まだ続けたい。
散々手を尽くした結果ーー、裏ワザを使うしかなかった。
あまりゲームには詳しくはない。
ただ幼いころに聞いたことがあった。
今こそーー、その知識を使うべき時だと。
いったい、何度繰り返してきたことだろうか、夢の中で。
最初は一撃で、その次は炎のブレス。
3回目は氷の魔法……まぁ、そこまでは覚えていた。
夢の中で何度もさまざまな生き死にを繰り返すというのは非常に貴重な経験だとは思うーーまるで役に立たないとはいえ。
ただ正直、遊夜の精神力にはもう余裕など殆ど残されてはいなかったのであった。
「おぉ、死んでしまうとはなにごとぢゃ」
何度目だろう。
ちに点々を付けるな、その都度腹立たしい。
だが、その地点に戻ってこれたことに今は感謝するしかなかった。
「長門っち、玉座の後ろだ!」
「よっしゃ、任さんかいっ!!」
「おぉ、死んでしまうとはなにごとぢゃ」
決まった台詞を繰り返す王様の隙をついて、この異世界で盗賊だったスキルを活かす。
ピローン。
効果が発揮された。
『ながとは、かくしかいだんをみつけた』
そこからようやく、ふたりは永かった眠りから醒める。
☞ ☞
「「うおうッ!?」」
下着の隅々までぐちょぐちょに濡れている。
悪夢を見たあとはたいていそうなる。
なぜ男同士で抱き合っていたのかは皆目見当もつかなかった。
「アニキィ! 大丈夫ですかいのう!!」
「あ、遊夜さん、おはようございます」
それぞれ反応は違うが、まず水分補給が大事だろう。
日南子とサブはコップを差し出す。
ただ片方は純粋なお水であったが、もう片方はそれはいわゆる命の水と呼ばれる代物だった。
ゴクゴク、ゴクゴク、ゴクゴクーー、ぷはぁ。
「はぁはぁ……ふぅ……」
「かぁーッ、このために生きとる!!」
「で……これはいったいどういうことなんですか?」
「せやで! ワレが何かしらイヤらしいことでもしよったんちゃうんかいな!?」
いろいろ混雑している。
まさしく混沌。
遊夜はまずこの状況を整理整頓ーー把握しなくてはならなかった。
「日南子ちゃ~ん、ワシとにゃんにゃんしようや~♡」
「いや、おまえ、黙れよッ!!」
この狂ったなかでも冷静だったのが流石、プロというしかない。
いつもは飄々としていてはいたけど、じつは唯一まともな主人公であった。
「くっそーー、いってぇなぁ……」
夢の内容が濃かったせいだったのだろうか。
まだ誰も彼の苦労と疲労ーー、そして確実に蝕まれている。
特殊なスキルを得たからには代償にはつきまとう。
その正体には気付かずに、ただいつものように。
あと数日。
夜を遊ぶ。
彼の物語にーー、ただ寄り添っていた。




