唐突に、それはきた。
不定期にあげます。
「ふわ~あ…………んん~~ん!」
寝癖がひどいが気にしない、自覚がない。
ただ背筋を伸ばしただけで世の女子たちはぎゃあぎゃあ騒ぐだろう。
ボサボサの髪型を掻きむしりながらパジャマ姿のまま。
いわゆるイケメンが郵便受けに手を差しのべていた。
どうせ、今日も何も無いだろう。
この職業に就いてからというもの、まともな稼ぎなどなかったから。
また今日も1日、暇を弄ぶことになるだろうと。
ばさっ。
「いや。いやいやいや~……。こんなの奇跡じゃんかっ!!」
寝ぼけ眼に飛び込んできたーー、真っ当な奇跡が。
「え~っと、なになに?」
朝食を拵えるまえに、食いぎみに依頼内容を確かめる。
ビリビリと封を切り、そこに書かれていたのはかなり切実だった。
「助けてください、今にも夢に殺されてしまいます」と。
待ちに待っていた。
ただの冒頭でこれ程まで刺激されることはなかったから。
『昼過ぎに伺います』とある。
「よっしゃ!!」
思わずガッツポーズをとる。
「ん~、おはよ~、何かいいことあったの?」
「仕事だ、仕事!!」
寝坊助な同居人から、間の抜けた答えが返ってきた。
「ねぇ、遊夜さん。これって引き受けちゃっていいの?」
「当たり前じゃん。こんなの」
まるで得意分野だと言わんばかりに遊夜と呼ばれた彼は顧客と対峙していた。
彼をサポートしている助手に向かってボソボソと。
「いいか? 下手なことは言うなよ」
「いや、そんなことはしないけど……」
「あの~、よろしいでしょうか?」
「ああ、気にしないでください!!」
正直、信じられないだろう。
こじんまりとした事務所の看板にあるのは『夢探偵』と。
小さく書かれていた『あなたの悪夢を救います』と。
「……で、どうなされましたか?」
依頼主に彼は問いかける。
「実は…………ここ数日まったく寝られないんです」
残念美女と言っても良いだろう。
ひどく色濃い目の下の隈とざらついた髪質から。
これは一儲けになると。
そう、高を括っていた。
まだ日が浅い、特殊な探偵の1日がやがて始まる。