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ウソでも良いからーー、ただ彼女と一緒に居たい。
対峙している目の前の胡散臭い探偵などにはまるで興味などなかった。
「御依頼ですよね!?」
「あぁ……はい。そうです」
ゴリ押ししてくる。
ただ邪魔者でしかない。
だが些細な問題は抱えていた。
解決してくれるならばとーー、ちょっぴりすがる。
捻り出してみた。
「実は……いつも悪夢を見るんです。どうにかなりませんか?」
「ほほう、それはいったいどんなふうに??」
ものすごくシリアスな景色に見える。
カチカチと鳴る時計の針が辺りをじわじわ支配してゆく。
そんなふたりを邪魔しないようにーー然り気無く。
「どうぞ~♪」
カチャ。
香ばしい湯気と、細やかな気遣い。
「……ありがとうございます」
この一杯の為だけに生きているとさえ感じてしまう。
秋野紅葉はいま、至福を噛み締めている。
「ちょっと……、甘くない?」
「え? そうですか??」
彼女が出してくれた珈琲に文句をつけるとか正直考えられなかった。
こいつめ……、スペシャルコンビネーションで仕留めてやろうか。
紆余曲折あったが今でも現役ーー自分はボクシングのチャンピオンだ。
深々と偉そうにソファーですわっている遊夜の顔面を陥没させることはじつに容易い。
ただそんな頃はとうに過ぎて、今や大人であった。
日南子に嫌われたくないというのが本音だったが。
「いつも夢に出てくるんですーー、マリアとかいう女が」
事務所が冷たく、ピーンとはりつめる。
それはついさきほどまで、ふたりで駄弁っていた。
決して関わりたくなかった名前だった。
「それって……こんなひとでした!?」
「あぁ…………たぶんそうです」
日南子は懐から一枚の写真を取り出した。
彼女が荒ぶることはかなり珍しい。
ただ彼女の気持ちも分かる。
遊夜も一緒になって問いただす。
眉間に寄せる皺がものすごく厳しかった。
「いつ。どこで会ったんですか、彼女に!?」
「え~っと……あれは確か…………」
たしかはじめてチャンピオンになった頃だと。
あやふやだが。
煌々と照らすーー、街頭に舞い踊る。
大きな羽と。蛾の鱗粉。
忘れられることのない魔女の微笑み。
「そりゃまぁ、美人でしたけど……」
だが今、目の前にしている日南子には遠く及ばなかった。
☞ ☞ ☞ ☞
「うふふふふ……はてさて……」
撒き餌に釣られて網に掛かることだけ待ち望む。
遥か彼方を見渡す水晶球から、嬉しそうに。
「どうしたんですか? 嬉しそうですねぇ?」
「そうなのよ~♪」
๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐
悪女と魔女の線引きはかなり微妙だった。
やがて罠にハマるだろうとーー、そう確信していた。




