週末。
ギャグ路線ではありませんーー、たぶん。
「邪魔するでぇ~」
「邪魔すんのやったら帰って~」
「あいよ~……ってーー、ンなワケあるかいっ!」
それは毎週土曜日の午後のやり取りを彷彿させる。
チケットを取るのはじつに難しかった。
とある新喜劇みたいであった。
「日南子ちゃ~ん、茶ぁしばいてくれへんかのう」
じつに輩っぽく、その口ぶりからコテコテの関西人だと。
また、それに対応している人物も慣れた素振りだったのだが。
「おらへんよ~、買い物にいっとるさかい」
「なんや。つまらんのう」
まるで十数年付き添ったコンビネーション。
とにかく仲が良い、ふたりだけで成立する。
そんな仲睦まじい雰囲気が漂っていたが我慢ができずにいた。
「なんじゃい、その言いぐさは!」
付き添っていた下っぱが荒ぶる。
親愛なるアニキに対して。
「お前は黙っとれ!」 「へい、アニキ!!」
一連の動作にムダがない。
いったい、どれほど練習してきたのだろうか。
ここまでが、いつもの工程だった。
黑1色でコーディネートされている。
増してサングラスを外してーー、いわゆる極道だと。
痛々しい目蓋からの斜め傷の跡と、幾重にも重なる額の皺はそのキャリアを示していた。
「でーー、何の用だよ」
いまさら相手するのも面倒臭い、そんな風にも見える。
遊夜は幼馴染みの彼に告げた。
「ちょっとな、困っとるんや。 聞いてくれる~?」
正直、面倒臭かった。
だが、確実に金になると。
そして、長々と愚痴を聞きつつ。
「……さっさと本題に入れよ、長門っち!!」
長門・竈門。
それが幼馴染みの極道ーー、彼の名前だった。
対等なのに偉そうに、どっしりとソファーに座る。
「実はな~……」
そこから先が長かった。
要領を得ない。
「あれ? 長門さん、来てたンだ」
買い物帰りの日南子に気づくフリもしない。
それは作戦だったのだろうか。
「アニィ……良いんですかいのう」
名前すらまだ与えられていない子分の呟きだけが、探偵事務所を通り抜けて。
裏路地にいた猫が、にゃあにゃあ鳴いていた。
桜の花びらが散りゆこうとしている
発情期がまさか、コイツにも来るとは。
遊夜は『夢探偵』としての職務すら棄てる覚悟で。
ただ幼馴染みの失態を楽しみにしている、いわば悪友に成りきってしまっていたのであった。
「ふんふん、なるほどね~」
解決しようにない。
遊びだったし。
ただ、そこから災厄に巻き込まれるとは。
全く思いも寄らなかった。
「うおい!? 次はお前の番だろ!!」
「ちゃうわ! お前やろがい!!」
どうやら、夢の中でも仲良しだった。
その設定が異世界転生などというファンタジー世界だったという。
かなり予測もつかない、ご都合主義な悪夢のようだった。
これはいままでにない。
『夢探偵』とはして、かなりの窮地に立たされていた。




