その頃の二人
夜空に大輪の祝福の花が舞った次の日、世の中は昨日の出来事で盛り上がっていたようであるが、私の家の中ではというと…。
「お兄ちゃんー。教えてってばー」
「何を?」
手には先ほど収穫した大きなカブを持ちながらお兄ちゃんがとぼけた顔をして籠の中に入れる。
「羊皮紙ー。私の羊皮紙、何の問題があったのー?」
朝一で、私の羊皮紙に大問題があった発言をした兄は、その内容をあれ以降口にしてくれない。
「…胸に手をあてて考えてみれば分かる」
そういいながら、おお、大きいのとれたーとニコニコしながら農作業をするお兄ちゃん。
遠くではお父さんとお母さんも別の畑の手入れをしている。
我々は二人でカブを収穫するという仕事を承っている。
というか、お兄ちゃんは朝からそのうざったい青白く光り輝く長い髪がうざい。
長くないかな、髪。そう思いつつも、お兄ちゃんに言われるがままとりあえず胸に手を当ててみる。
だがしかし。
胸に手を当てて考えるものの、心当たりはまるでない。
そりゃそうだ。だってここに来てまだ3日だもの。
転生して3日目で一体何をしたというのか。
考える事を止めて手元の青々をした草に手をやる。
ぐっと力任せにひっこ抜くとこれまた大きなカブが地面から顔を出す。
本当にほれぼれするほどのカブだ。
白いカブが太陽の光を浴びてまるで光輝いているようだ。
カブって全体像がこんななんだね、初めてみたよ。
丸々していてとても美味しそう。
カブについた少量の土を払いながらあたりを見渡す。
眼下に広がる素晴らしい畑を見ながらため息をつく。
「…なんだ、どうした」
急に静かになった事を不思議に思ったのかお兄ちゃんが綺麗な髪を揺らしながら近づいてきた。
「…お兄ちゃん、その髪、邪魔じゃないの?」
畑仕事をするには髪が時々地面についたりして汚れが気になる。
精霊だった割りに背が高く、しっかりとした筋肉が付きバランスのとれた体付きの『お兄ちゃん』が長靴をぼてぼて鳴らしながら近づいてくる。
イケメンに長靴及び作業服って、結構レアな眺めだなーと思いながら私はお兄ちゃんの長い髪を指さす。
流石に何もしないのは邪魔だったのか一つに無造作にくくられてはいるが。
それにしても長い。
腰くらいまであるぞ、その髪。
「…これ?」
「そう、その髪。長くない?」
今気づいたとばかりにお兄ちゃんが自分の髪を土のついた手で触る。
「わああー。お兄ちゃん、汚れた手で!」
ぺしっと手をたたくと髪についた土とついでに服についた土を払ってやる。
「…確かに邪魔か…」
うーんと首をかしげると、切ってくれ。とお兄ちゃんは爽やかな顔で自分の髪を掴んで私に差し出してきた。
「え…無理」
「無理とは?」
「いや、無理でしょ普通。人の髪の毛切った事ないもん」
手を横に振りながら迫ってくる兄から逃れる。
いや、無理でしょ。その髪を切れだなんて。たとえ切ったとしてもその後はどう整えればいいのか全然知らない。
前世だって髪の毛は伸ばし放題だ。
ましてや人の髪の毛など切ったこともなければ触ったことすらない。
「切ってくれたら羊皮紙の大問題を教えてやる」
一瞬考えたが、
「切る」
と、私は即答した。
いい条件だったから。
そして遠くにいるお母さんに声をかけるのだった。
「お母さーん、お兄ちゃんの髪の毛切ってー。邪魔なんだってー」と。
お兄ちゃんの顔が驚きで一瞬にして目が大きく開かれる。
「なんだと!?」
「切ってくれって言われたけど、私が切るとは言われてないもーん!」
「なんだと、人間め!これだから人間は!あ、まてこら!」
農作業をしながら、キャッキャと二人で畑を駆け回ったのだった。
そう。
幸せである。
初、畑で駆け回る。
長靴だから足が重いけど。
でも、自由に外を走るのが普通で嬉しい。
遠くでお母さんが「じゃあ、あとでねー」と手を振ってくれた。
じんわりと汗をかく感覚を楽しみながら畑を駆け回ったのだった。
勿論、カブもちゃんと二人で収穫し終えた。
途中から面倒だといいながらお兄ちゃんが魔法を使い始めたけれど。
私は最後まで自力で収穫したのだった。
カブっていうと大きなカブを思い出しますよねー。
あと、カブの漬物。
美味しいですよねー。
カブの漬物。大事な事なので二度いいました。




