私、転生します!
「そんなことでいいのか?」
目の前の人知を超えた存在である者が、明らかにあきれたような顔をして呆けている。
確かに、この存在を世に呼ぶために費やした時間と労力を思えばその言葉も頷ける。
だがしかしである。
私だって幸せになりたい。
全ての時間を人々の生活がよくなる様にと。
そして人々の平和を守れる様にと、それはそれは努力してきた。
故に、私は現在皆から『叡智の大魔法使い』と呼ばれるほどになった。
そして、前々から思い描いていた夢を。
今度は自分のために、自分だけのためにそれまで人々のために使ってきた魔法を使って幸せになろうと使ってみたのに!!!
あ、ダメだ。
涙が込み上げてきた。
目の前の景色が滲む。
ぐっとこぶしを握り締め、私は叫んだ。
「だって!私の運命の人、この世に存在しないんだものー!!!!」
腹から声を絞り出し、涙目の私を目の前の存在が可哀そうな目で見つめていた。
「…そんなに可哀そうな目で見ないでくれますか?」
「…や、すまん」
そうなのだ!
だいぶ年老いたけれども、セカンドライフ的に現役を引退して運命の人と出会って田舎にでも引っ込んで愛する人と共に後の人生をのんびりと過ごすんだーと、運命の相手がわかるという魔法を初めて使ってみたら…みたら…。
「いないってどういうことですかー?」
人知を超えた者が私の真剣な訴えにたじろぐ。
「運命の人がいないって!そんなことありますー?私、今まで他の人のために一生懸命、それはそれは血のにじむ様な努力をして魔法をかけたり作ったりして人生を捧げてきたのに!それこそ他の人の運命の人なんて何人も見つけてあげて、この間なんて、いや、この人には運命の相手なんていないでしょ、無理でしょなんて思っていた人にまで運命の人がいたんですよ!?」
「あ、ああ」
「なのに!私には、運命の人がいない!ですって??」
「…」
「酷すぎる!!」
がしっと腕を掴み、眩しすぎる顔を下から見つめる。
「…」
「わかります。わかりますよ?もう恋愛なんてする年でもなかろうに。とか思っています?」
「い、いや」
「恋愛に年は関係ないんですよ!幾つになってもいいじゃないですか!わかります。運命の人がいない人だってそりゃ何人かはいますし?運命の人だってその後のその人次第で別れることになる人生だって、そりゃあります!でもですよ?」
「…ち、ちかい」
「私、頑張ってきたと思いませんか?」
「お、思う」
「でしょー?だったら!ご褒美!くださいよおおー!!」
掴んでいた腕を離し、その場にうずくまる。
ぐしぐしとみっともなく泣きじゃくる私の姿は他の魔法使いに見せられたものじゃないことはわかる。
弟子になんて見られてしまった日にはもう、一生家から出ないだろう。
でも、もう一人は嫌なんだ。
孤高の魔法使いと尊まれ、人々のために努力して魔法を使えば使うほど逆に人々との溝は深まっていくばかり。
そりゃ、一人で隠居生活もいいかもなぁと思った日もありました。
人生恋愛ばかりでもない。
一人の人生だって、そりゃあ素晴らしいことだってわかっている。
でもさ、もう、寂しいんだよ。
一緒に魔法を学んでいたはずの同志にすら、敬語を使われてしまう毎日で。
そりゃはじめの頃は頑張りましたよ?
敬語なんて使わなくていいよーとか。友達じゃーんなんて。
でもさ、どんどん差が開いていったんだよ。
違う世界の人っていう扱いになっちゃって。
私の魔法のおかげで暮らしが楽になりました。
世の中が平和になりました。
笑顔があふれる度、そりゃあ嬉しかったですよ?でも、その反面、両手から大切なものがぽろぽろこぼれていった。
こじんまりとした小さな部屋がいつの間にか、こんな小さな部屋には住ませられないといわれ、断ったら断ったで偉い人の顔が立たないと怒られて。
だだっ広い屋敷に移り住み、世話をやいてくれる人や弟子が何人も出来。
そりゃ、快適な生活を送らせて頂きました。
若いころの様に食べるものにも困らないし、研究費だって年間、そりゃびっくりするほど頂きました。
そのお返しにと、さらに頑張ってきました。
でも、でもさ。
もう、限界なんだよ。
心が。
ふとした瞬間に涙がこぼれるんだよ。
人々の笑顔を守ってきたはずなのに、いつの間にか自分の心はすり減って限界がきてしまったんだよ。
そんな色んな想いが込み上げて、私は年甲斐もなく久しぶりに大声を出して泣きじゃくった。
泣いて泣いて、スッキリしたなって思ってふと目を開けたら、こんなくだらないことのために呼んだ人知を超えたその存在がとても優しい眼差しで
「よく、頑張ったな」
って頭をなでてくれた。
そして、わかった。と一言つぶやいて。
…私は眩しい光に包まれたのだった…
どこまで書けるか分かりませんが(分らんのかい)頑張ります。
っていうか、次の話を投稿するやり方がわからないんですけど、どうしたらいいですかね。