ライラライ。
「まだやれるな!」 「いや、もう……ちょっと……」
「大丈夫だ! お前は絶対チャンピオンになれるんだ!!」
ーー過大評価しないで欲しい。
いままでずっと騙されてきた。
「さぁ、行け!!」
バシッと背中に叩きつけられる張り手の痣は、今や彼の代名詞だった。
「キャー!! 紅葉ぃぃぃ!!」
ただマウスピースを噛み締める。
声援なんてそんなのはいつも、邪魔でしかない。
「じっさい戦ってンのはーー、俺だけだってのに……」
判定勝ちでも、勝ちは勝ちだ。
ボクサーとして一躍有名にはなったが、正直なところ一般人になりたい。 憧れすら抱くほど。
「あ~~~、こりゃイッてんなぁ」
結局、チャンピオンの地位はキープできた。
虫歯でもないのに歯医者さんに予約をする。
それが日常茶飯事になっていた。
ぐらついた奥歯を頬越しに確認しながら帰路に着く途中ーー、見馴れない文字を目にする。
「夢探偵……??」
彼の人生には決して関わることはなかっただろうに、ふらふらと。
こんこん。 扉にやさしく。
「は~い、ちょっと待ってて~」
甘く透き通った声。
ガチャ。
「えぇ~っと…………どちらさまですか??」
こんなに必死に頑張ってきたのに知られていなかった。
ものすごく悔しいーー、だが目の前にいた美少女にトキメキは隠しきれない。
いままで戦ってきた強敵の、その誰よりも抜きん出ている。
むさ苦しい世界ばかりみてきた。
そんな世界に、ひときわ明るい。
「どうした~? 日南子っち…………って、うおっ!!!!」
これが普通の反応だろう。
当事務所のボス、遊夜のそんな素振りなど全く気にせずに。
「自分、秋野紅葉って言います!」
「あ……はぁ、どうも」
「結婚してください!!」
ーー開いた口が閉じない。
日南子はただ食べ終わった食器を返すつもりでいた。
業者さんが来てくれたものばかりだと。
突然イケメンに告白されるなどとは思ってもいやしなかった。
「…………え? 何なの…………」
トキメキは見逃さない。
騙されるな日南子。
お父さん、許しませんよと。
「いったい、どういった御依頼でしょうか?」
遊夜はプロボクサーのチャンピオンにも怯まずにいた。
素手では勝てないとしてもーー。
もうすぐ終わりますけど、お付き合いください。
(^_^;)




