兄登場3
人は本当に困った事態に直面すると考える事を止めてしまう者である。
そう、目の前の情報過多な問題を処理することが出来ずに頭の中は真っ白で思考回路がショート寸前どころかショート中である。まさに、今!なう!
誰が?私が!
現在、私の目の前には、透き通るほどの白い肌。そして人とは思えないほどの艶やかな銀髪(しかもほのかに青白く光り輝いている)を持つ、人知を超えた存在が何故か私の頭をその艶やかな手の平で掴むという所業をされ、先ほどから何かを宣われているのだが、他の国に来たのかな?というくらい、頭の中を言葉が素通りしている。
「聞いているのか?」
え?なんて?今、聞いているのか?って言われたの?私。
公定することも否定することもしない私にしびれを切らしたのか、目の前のモノがずいっと私の顔の前にその整い過ぎて逆に恐ろしい顔を近づけた。
「ひいいいいいい」
言葉にならない悲鳴が私の口から洩れているが、いや、怖いだろう。
人間じゃないんだよ、これ。
いや、そもそも呼び出したのは私ですけれどもね。
でも、それだって準備に何年もかかったし一世一代の大魔法だったしで、それなりの覚悟を決めて呼び出したわけです。
だからってわけじゃないけど、一度なら覚悟も出来ていたし願いに必死だったし、あの時、この方、こんなに怒っていなかったんですもん。
でも今、私、なぜか滅茶苦茶怒られているんだよおおお。
この人間ならざるモノに、滅茶苦茶怒られているんだよおお。
顔を近づけたことで、私が涙目だったことに今更気付いたのか『兄』と名乗るその『モノ』は顔を離しながら、頭をがっしり掴んでいた手を緩め、なぜか私の頭をなでてきた。
「ひいいいいい」
「頭をなでたのに何故、お前はさらに悲鳴をあげるのだ。解せぬ」
怒られていたのに突然頭を撫でられるとか、何かの罠ですか?そうですか。
未だ固まったままの私の横に、人外のモノはため息を一つつくとどっしりと腰を下ろした。
「全く、お前は私を呼び出してえらく威勢よく要望を口にしたり、転生が成功したと思ったら心の中で罵詈雑言言いまくる。かと思えば、今度は私に恐れをなすとは。普通は逆じゃないのか思考の順番が」
確かに。
人知を超えたモノがかすかに笑う。
「本当に飽きない。まぁ私も突然お前の兄として登場して悪かったとは思っているが、気を失うのは酷くないか」
ほれ、何とか言え。と言いながら、『お兄ちゃん』が私のほっぺを両手て掴み横に引っ張りだす。
「いひゃいです」
「よく伸びるんだなぁ、人の頬は」
「ひゃめてくだひゃい」
「気分は落ち着いたか?」
「おひひゅいたというか、まだ混乱ひゅうですが」
ふにふにする事に飽きたのか、頬から手を離し、今度は両手で顔を包み込まれた。
何ですか、これ。
これから愛を囁かれる若い男女ですか。
顔が耐え切れないので止めてもらえませんか。
「なるほど、人の肌はもちもちしているモノなんだな」
「私で感触を楽しもうとするのは止めてくれませんか」
真っ赤になっている自覚はある。
いや、だって顔が整い過ぎている。
イケメンには弱いんです。
あわあわしていると両手が離れる。
何かの罠だったのか。
「改めて、私の妹よ。私はお前のお兄ちゃんだよ」
数分にわたって人類の時が止まったであろう瞬間を私は経験したのだった。
兄がねー登場したのねーって話が終わらない。
っていうか、パソコンの調子が滅茶苦茶悪くて打っても打っても即座に反応してくれないからもう遠い目になりながら打ってたー。
パソコン、天から降ってこないかなー。




