もうすぐしたら。
随分、可愛がられていた。
特に苦労したことなどはまるでなかった。
成績は優秀で、鏡に映る度に美人だと。
至って順風満帆な日々であった。
自分は皇女ーー、だと。
生まれながらに、そう思っていた
やがて運命のひとと出逢うまでは。
わたしはそうーー、彼と二人きりでいるだけで良かった。
他には何も要らないとさえ。
手を繋ぐことだけで、まるで全部イヤなことが忘れ去られる。
正直、我が儘だったのだろう。
ただ、水城家はそうではなかった。
代々優秀な医者の家系で、常に優秀なDNAを残せと。
常に相手を選ばなければならなかったのだ。
青春なんて、そんな甘い響きなど一滴もあり得やしない。
甘えるなと。
要するに種を残すーー、その為だけの軌跡。
いつか言われた、あの声が厳しい。
喧しい。 …………五月蝿い。
「表面なんか気にするな!」
実力だけが正義なのだと。
いまでも父の厳格な態度は忘れられることはなかった。
母親は見てみぬフリを貫いているし、唯一の兄弟。
仲が良かった兄でさえ一線を引いていたのであった。
これはもう…………
こんな家に生まれたからには、従うしかなかった。
でも、初めて優しく手を差し伸べられた。
彼の手に、どうか非日常に連れ去ってくださいと。
そう、真剣に望んでいた。
たったひとつのーー、過ちから。
嫁ぐ前から逃避行気味なのはいけないとは分かってはいる。
夢ならば良かったと、そう思いつつ。
確実に育んでいる、トクトクと、お腹のなかで。
誰かにも洩らさず。
そしていまや母親になり、どうしようもなくなってしまった。
ただ、毎日が苦痛だった。
我が子の呻き声など耳にしたくない。
過ちだけは犯したくなかった。
一家心中なんて簡単だし、それは逃げ道にしかならない。
ふとした切っ掛けには過ぎないだろう。
せめて少しでも安らげてはくれないものかと。
そうしてーー
『夢探偵』とやらの実力に、期待せざるを得なかった。
頼るしかなかった。
がつん!
突如、意識が途切れる。
それはあまりにも暴力的であった。
水城は心底、呪うしかない。
つめたい壁にずっと寄り添うまま。
ただ今はまだ、その時ではないと。
依頼主を救うにはまだ早い。
遊夜は冷めきったようにしてしている。
これが彼の仕事であり、本気なのであった。
「なるほどね~…………」
もうすぐ重い腰をあげる。
依頼主の要因に、ただなんとなくではあるが。
ここだろうと、目星はついていたらしい。
突っ込まないでくださいっ!
穴だらけですので(爆)