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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第六章 15歳 レオンハルト編
94/95

74/物語の結末と始まり



 目を開くと、自分のベッドにいることにヴィルヘルミーナは気づく。


「……私の部屋?」

「そう、君の部屋だ」


 言葉に出た疑問に、すぐ横から答える声。


 慌てて声を方を向くと、ベッドのすぐ横にレオンハルトの姿があった。


「お、お兄様!?」

「良かった、起きてくれた」


 感極まったように抱き寄せてくる彼に、ヴィルヘルミーナは戸惑いを隠せない。


 自分は死んだはず。

 どうして生きている?


「――君を死なせたくなくて。

 私もいろいろ手を打ったんだよ」


 あの時、ヴィルヘルミーナが見せた異常な程の魔法抵抗力。

 それは”魅了”が新たな魔法へと変異した為だ。


 その効果は自己の能力を極限まで高めるという、単純なもの。


 前例で言えば”自己愛”に似た力。

 しかし、その効果が発揮される条件と、強化の度合いが大きく異なる。


 自分の為ではなく、誰かの為に。

 私の全てを棄ててでも、貴方の為に。


 そんな彼女の固有魔法は”無償の愛(アガペー)”と名付けられた。


「だから私は時を戻り、アーデルハイド女史に頼んだ。

 ……きっと、私以外の回復魔法ならば、受け入れてくれるだろうと信じてね」

「と、時を戻る!?」


 あまりにも現実離れした行為に、目を丸くするヴィルヘルミーナ。


「――時間は掛かったけれど、ようやく君を取り戻せた」


 愛おしそうに抱きすくめられて、ますます彼女は動けない。


「心から愛しているよ、ミーナ」


 そして二人の顔が近づき――



* * *



(いやー……まさか、異世界転生をファンディスクでやるとは……)


 トゥルールートのシーンを見ながら、私――黒崎美奈くろさき みなは息を吐く。


 このあとレオンハルトは、生涯独身のままヴィルヘルミーナと共に生きる。

 彼女が望む平穏の為、陰ながら国を支えて、だ。


 ちなみに、ノーマルルートではヴィルヘルミーナの死後、やはり生涯独身のまま、国を支える終わりだった。


(最初はどうかと思ったけれど、やってみたら結構面白かったな)


 主人公は、本編の悪役令嬢。

 その上、中身は異世界転生で本編のルートを知っているときた。


(いや、でも……ある意味で感情移入はしやすかったよね)


 プレイヤーは、本編をある程度やりこんでいるし、そういった意味では正しいのかもしれない。

 普通のファンディスクとは違うけれど、これはこれでアリである。


 スタッフロールが終わり、最後の幸せそうなスチル画面。

 さらにボタンを押せば、クリアデータの保存の確認。


 もちろん、「する」を選んで――私はゲーム機の電源を落とした。


「んーっ! 終わったぁ!」


 ゲームのしすぎで強張った身体を伸ばす。


「しっかしまぁ……びっくりしたなー……」


 あの日、ゲームのファンディスクを予約しに行く途中での交通事故。

 救急搬送されたものの、そのまま昏睡状態が続いたらしい。


 いつ目覚めるかわからない私を、両親や友人がよく通って見舞ってくれた。

 その中の一つに、例の予約しようとしたゲームがあり、こうして目が覚めた後ゲームをプレイしていたというわけだ。


(起きた後もゲームやってて、お母さんには呆れられたけどねー)


 事故の原因の一つといえば一つ。

 母親が心配というか、呆れるのもよく分かる。


 けれど――このゲームだけは、すぐにやらないとという気持ちになったのだから仕方ない。


(護衛君は”魅了”なんてされなかったし。

 本編で死んでたキャラが生き残ったし。

 なんか妙に嬉しかったんだよね)


 入院生活も明日には終わる。

 それまでにクリア出来て、本当に良かった。


(来週にはファンディスクの公式資料集が発売だしね)


 自然と笑みが溢れる。


 なんと、近所の本屋で資料集へのサイン会まであるのだ。

 シナリオライターのサインがもらえるというのは、ちょっと嬉しい。


(なんか知らないけど、妙に気に入ったからなー。このゲーム)


 その為には、早く体調を戻さないと。

 「休養」という大義名分と共に、私はベッドで横になった。



* * *



 近所の大型書店は、何度か今までもサイン会を行った事のある店舗だ。

 だが――今までで最高記録を更新したかのような、大人数が本屋に集まっている。


 どうやら、原因の一つはシナリオライターがイケメンだったかららしい。


(まー、女の子がきゃーきゃー言うのもなんとなく分かったけれど)


 ゲームキャラクター「レオンハルト」は、シナリオライター「獅童晴人しどう はると」本人がモデルだという。

 自分の分身みたいなキャラを、あんなイカれたキャラによくもまぁ出来たねと、感心する。


 とはいえ、ライターとキャラは別物だ。

 サインは嬉しいし、小躍りしたい気分で場を離れ、お昼ご飯を食べに行く。


 適当にテイクアウト系を購入し、店内にあるテーブルで食べる。


「――失礼。相席をしてもいいだろうか」

「はい? 良いです――え?」


 顔を上げると、そこには先程のサイン会の主――獅童晴人の姿。


「どうかしましたか?」

「い、いえ。ど、どうぞ」


 戸惑いながら、勧めてから気づく。

 周囲にはまだ空いてる席があることに。


 ……ついでにいうなら、嫉妬にも似た視線が自分へ向けられている事に。


(ま、まぁ、一人でテーブル一つ占拠するのもね!)


 私がいるのは小さいテーブルだが、二人で使えないこともない。

 それならば、他のお客に遠慮して相席も理解出来る。


 問題は周囲の視線だけれど。


(――早く食べて離れよう)


 居心地の悪さに、そう決めた時。


「――美奈、さんでしたよね?」


 突然名前を呼ばれ、びくりと身を竦ませる。

 一瞬「何故名前を?」と考えたけれど、よく考えたらさっき本名でサインを書いてもらったのだった。


「え、えぇ」

「前世って信じますか?」

「はい?」


 食事の会話にしても、かなりぶっ飛んだ質問に首を傾げる。


「僕は信じています。

 いえ、前世を覚えているからこそ、今回のゲームを作ったんです」


 何故だろう。

 背中に嫌な汗が流れるし、頭が妙に痛い。


 彼の顔に何故か、ゲームの――けれどイラストではない――レオンハルトの顔が重なる。


「大変だったんだよ?

 記憶を取り戻してから、ゲーム開発まで色々と。

 作りたくもない、本編作ったり……」


 聞いたら、もう逃げれない。

 そんな予感がしたけれど、身体が動いてくれない。


 警鐘のように、頭がガンガンと響く。


「――ねぇ、美奈(ミーナ)


 甘い声音と、蠱惑的な笑みを浮かべて、彼が言う。


 瞬間。

 脳裏に蘇る”ヴィルヘルミーナ”としての日々。


 頬がひくつく。


 ありえない。

 絶対にありえない。


 異世界トリップが夢オチじゃなくて、この人の前世だとか。

 頭がこんがらがって、パニックになりそうだ。


 だが――それでも。


「お、お兄様……?」


 なんとかひねり出した問いかけ。


「今は違うよ。

 だから、君が気にしていた血縁関係もないね」


 にこりと、獅童さんは微笑む。


「ファンディスクのトゥルールート、良かったって言ってくれてたよね」

「そ、そうですね」


 なんだろう。

 一歩も動いてないのに、追い詰められているような感覚。


 心臓がドキドキと煩くて仕方ない。


 恐怖?

 少なくともときめきとは……なんか違うよね?


「愛しているよ。美奈(ミーナ)

「ななななな……!?」


 顔が熱い。

 いきなり何言ってるんだこの人は。


「大丈夫。ゆっくり待つとも。

 僕は君が好きなんだ。

 ミーナであろうと美奈であろうと、君は君だろう?」


 手を取られニコリと微笑み、手の甲への軽いキス。


 心臓が跳ねる。

 さっきから、息が詰まるようで上手く言葉が出せない。


 ただ一つ分かるのは――


(――なんで、嫌じゃないのよ!)


 前世だとか夢が現実だったとか、色々言いたいことがあるのに。

 彼の言葉を否定出来る程の、嫌悪感が自分の中にない。


(普通、ないわよ!! ありえないわよ!!)


 心の中でなら叫べるのに。


 ただ一つ分かるのは――


「もう、手放したりしないよ」


 ――この人からは、私は多分逃げられないという事だけだ。



 魔王から は 逃げられない!


 そして捕まる、美奈(ミーナ)さん。


 ゲームが先か……転生が先か。


* * *


 これにて、悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~は完結となります。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 よろしければ、評価をいただけると大変喜びます。


 また、これまでたくさんの評価&ブックマークを頂き、有難うございました。

 最後まで更新出来たのは、皆様のおかげです。


 後日、もう一話だけ本編とは別に更新を予定しております。

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