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火の下離れて門超える

最新話削除に関するお知らせ

19話の「罪には甘味 但し赦さず」ですが、本来は20話に更新する予定の話でした。物語の接合性を保つためにも、一旦削除させていただきました!本当に申し訳ございません!


修正後、本来の19話と共に再投稿させていただきます! 今後とも「龍のイブキ」をよろしくお願いします!!

「めぇぇぇぇぇえええええええええんっ!!!!!!!!!!」


「ひぎゃっぴ!!!!!」


 もはや絶叫にも近い“気合い”と純粋な痛みに悶える悲鳴が、いつもの祭壇中に響き渡る。


 ユーミや“あの女性”と別れて一週間の間修行に打ち込んでいたイブキだが、眼前で誇らしげに剣を構えるレイを相手に、未だに勝つことは愚か身体に触れることすら出来ていないようだった。



「くっそ……“這い蹲る黒絨毯”《シャドウ・レイズ》っ!!」


 眉間に響く痛みを押し殺し、龍皮化した右手を影に潜ませる。

 3つの鋭利な爪の形を以ったそれは、レイの身体を覆うようにして発現した。



 過酷な一週間の修行で得た成果のひとつといえば、イブキ初の攻撃技、這い蹲る黒絨毯(シャドウ・レイズ)だろう。

 かつてのメギトに命中させた“影打ち”に改良を重ねた、イブキ唯一の技である。


 戦闘の中でひとつの“技”を使用するタイミングを掴むことが出来るようにまで付き合ってくれたレイにイブキは特別に感謝しており、常にドヤ顔しているのも当然だと思っていた。


 ただ、顔色ひとつ変えずに渾身の必殺技をあしらわれてしまうと苛立ちを隠せなくなってくる。


 身体をターンさせて追尾していた影を躱すレイ。そのままイブキの右脇へと潜り込む。


「やべっ!!」


 急いで右手を戻すも、それすら読まれて居たのか戻った瞬間右手を掴まれる。

 そこからは流れるように脚を崩され、綺麗な大内刈を決められた。


「はいっ! 一本っ!!」


「じゅっ……柔道もできるんすか……先生……」


 息を荒らげ、祭壇の中央で大の字に寝転がるイブキは顔だけを起こして呆れたように呟く。

 んーっ! と伸びをするレイは、鼻高々に答えた。


「ふっふっふっ〜! わたし、かなりの武道マニアですよ? とーぜん! 剣を忘れた時の対策も心得てますっ! あとは…空手も黒帯二段までは行きましたし、合気道も三段! 弓道もやってみたんですけど…む、胸が邪魔になって……」


「聞いてねぇっすよ…そこまでは」


「イラついてますねぇ〜イブキ君っ! でも着実に強くなってますよっ! 先生も鼻が高いですっ!」


「んな事言っても……さっきのだって戦うたんびに通じなくなってくるし……技のバリエーションが違いすぎるっつーか……」


「とーぜんですよそんなのっ! イブキ君が新技(それ)を開発して3日目っ! 流石に最初見せられた時はなんだこれ!? って驚きましたけど……タイミングや方式はバラバラでも“いつか来る”ってことが分かってるんですし、必然的に対策出来ちゃいますよ。問題はちゃんと考えて使えているのか、ですよっ! イブキ君っ!!」


「へ、へぇ……」

 --おっぱいでっけぇな先生……。


 へたり込むイブキの為に前かがみになってアドバイスをくれるレイ。

 その立派に実った胸に視線が吸い込まれてゆくのを気付かれたのか、彼女は口をへの字に曲げて、


「ちゃんと聞いてますっ!? 幾らわたしの実績が凄いからって固まんないでくださいっ!」


「すんません先生」

 --いやおっぱい見てただけなんだけどな……。


 渋々と立ち上がり、尻に付いた汚れを払う。

 闘志の宿ったイブキの瞳を見て、レイは嬉しそうに笑い、


「さっ、もう一戦っ!」


「……そこにいたか」


 向かい合うふたりの間を押し退けるような“圧”のある声が響く。

 決して大きくはなかったその声に2人揃って反応し、その方角を見やる。


 --やっぱりこいつかよ……。


 修行場所と化している祭壇へと繋がった一本の通路は、絶妙な位置に生えた柱によって死角となっている。

 しかし、彼のような図体を持っていればその柱の面積に収まりきらず、直ぐに正体がわかってしまうものだった。


 目の前に現れたスーツを羽織った五分刈りの金髪大男。

 初めて会った日以来見ていなかったが、改めて見ても凄まじい剣幕とオーラを背負っている。


「き、キリュウさんっ! 急に話しかけないでくださいよー! ただでさえおっきぃんだから」


「先生……モラルっす」


 そんなキリュウ相手にもわたわたと手を振って応対するレイに、イブキはボソリとツッコミを入れる。


 対するキリュウはレイを気にせずに通り過ぎ、こちらへ歩み寄ってくる。


 いつも通り大きな図体から放たれる大物オーラを惜しみなく振りまき、こちらに歩み寄ってくる。無愛想にレイの言葉に答えず横を通り過ぎる。


「な、なんすか……」


 思わず身構えるイブキ。キリュウはその大きくゴツゴツした手で持っていた資料のようなものを彼に渡し、簡潔に告げる。


「個人名義で龍小屋(うち)に直接依頼が届いた。お前が向かえ」


 何やら読む気が失せる難しい文章と大きなハンコが押してあるその紙を適当に目を通してから、恐る恐る聞き返す。


「……依頼……俺に?」


「……行け」


 言葉を最後まで聞き切らずに返答するキリュウに腹が立ち、目を伏せて不貞腐れたような態度をとってみせる。


 黙り込む2人。そこにもし勇猛果敢なレイがいなければ、恐らく何時間でもこの無言の我慢比べが続いていたかもしれない。


「イブキ君はまだ半人……いやっ! いってん……001人前ですっ! もっと修行させたぃ……いやっ! しなきゃいけないんですっ!」


「1.001人前なら問題ないってことっすよ……先生」


「い、イブキ君はだまっててっ!!」


 顔を真っ赤にしてキャンキャン吠える師匠。『だからプードルとか言われるんすよ』という言葉を飲み込み、2人から距離を置く。

 イブキが退場したリング内で、残った2人は睨み合う。


「同じ相手と戦うだけでは意味が無い」


 簡潔にキリュウが反論を述べれば、


「わたしはそれも考えてパターン3323まで用意してやってますっ! まだパターン219までしかできてないんですっ! これを叩き込まなきゃいけないんですっ!!」


 イブキも初耳の修行プランでレイが対抗する。


 お互いに頑固が極まっているのか一歩も譲る様子もなかった故に、結局最初に折れたのはリング外のイブキだった。


「あ……もういいっす……とりあえずなにするのか教えてください」


「ちょっ! イブキくんっ!」


「先生……。さすがに俺も3323は無理っす。多すぎっつーか……」


「えっ!?」


 珍しく反抗してきたイブキにショックを受けたのか、いつも大切に持ち歩いている真剣を手から離して固まるレイ。

 少しだけすまなく思ったが、とりあえずもう一度キリュウに向き直り返答を待つ。


「移送業者の護衛だ。移送ルートも“黒龍支配区域”には当てはまらん」


「護衛だけっすか?」


「資料をよく見ろ」


「……すんません」


 じろりと目を凝らして資料を閲覧する風を醸し出し、『まあ後で見ておくか』的なノリで筒状に丸めて後ろのポッケに突っ込む。


 後ろではレイがへたりと座り込んでおり、絵に書いたようにいじけてみせている。

 やっぱりなんか申し訳なくなったイブキは、傍らで転がっている真剣を拾ってあげて答えた。


「大丈夫っすよ先生。正直俺も、そろそろ一人でこういうの試して見たいなとは思ってた頃なんすよ……わりと…本心で」


「……そうですけどぉ」


 いい機会だとは思っていた。ここ一週間の間で3件ほど依頼を受け、全てそつなくこなしてきたイブキ。

 但し、それは全て付き添いとしてレイやクルドが付いていたからであり、単身で依頼をこなしたことは1度として無かった。


『ここいらでいっちょ俺の力を証明してやろうか』と、彼の心は無意識にも踊り始めていた。


「本当に…大丈夫……?」


「まぁ……なんとかするっす」


「じゃ、じゃあわたしもいきますっ。邪魔しないんでっ! 万が一の要因みたいな……」


「お前は別に依頼がある。一週間の遠征任務だ」


「またそうやって勝手にっ!」


 ぶーぶー文句を垂れるレイとまるで相手にせずにキリュウは彼女にも遠征資料を渡した。

 ここにいてもしょうがないと感じたイブキはそそくさとその場を立ち去り、もう一度ざっくり依頼書に目を通す。


 思っている以上にワクワクしていることに気がついたのは、家に帰った後クルドから『顔がニヤけてる』と指摘があった時だった。



 *********



 本来、公安ギルドから依頼を受けた冒険家は王都からの出入口として設けられた4つの門のうちのいずれか一つを潜り、探索や魔狩りへと向かってゆく必要がある。


 嘗ては敵国や魔王軍といった外敵から守る為の手段として取られていたが、今はやはり黒龍からの脅威回避が大きい。


 保有していた東側の領土は黒龍に奪われ今や実質的に破棄されている。

 治安も悪く仕方なく居座る社会的弱者以外は、滅多に立ち入ることの無い場所となっている。当然、王都の管理も行き届いておらず、裏の取り引きも後を絶たない。


 今回、イブキが通る門は西側。

 東側とは反対方角に位置する為、黒角を生やした生物等の報告は東西南北で最も少ない。


 --でけぇ門だ……それに冒険家っていうのか……? そいつらの出入りも多い……。


 眼前にそびえる巨大な門は、分厚い鉄の扉を完全に解放している。

 イブキを追い抜いた男女4人組の冒険家は、意気揚々と剣や槍を掲げて門を駆け抜けてゆき、入れ替わるように馬車を引いた獣人の男が大量の食材を滑車に乗せて入っていく。


 こういった非現実的な光景を眺めるとつくづく、『メテンとかいう立場にいなければ楽しく生活出来たんじゃないのか』とイブキは惜しい気分になる。


 冒険家の集合場所として利用されている“白い龍のオブジェクト”の前で腰掛け、ぼーっと門を行き交う人々の流れを見つめる。


 --“シロさん”今何してんだろ……。ひょいっとどっかで会ったりして……んなわけないか……。


 一人の時間が生まれる度に、孤児院で出会った名もなき白い女性の事を思い描く。『シロさん』という仮名を勝手に付けてはみたが、次会った時は名前を絶対に聞こうと彼女を想う度に意気込むのだった。


 彼がこの一週間、孤児院を訪れたことは一度としてない。

 イブキ的には『居るべき場所へ赴いても仕方がない。運命的な再会を果たしてこそ意味がある』という確固たる持論があるらしいが。


 ーーだってあの人、間違いなくあの夢に出てきた超綺麗な人だよ! 夢の中であった人と再会とか絶対運命の相手ですよね? あの雪みたいな白い肌にサラッサラの銀髪ッ!! 病院の屋上に干してあるタオルみたいに完全除菌された真っ白ワンピースッ!! そしてあの…ルビーみたいな赤い瞳! まぁ本物のルビー見たことないけど…とにかく夢の中のシロさんと瓜二つだッ!! こっちから探さなくてもいずれか必ず運命の会合をしてそして……


 一度数分間だけ話した美少女を勝手に運命の人と断定する。

 まるでピーターパンを待つ少女のような気分で浮かれていると間もなく『おう』という声と共に、依頼者らしき小柄な男が気さくに寄って来た。


 袖口がほつれた上着に汚れたインナーと、お世辞にも清潔には見えない男は干芋のような細々しい腕を上げて手を振るなり確認してきた。


「あんたが小屋のメテンっつー奴かい! 見たところ“爆龍”や“土王子”、“炎桜”とかじゃあ無さそうだが……新入りかい?」


「まぁ……そんなとこっす……“インドラ”と名乗っときます」


 インドラという異名……。元はクルドが悪意丸出しで考えた“陰険泣き虫ドラゴン”というあだ名を、長いという理由で却下したラディが略したものである。

 由来がかなり癪に障るものだったが、それ以上の名前を考えられる訳でもなく、渋々使うことにしていた。


「へぇ〜! 思ったよりヒョロくて弱そうだがよ、ほんとにお前なんかで大丈夫かぁ?」


「どうっすかねぇ……」


 不満そうに口を曲げる依頼者に苛立つイブキ。

 彼の敵意には気付いていないのか、小柄男は呑気に口笛を吹きながら待機させてある馬の元へと戻る。

 人の流れを断ち切るような方角へ歩き出した為、行く冒険家達に若干邪険な視線を向けられていた。


「書いてあった通り! これから隣の村までこの木箱を俺たちで輸送する!」


「こいつが…今回運ぶ荷物っすか?」

 --やけにでかいな……。何入ってんだ?


 2頭の馬が並ぶその奥には、ヒト1人分程度ならば寝泊まりできそうな程の大きさの木箱が置かれていた。

 下に滑車が敷かれていた為、恐らくこれで運ぶのだろう。


 貴重な食材でも入っているのかと興味本意で馬の間を縫って進み、箱に手を触れんとする。


「そいつに触れんじゃねぇ坊主!!」


 真横から叱責を受ける。先程の依頼者とは似ても似つかないような気味の悪い声。その方角を向くのに勇気が無かったのか、代わりに立ち塞がる木箱を見上げゾッとした。


「大事なもんなんだからよ! もし傷でもついたらたまったもんじゃねえ!」


「お前は大人しく護衛しときゃあいいんだよぉ? ああ??」


「こいつほんとにあのメテンかぁ?? くそ雑魚そうじゃねぇか? ぎゃひひひひ!!!」


「え……? え……?」

 --なんだ? 木箱や滑車の影からぞろぞろと……。


 合計10人位だろうか、ケラケラと笑いながら依頼者と同じような外見をした小柄な男性の集団が次々と湧いてくるなりイブキを取り囲むように並ぶ。


 --気味が悪いな……何人かクルドより小せぇ奴いないか……?


 イブキの真後ろでニタリと笑う最初に話しかけてきた依頼者は、この10名程度の中では一番背が高く、リーダー的な存在なのだろう。

 そんな彼がハゲ散らかした頭を掻き、得意げに言い放った。


「びっくりしたろ? こいつらは全員俺の兄弟だぜ? 人呼んで泣く子も黙る小鬼十兄弟(ゴブリンテン)っ!!」


「は……はぁ……」

 --キモい!! きもいきもいキモイ!!!!!


 少年のような背丈に、ハゲ散らかした頭や抜けた歯が特徴的な不潔な容姿。同じような者が10人もいるのだから、さすがのイブキも不快感を顕にせざる得なかった。


「ま、3日の付き合いだが……うめぇこと10人覚えといてくれよ? ブラザー! ぎぇひひひひっ!!」


「え……? 3日……??」


 まるで当たり前のように告げてきた驚愕の事実に青ざめる。

 思わず返した問いかけすら、当然とでも言う様な返答がそこら中から返ってくる。


「あ? 当然だろうが……ぎぇひひひひっ!!」


「隣の“西の街”までとはいえ、山越んだぜ?? 3日じゃはええくらいさ!」


「最近西側にも“クロツノオオカミ”が出たらしいからなぁ〜! ちゃんと護衛頼むぜ??」


「「「「「ブラザー」」」」」


「え……へ……」

 --おいおいちょっと待てよ!! こんなキモい軍団と3日も一緒だぁ!? なんだよそれ!! 味気無さすぎんだろうが!!!


 至極意地の悪そうな視線が至る所から向けられる。

 クルドやレイ、そして普段はあまり仲良くないラディまでもが、どうしようもなく恋しく感じてしまう。無論“彼女”のことも……。


 --シロさん……もしこんな時に来てくれたら……まじで惚れちゃうかも…………。


 現実逃避の為にも、イブキの脳内に焼き付いたあの破壊力抜群なシロさんの笑顔シーンを心のカセットテープで何度も再生する。

 それでも容赦なくやってくる現実の荒波に敵うはずもなく、流されるように大きな馬車を引く小男達の後に続き、巨大な鉄の門を潜った。


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