆と一緒に入り口の方を見ていると、更にざわめきが大きくなる。
講堂の入り口に立っていた兵士が扉を開け、外の光と共に人が数名中へと入ってきた、
きゃー!!甲高い、女生徒の声とおおおっという男子生徒の声が混ざり、歓喜の声が講堂に響いている。その中を颯爽とその軍団が魔術学校の生徒と騎士学校の生徒の真ん中の道を一定の速度で歩いてくる。
…誰だろう…。
きらびやかな騎士の服装の二人が前を歩き、その少し後ろにすらりとした青年が後に続いている。
青年の後ろに、さらに二名の騎士が後方を守っているようだ。
…偉い人、なのかな。若いのに。
…いや、同じ年ぐらいに見えるけど実は歳をとっているとか?
それにしても仰々しい。
王子様とかだったりして。
なーんて、そんなわけないかー。
あ!天才魔術師とかそんな人だったり?
わーわくわくが止まらない。誰なんだ!あの人は!確かに容姿だけでみたら女生徒が騒ぐ気持ちもわからないでもないけど、現状、男子生徒も尋常じゃないくらい湧いているんだよねー…。
はて。
彼らはその歓声に笑顔を見せるでもなく、颯爽と歩き集団の中央にいた青年が一人壇上に上がると、自分はルドガー王子だと名を名乗ったのだった。
王子、入学するってよ。
点目になりながら、私はまじかー!!と心の中で声を発したのだった。
王子、入学するってよ。
この一言が言いたいがために入学を許可させました。
なーんちゃって。




