入学式2
あっぶなかったー!!
再びの乗り合い馬車の中で冷や汗をぬぐう。
徹夜明けの危うい状態で乗り合い馬車に揺られて学校を目指していたら、ついうっかり二人とも寝てしまい起きた時はすでに学校どころか中央に位置する城さえも通り越し、見たこともない場所に到着していた状況を今更ながらに思い出して再び冷や汗が出る。
二人であたふたしていたところ、現在隣に座っている可愛い女性が声をかけてくれたというわけだ。
「私は、アイリス。アイリス・リッケントン。よろしくね」
再び乗り合い馬車に乗った我々は助け船を出してくれた女性と一緒に座っている。
真白な手袋をはめた可憐な手が目の前に出される。
笑顔でその手を掴むと更に女性の笑顔がほころんだ。
…わぁ…可愛い…
「えと。先ほどはありがとうございました。私はキャサリン・ヴィルフリートで、隣に座っているのは兄のライオネル・ヴィルフリートです」
「よろしく」
お兄ちゃんが爽やかに握手を求める。
「あ、よろしくお願いします…え?…兄?」
お兄ちゃんの手をつないだままアイリスが目を丸くする。
「あーそうなんですよー。兄弟なんです」
「え?でも、同学年の入学なんですか?」
「え、何でわかるんですか?」
「え、だってその制服の刺繍の色、黒ですから…」
「制服の刺繍?」
「あ、えーと、制服の刺繍の色で学年が分かるようになっているんですよ」
「あ、そうなんですか!」
「はい。黒が新入生。白が二学年、最終学年は銀糸になります」
「へー」
知らなかったー。そんなところに違いがあるとは。
「よく知っているんですね」
「あ。ええ、まぁ…それにしても兄弟そろって同学年での入学なんて仲がいいんですね」
「…」
私は天を見上げる。
うん…仲がいいというかなんというか。
私もまさか一緒に入学するとは思わなかったというか何というか。
「そうなのだ。我々は仲が大変によろしいのだ」
返答に困っていたらすかさずお兄ちゃんが返答をしていた。
「羨ましいです」
「そうだろう。僕のケイトは世界一可愛いんだ」
「んなっ!」
何てことを言うんだ!初対面の女性にー!!!
っていうか、文脈おかしかったですよね?仲いいですねって言っていただけなのに、なんで僕の妹世界一になるのかなー??あーん?
ばっとお兄ちゃんの方に全面的に身体を向ける。
この馬鹿精霊がっ!
ドン引きです。いや、ドン引かれるわっ!
かっと目を開き、変な事を言うお兄ちゃんを睨みつけるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「ちょっとお兄ちゃん、変な事、今度言ったら首を絞めますよ」
「はっはっは。僕のケイトは変な事を言う」
「いや、マジですから」
目で訴える。
「本当に仲、いいんですね」
クスクスと、後ろからアイリスの天使の様な声が聞こえる。
わぁ、天使って本当に存在するんだね、お兄ちゃん。
聞いた?
ドン引くような、言動にも微笑む天使がここに。
ありがとう。あとでこっそり祝福魔法かけます。と心に誓う。
「あ、そろそろですよ」
アイリスが外の景色を見て腰を浮かせる。
よかった。
ほっとしつつ、じゃあ行きますかーと私も腰を上げたところでアイリスが衝撃的な言葉を口にした。
「そういえば、入学式の前にクラス分けの能力テストが行われるんですけど…どのクラスになったんですか?」
「え?」
「あ、実は私、入学が決まってから休学していて…二度目なので自動的に一番下のクラスへの編入という形なんで入学式からの出席なんですけど…今度学校内で会えたらなって思って…」
「え…何の事?」
「…」
「…あの…もしかして…入学式前の、クラス分けのテストの事を忘れていたとかではないですよね…」
自分の事ではないのにアイリスが青ざめた顔で聞いてくる。
え、どういうこと?
忘れていたっていうか。
全く知らなかったといいますか。
え、っていうか、どういうこと?
知らないんですけどー!!!
ちょとどういうことですかー!!!
そんなこと、注意事項に書いてありましたかー!?
頭の中で発狂しながら急いで入学時の書類一式を鞄から取り出す。
え、どれ?どれに書いてあるの?
慌てて資料をバサバサ見ていたらお兄ちゃんが「あ、これか?」と一枚の水色の紙を制服の胸ポケットから出す。
「ちょ、みせて!」
私はお兄ちゃんからその水色の紙を奪い取ると食い入るように文字を読んだ…。
そこには、日程の最後の方に大きく赤い文字で『尚、例年通りクラス分けのテストは入学式の前に行う故、該当の者以外は早めに来るように(なお、特別な理由なくクラス分けテストを欠席した場合は入学を拒否する場合もある)』と書かれている…。
!入学拒否―!!!
えー何てことー!
ってちょっと待って。
「ん?該当の者?」
該当の者はクラス分けのテスト受けなくてもいいの?
あ、我々もそのテスト受けなくていい部類?
ほんの少し期待をしながら該当の者の項目に目を通す。
『下記の者は試験は免除され上位クラスに配属される。
1.特別に入学が許可された者(特待生、および準特待生)
2.一定の寄付を治めた者
3.準獅子の族譜に名を連ねている者
4.諸事情によりクラスが既に決定している者
以上』
水色の紙を持つ手が震える。
二度読むけれど内容は変わらない。
うん、つまりね。
これ…
はい、終わったー!!
これ、私、終わったー!!
1~4の該当、どれも当てはまらないから!
なるほどね、お兄ちゃんは1番だったわけだ。
それで入学式からでいいなと思ったんだね、きっと。
でもね!
私は特待生でもなんでもないですからー!!!
一般人ですからー!
はい、これ、私終わったー!!
『退学』の文字が私の頭を占拠する。
「だ、大丈夫?」
水色の紙を握り締めたまま寄り合い馬車の床に這いつくばるように身体を埋めている私にアイリスが優しく声をかけてくれる。
「えっと・・え?本当に?準獅子の族譜の方々でなく?」
「…準獅子の族譜って何ですか?」
そうよ!
その準獅子の族譜かもしれない!
期待を込めて顔を上げる。
「えっと…獅子の称号や特別な称号を持つ方のご家族の方と親戚の方の事ですけど…え、違うんですか?」
「…ちがいますぅ…」
項垂れる私に「え、どうしよう」と自分の事の様に心配してくれるアイリスにむしろ胸を打たれる私だった…。
「二度書類確認したのに…」
入学式の日程にそんな文字なんてなかった…。
っていうか何でお兄ちゃんその重要書類持っているの。
「ケイト。諦めろ。これは僕の意思だ」
は?
今、上から不思議な言葉が聞こえた気がするー。
ちょ、お兄ちゃん。
退学が僕の意思なんですか?
「大丈夫だ。僕らの行くクラスは決まっている」
え?
今、上から理解不能な言葉が聞こえた気がするー。
どういうこと?
退学じゃないの?
身体を起こすと笑顔のお兄ちゃんが爽やかに宣言した。
「アイリスと同じ、一番下のDクラスだ!喜べ!」と…。
「ちょ・・。お兄ちゃんもう少し丁寧に説明して欲しいんだけど…」
「丁寧にか?」
「うん」
「目が怖いんだが?」
「いいから…」
「いやな、この間、用があってちょっと学校に行ったときになぁ。僕のクラスはAで決まっているって言われてな」
「…うん」
「でも、ケイトはAになれるかちょっとわかんないなーって言われたから」
「言われたから?」
「じゃあ、二人で一番下のDクラスにしてくれって頼んどいたんだ。だって離れ離れになるの、嫌だろう?僕が」
…なるほど。
よく分からないけれど、よかった。
いや、良くないけど、よかった。
クラスが決まっているってことは、テストを受けない該当の者という事で。
4番に該当するってことで!
よかったー!いや、よくないけど。
よかったー!
退学じゃないー!
たとえそれがよく分からないお兄ちゃんの策略だったとしても。
よかったー!!
退学かと思ったー!
あっぶな!
もおおおおー!
よかった!
何だかよくわからないけど、よかったー!
「あの…じゃあ、お二人も私と一緒のDクラスなんですか?」
「そうなるな」
「わぁーよかったー。ね、よかったね!」
アイリスが笑顔で私に微笑む。
うん、よかった。今地獄と天国を味わったところだからより一層、アイリスが天使に見えるよ、可愛いよ。
寄り合い馬車の床からやっと這い上がれた私だった。
最近、お腹の肉がとれません。




