追憶。
ひとつーー、またひとつ。
何重にも重なる扉の鍵を開けてゆく。
正直、常人ならばふたつめぐらいで諦めるだろう。
ただこれは彼にのみ限られていた。
未知の領域へと飛び込む神業であった。
果たしてーー、深層にたどり着けるのだろうか。
ようやく遊夜が飛び込んだ先にあったのは、世知辛い現実というモノだった。
まず最初に朧気に、若草色の景色と桜吹雪が舞い踊る。
まだ、あどけない少女と少年によるーー、まるで青春の真っ只中にいた。
そこから始まろうとしていた。
「ンン…………ぅぅ」
依頼主の呻き声に戸惑う日南子。
もしかして失敗したのではないかと。
ただ、遊夜に絶大の信頼はしている。
「ちょっと~……ちゃんとしてよね!」
寄り添うふたつの身体に、薄手の毛布を掛ける。
それぐらいしか出来ないのが歯痒い。
ただ、助手として。
上手くいくことしか。望みなどなかった。
どうして突如、眠れなくなってしまったのか。
思い当たる節はない。
いつも通りに食事を済ませ、ただ家族のことに従事される日々。
ささやかな家庭を守るということに、生き甲斐を感じる。
ふたりの赤ん坊と、その生命に恵まれた。
それはあまりにも恵まれた環境だった。
代々医師という、旦那から字が託され。
やがて立派な主婦になったとーー、そう誤魔化すように。
ただ安らかに眠りたいと。
特殊なスキルを得た探偵はやがて、そんな彼女の生きざまに吸い込まれるようにして。
今はまだ傍観者のようにするしかなかった。
ここから、依頼主。
水城・菊水。
その彼女の半生に緩やかに付き添うこととなる。
遊夜が『夢探偵』となってからは、わりといつものことではあった。
まったりペースです。
最後までお付き合いくだされば幸いです。