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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第六章 15歳 レオンハルト編
87/95

67/謎


 自室で一人、考える。


(どうして、こうなったの?)


 ダイアンだけでなく、シルヴィアも倒れてしまった。

 あの後すぐにコルトに調べてもらったけれど、やはりダイアンと同じ。


 何者かに”呪われた”のだ。


(今更誰がこんな事をするのよ……)


 親指の爪を噛みながら、考える。


(ダイアンも、シルヴィアも接点がなさすぎる。

 あるとしたら――私の親しい人間だという事くらい)


 ……だとしたら?


 私への嫌がらせだと考えれば。


 ダイアンが狙われたのも。

 シルヴィアが狙われたのも納得が行く。


(でも、だったら犯人って誰よ?)


 私を恨むだろう相手は、現時点で”魅了”の影響下。

 すでに何か出来る状態ではないし、その手段もないはずだ。


 基本的に私は引きこもりだし、いまさらアンディとの結婚の話で嫉妬されるという線も薄い。

 婚約が決まってすぐに結婚とかであれば、前から好きだったのに――という人もいるかもしれないけれど。


 クソ親父達を抜けば、女の嫉妬くらいしか思いつかないが……。

 そちらもやはり可能性としては低いだろう。


 ――では、なぜ?


 考え込む私の脳裏に、三人の姿が浮かぶ。


 ベッドで、死んだように眠り続けるダイアン。

 突然、意識を失うように眠ったシルヴィア。

 呪われた娘に、取り乱し涙を浮かべる伯父様。


 必死に考えようとしているのに、どうしてもあの光景が浮かんでしまい、思考がまとまらない。


(……駄目だわ。可能性ばかり考えても意味がない)


 頭を振って、思考を振り切る。


(何にせよ、どれもあくまで可能性でしかないわ。

 呪った相手を特定するためにも、もっと情報を集めないと……)


 息を吐き、思考を切り替えて椅子から立ち上がる。


(まずはダイアンの部屋ね)


 部屋を出て、エリクを引き連れてダイアンの部屋に向かう。


 中ではレナが、ダイアンのすぐ横でずっと見守っていた。


「――あ、お嬢様」


 顔を上げたレナの顔は、控えめに言って酷い。


「大丈夫? レナ」

「はい……大丈夫です」

「そうは見えないわよ」


 苦笑して、レナの頬を撫でる。

 すると、すぐに涙目になるレナ。


「……エリク、少しダイアンをお願いしていい?」

「はい」

「レナ、一度私の部屋へ行きましょう」

「はぃ……」


 泣きじゃくる彼女を連れて、再び自分の部屋に戻る。

 レナをソファに座らせ、私もその横に座った。


「ごめんなさい……私、泣いてばっかりで……」

「いいのよ、気持ちは分かるもの」


 抱き寄せて、頭を撫でながら彼女を宥める。


「お嬢様ぁ……」


 私の胸にすがるように抱きついて。

 レナは少しの間泣き続けた。


 それをただ見守って――ようやく落ち着いたのか、レナが顔を上げる。


「ほら、顔を拭いて。

 冷やしてあげるわ」


 ハンカチに軽く氷を含ませて。

 いつだったか、兄貴がしてくれたようにレナの腫れた顔を冷やす。


「少しは落ち着いた?」

「はい……」

「それは良かったわ。

 ……あのね、聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと、ですか?

 私に分かることでしたら……」

「部屋で……いいえ、屋敷全体でもいいわ。

 記憶に残ってること、違和感や気になったこと。

 何でもいいから、話してくれる?」


 現状”呪い”以外の情報が乏しすぎる。

 だから少しでも情報がほしい。


 レナは考え込むように、目を閉じる。


「……そういえば」


 ふと、思い出したように。

 レナは窓の方を見た。


「どうかしたの?」

「いえ、今朝……鴉が窓にいたなって」

「鴉?」


 繰り返す私に、レナは頷いて説明を続ける。


「私、たまに鳥に餌をあげたりするんです」


 なんだかとてもヒロインぽい。


「それで、今朝も餌をあげようかなと思ったら、鴉が居たんです。

 鴉はちょっと怖かったので、餌は結局あげなかったのですが」

「鴉……」


 それそのものは、別にありえないことではないだろう。

 鳥の餌スポットに、鴉が目をつける事は割と普通のはず。


(でもなんでだろう……何か気になる……)


 何かが脳裏に引っかかるのだ。


「――あ、それとですね、その鴉の目の色なのですが」

「目の色がどうかしたの?」

「綺麗な青色だったんです」

「青? 鴉の目の色って、黒じゃないの?」


 この国の鴉は他の色なのか。

 転生してから、鴉を近くで見ることがほぼないので分からない。


「黒だと思います。

 でも、あの鴉は青かったんです。

 ……もしかしたら、光の反射のせいでしょうか……」

「ううん……」


 やっぱり何かが引っかかる。

 普通に考えるのなら、鴉が居たことも、目の色が青い事も、大したことではないはずなのに。


「――あ」


 思い出したように、レナが呟く。


「他に何か思い出したの?」

「いえ、その……関係あるかわからないのですけれど……」


 視線を彷徨わせ、レナは少し戸惑うように言いよどむ。


「そこで止められると気になるわ。一応教えて」

「……あの、お嬢様に懐いてる、黒猫いるじゃないですか」

「あぁ、あの子ね」


 野良なのに人懐っこく、撫でさせてくれる猫だ。

 大変可愛い。


(って、そういえばあの猫も目が青かったわね)


 一般的に黒猫は、金色だから珍しいなと思ったものだ。


「はい。あの黒猫ちゃんと、同じ目の色だったんです」


 ――ぱちり、と。


 私の中で黒猫と鴉が繋がった。

 連想するのは、物語の『魔女』。


 魔女といえば使い魔。

 使い魔といえば、黒猫や鴉、蛇といった生き物。


 考えすぎかもしれない。


 けれど――シルヴィアが倒れた時、猫の鳴き声を聞いた気がする。


(……調べてみよう)


 幸い、私の自室には、魔法関連の本棚がある。


 立ち上がり、本棚へと向かう。


「お嬢様……?」

「ちょっと調べ物するわ。レナはそこで待っててちょうだい」

「畏まりました」


 視線を向けること無く告げると、レナの返事が聞こえる。


 指で本の背表紙をなぞり、目的の本を探す。


(確か使い魔に関する本があったような……あ、あった)


 本を取り、軽く流し読みをしていけば、内容が頭に蘇ってくる。


(ゴーレムと違って、知恵のある使役生物を作る方法なのよね)


 五感の共有が出来て、ゴーレムと違って意志があるため、ある程度の柔軟性のある生物。

 クソ親父の悪事を暴くのに使えないかと、考えていたのだ。


 ……結局、適正がなくて使えなかったのだけれど。


(もしも、あの猫の鳴き声や、鴉の存在が使い魔なら……)


 それを使役している者こそ犯人だ。

 どうやって呪いを掛けたのかは分からないが、犯人さえ分かれば解呪は可能だろう。


(やった。小さいけど手がかりを手に入れたわっ)


 この本には、使い魔の判別の仕方や、主を特定する方法も書いてある。

 使い魔と思しき生物を捕まえられたら、なんとかなるかもしれない。


「レナ、さっき言っていた鴉のことなのだけれど――」


 本を胸に抱いて、彼女のもとに戻ると。

 レナはソファにもたれかかるようにして、眠っていた。


 本が軽い音を立てて落ちる。


 震える足で近づき、彼女の脈を計り、呼吸を確認する――異常はない。

 そう、ダイアンやシルヴィアのように。


(……きっと、泣き疲れただけよ)


 思考とは裏腹に、心臓の鼓動が脈打つ。


「ねぇ、レナ」


 軽く揺さぶるけど、反応はない。


「ねぇ、起きてってば」


 頬を軽く叩いて、手の甲を少しだけつねっても。


「……どうしてよ」


 しゃがみ込み、レナの手を両手で握りこむ。

 ほのかに感じる体温だけが、彼女が生きているのだと実感させてくれる。


「なんでよ、どうしてよ」


 なぜ、私の周囲ばかりが――私の大事な人達が、こんな目に遭わなきゃならない?


(やっぱり、私への嫌がらせなの?)


 もはやそうとしか考えられなかった。

 それくらい、私は今苦しんでいる。


(皆が何をしたっていうのよ!!)


 私を恨んでいるなら、私だけを狙うべきだ。

 そうすれば、こんなに苦しまなくて済んだのに。


 一人、また一人と大事な人が倒れて。

 これがいつまで続くのだろう?


 次は誰?

 私はいつまで、こんな想いをするの?


「レナぁ……」


 口元を抑えるけれど、嗚咽が溢れる。


 こんな風に泣いてる場合ではないのに。

 まだ生きてるから、動かなくてはいけないのに。

 せっかく、手がかりになりそうな情報が手に入ったのに。


 ――それでも。


 私の意志とは裏腹に、身体は動こうとしてくれなかった。

 ただ泣きじゃくり、止めてと嘆くばかり。


「にゃぁ」


 ふいに聞こえてくる鳴き声。


 どくんと心臓が大きく跳ねる。

 ゆっくりとそっちを見れば――黒猫がいた。


 兄貴に良く似たアイスブルーの目の色をした黒猫が。


(……嘘よ)


 嫌な予感に、胸が締め付けられる。


「にゃぁ」


 黒猫は、扉に近づくと液体のように溶けて、液体はそのまま扉をくぐる。

 そして向こう側から、聞こえてくる「にゃぁ」という鳴き声。


 ――ついてこい、ということなのだろう。


「……えぇ、わかったわよ」


 行ってやろうじゃないか。


 立ち上がり涙を拭う。

 泣いていたって始まらない。


 仮にこれが罠だったとしても――この騒動の真意を聞いてやる。


「……レナ。もう少しだけ待っててね」


 風の魔法でそっと彼女をベッドに移し。

 部屋を出ていく。


 ――使い魔の主に会うために。

 謎解き回。

 でも読者の皆様には、多分モロバレだったと思います。


* * *


 お読み頂きありがとうございます。

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