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抱かれて転生 影すら残さぬ白銀の河

 長い夢を見ていたのかもしれない。


 今となっては“どっちの世界”が夢だったのか分からないが、イブキは“こっちの世界”で見た最後の夢についてはよく記憶していた。


 光もなければ音もなく、地面すらもない深海に似た空間だった。

 暗闇の中を潜るように進む。意識とは無関係に行動する自分の身体は、どこか少し焦りを感じているようだった。


 その最深部に、彼女は佇んでいた。


 背景と正反対の色をした真っ白な肌とワンピース。なめらかに伸びる銀色の髪、何処か悲しげにこちらを見つめる朱色の瞳。


 何故か彼女の周りだけ、闇が道を開けるように光輝いていた。その姿は神々しくもあり、ひたすらに美しかった。


 彼女はそっと、透き通るような細腕をこちらに向けて伸ばす。


 ーー呼んでる……? あの子が俺を……


 夢の中のイブキは確かにそう感じ取り、彼女の元まで進む。伸びてくる彼女の手を掴むべく、こちらも手を伸ばす。


 手と手が触れ合う直前、彼女の後ろから黒い影のようなものがふわりと布を開くように広がり、その華奢な身体を包み込んでゆく。


「まってくれ……まってっ!!」


 それでも諦めず手を伸ばす。辛うじて残っていた彼女の指先を掴みかける直前、彼女でも自分でもないナニカが、確かに()()()()()叫んでいた。


 ーーそいつに触れるなッ!


 忠告は聞くべきだったか否かは分からない。そもそも夢の中での出来事に、正解や不正解といった概念を考えること自体、おかしなことであるが。


 ただし、黒い影に彼女が呑まれる寸前、ふたりの指先は確かに触れ合っていた。


 忠告を受けて尚、その手を離すことは出来なかった。


 悲しげに映っていた彼女の表情が、こちらが手を伸ばした途端、まるで翼が折れて泣いていた天使が救いを受けたような柔らかい笑みに変わったから。

 夢の中なのに、その時だけはしっかりとイブキが選んでいた。彼女の手を取ることを、彼女をこの影の手から護ることを。


ーー綺麗な手だ……


 雲が退いた後の太陽のような笑顔を彼女は覗かせ、イブキの両手を握る。既に闇は晴れていた。

 下に続いてゆく真っ白な空間につれられながら、イブキはぼんやりと彼女の手を見つめる。


 それ故に、必然的に視界に入る自分の手の異変にはすぐに気が付いた。


下に落ちてゆくにつれ、自分の両手が黒紫色に高質化してゆく。爬虫類のような鱗に塗れ、猛禽類のような爪を持った異形へと変貌してゆくそれに顔を引き攣らせ、驚愕する。


 ーーなんだ……これ……


 黒い龍のような禍々しい両腕の先で少女は笑みを浮かべたまま、その背から巨大な純白の両翼を生やし、なされるがままイブキは抱き寄せられる。


 温もりは感じなかった。それが一連の出来事が夢であることに起因するのかは不明だが、抱かれた途端、徐々に意識が遠のいていくのがわかる。もう目が覚める頃合いなのだろう。


 覚めればいつも通りの生活が始まる。影も、異形の腕も、彼女への想いすらも、所詮“妙に意味深だった謎の夢”として少しの間自分の中で話題になる程度でとどまり、いつも通りの大して面白くも辛くもない一日が始まる……。



 ───その筈だった。




 目覚めた地は見知らぬ森の中。およそ現実世界では考えられないような形をした動植物に囲まれた空間でひとり立ち上がったイブキは、まるで理解も追いつかないままぽつりと呟いた。


「どこだ……ここ」


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