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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第六章 15歳 レオンハルト編
86/95

66/広がる不穏



「コルトぉぉぉ!!」


 扉をばぁんと開けたい気持ちを抑え――代わりに殴り込むような勢いで名前を叫びつつ部屋に入る。


 部屋は書斎兼私室らしく、本がたくさんあってスチルで見たことがあるのを思い出す。


 ちなみに、部屋の主であるコルトと従者であるヴィリーは目を丸くしていた。

 入室許可はもらったのに、なぜ目を丸くしているのか。


「ど、どうした?」

「どうしたもこうしたも、貴方の力を貸して!」

「力?」


 私の要請にコルトは首を傾げる。


「コルトの”鑑定”の魔法を使って欲しいの!」

「なっ……いきなり何を言い出すんだ!?」


 狼狽する彼を気にすること無く、彼の執務机に手を置いて、ずいと顔を近づける。


「だから”鑑定”の魔法を使って!」

「近い! 顔が近い!!」

「お嬢さん、ちょ、離れてあげて!」

「お嬢様、近すぎます!」


 なぜかエリクとヴィリーに、机から引き剥がされた。

 急いでるのに!


 ため息を吐いて、コルトは改めて私に視線を向ける。

 その目には呆れが多分に含まれていたが、話を聞く気はあるらしい。


「それで――なぜ、それを必要とするんだ?」

「あぁ、そうね。よく考えたら説明が必要だったわね。

 ちょっと気が動転してたの。ごめんなさいね」


 悪びれなくそう言って、改めて状況を伝える。

 レナの経緯から、医者の見立てまで全て包み隠さずに。


「――ってことなの」


 説明をしている間、コルトはただじっと静かに聞いていた。


「……」

「……」


 沈黙が部屋を包む。


 しばし時間を置いて――コルトはため息を吐いた。


「事態は理解した。君が慌てて行動するのもな。

 ――ミーナ嬢の乳母でレナ嬢の母上なのだろう?」

「えぇ」


 母親があんな状態になっているし、留守番しているレナは、かなり心細いだろう。

 早く帰ってあげたいけれど、コルトの協力を取り付けないことには、帰るに帰れない。


「……協力しよう」

「本当!?」

「ただし”鑑定”をしても、原因を特定する保証はないぞ」

「えぇ、分かっているわ。

 今は少しでも情報が欲しいの」


 でなければ、対策の立てようがないのだ。

 まさに藁にもすがる思いで、私は今ここに居る。


「――なら、今すぐ行こう。

 後のことは頼むぞ」

「へいへい。坊っちゃん行ってらっしゃ~い」

「もっとしゃきっとしておけ」


 嘆息混じりに言って、コルトは席を立つ。


「コルト! 早く早くっ」

「待て! 手を引っ張るな!!」


 慌てる彼を構うことなく、とにかく急ぐ。

 早く家に帰るんだよ!



* * *



 自宅に戻り、ぐいぐいとコルトを引っ張りながら、ダイアンの部屋へ向かう。


「レナ、戻ったわ」

「おかえりなさ……お嬢様、どうしてコルト様と手を繋いでおられるのです?」


 困ったように首を傾げるレナに、一度コルトの方を見る。

 彼はなんというか、顔を若干赤くして気まずそうだ。


 再びレナの方を向く。


「急いで連れてきたから」

「そ、そうですか」


 冷静に考えると、一応婚約者の居る身で、他の異性の手を握っているという状況は、拙いのかもしれない。


 けれど今は非常事態だし。

 コルトに婚約者はいないし。

 アンディはちゃんと説明すれば怒らないだろう。


 なので問題なし。


「もう少し、気にしろ」

「そんな些細なことはさておいて。

 さ、コルトお願い」

「さておくんじゃない」


 ため息を吐いて、コルトは眠るダイアンに近づく。


「……」


 彼はじっとダイアンを見つめ、難しい顔をする。


「……駄目だった?」

「いや、鑑定事態はすでに終わっている。ただ……」


 言いにくそうに、言葉を濁す。


「ただ、なに?」

「彼女は――どうやら、呪われているようだ」

「……呪い?」


 訳が分からず、反芻するように呟く。


(え、なんで呪い?)


 呪いは第三者がいてこそだ。

 物だったり、怨霊だとかの実態のない場合もあれど、何かの意志が必要になる。


(でも、どうしてダイアンが……?)


 ダイアンは私が知る限り、善良な人間で私達以外にも親切な人だ。

 誰かに呪われたりするようには思えない。


 もちろん、逆恨みという線がないわけではないが……。


「……とりあえず、詳しく教えてくれる?」

「そうだな。彼女は今”眠り続ける”呪いを受けている状態だ。

 これは薬や魔物達の特殊能力と違い、簡単に解けることはない」


 コルトの説明に、否応にも胸が締め付けられる。


「それと――酷なようだが。

 この呪いは、状態を停止するようなものではない。

 ある程度の栄養補給は可能だろうが……長くは――」


 彼の言わんとする事に気づいて、嫌な汗が背中を伝う。


 後ろで、レナの小さな悲鳴が聞こえた。

 エリクの拳が震えているのが見える。


(嘘でしょ……?)


 この世界は、魔法のせいで医療はほとんど発達していない。

 だから、点滴なんて存在しない。

 液状の食事を与えることくらいしか、出来ないだろう。


 それでは、遠くない未来――


(ダイアンが……死んじゃう?)


 歯の根が合わない。

 視界が歪む。


 立っているのも辛くてしゃがみ込む。


「お、おい」

「ちょ、ちょっとまってね」


 泣き笑いのような笑みを浮かべ、コルトに待ったをかける。


 大丈夫。大丈夫だ。

 まだ何も起きては居ない。


 猶予が少なくたって、まだ生きている。


 まだ、間に合う。


 何度も繰り返し「大丈夫」と呟いて。

 立ち上がり、深呼吸をしてからコルトを見る。


「――ごめんなさい。それで、何か?」

「……無理はするなよ」

「無理なんて、してないわ」


 今はやるべきことがあるのだから。

 そのために動くことの、何が無理か。


「……なら良い」


 コルトは少し呆れたようにため息を吐いた。


「私はこれから、アンディ達にも聞いてみる。

 ディルクはともかく、アンディやフォルクマールなら、何か情報を得られるかもしれないからな。

 そちらはそちらで、クラース侯爵に協力を仰いでみたらどうだ?」

「そう、ね」


 呪いの解呪に関してはともかく、伯父様ならダイアンの状態維持に協力してくれるだろう。


「……そうしてみるわ。ありがとう、コルト」

「なに、君が無茶振りするのはいつものことだろ」


 言葉は少し刺々しいのに、優しい声音で。


「コルトは良いやつね」

「褒めても何も出んぞ」


 そんな事を言って、行動を起こすべく去っていく。

 見送ってから、私はエリクとレナへと視線を向ける。


「……お嬢様」

「エリク、クラース侯爵家へ向かうので共を」

「はい」


 指示を出せば、顔色が悪くてもエリクは頷いてくれる。


「レナは……ダイアンをお願い。少しお水を飲ませてあげて」

「はい……」


 涙目になりながらも、レナは頷いてすぐに動き出す。


(――私も今出来ることをしなくては)


 急ぎ、クラース家へと向かう。

 少しずつ――けれど、確かにタイムリミットは近づいているのだから。



* * *



「――というわけなのです」

「呪いだなんて……なぜそんなものが……」


 一通りの説明をした後、ノルベルト伯父様が沈痛な面持ちで呟く。


「それで、その……」

「あぁ、任せなさい。協力しよう」


 力強い言葉に、不安だった心が少しだけほっとする。


「さしあたって、実家にある呪いに関する書物の取り寄せが必要だな。

 それと夫人の状態維持に関しても、色々医師に当たってみよう」

「ありがとうございます、伯父様」


 本当に良かった。

 これがクソ親父だったら、絶対に放置しやがる。

 いや、表向きはホワイト企業らしく、調べたりはするのだろうけれど。


「それにしても……なぜ呪いなんてものが……」

「わかりません。ダイアンは誰かから、悪意を向けられるような人ではないのですけれど……」


 呪われた道具が、我が家に置いてあるとは思えない。

 仮にあったとしても、そういった品は流石に厳重にしまってあるはず。


 宝物庫――というほどではなくても、それに近しいものは王都の別邸にはないし……。


「ともあれ、ミーナ君。

 君は帰りなさい。そして夫人のそばに居てあげなさい」

「……はい」


 頭を下げ、部屋を出た。


 足取りが重い。


 ちらりと後ろを見れば、エリクもかなり暗い顔をしている。

 当然だろう。


 彼にとっては、血の繋がった母親なのだ。

 私以上に、苦しんでいるはず。


「あら、ミーナさん?」


 声をかけられ顔をあげると、シルヴィアが居た。


 いつの間にか、場所はすでに玄関。

 どうやら、帰ってきた彼女と鉢合わせしたようだ。


「どうしたの? 暗い顔をしているじゃない」


 シルヴィアは心配そうに私の頬に触れる。

 その手を、そっと放して笑う。


「いえ、色々あって疲れているだけよ」

「そうなの? とてもそうは見えないけれど……」

「気にしないで。

 ――私は、そろそろ帰るわね」

「えぇ。気をつけて帰ってね」


 軽くお互い手を振りあって、乗ってきた馬車に乗り込もうとした時だった。


「――あ、ミーナさん」

「はい?」

「また今度お茶会を――」


 ――しましょう。


 そう、彼女は伝えようとしたたのだろう。


 けれど、その言葉は紡がれる事無く、ふらりと彼女が倒れ始め――


「エリクっ!」


 慌てて声を掛けたけれど、その前にエリクは彼女を抱えてくれていた。


「シルヴィア? ねぇ、どうしたの? 具合が悪いの?」


 声を掛けるけれど、応えはない。

 代わりに、安らかな寝息だけが返ってくる。


「……どう……いう、こと?」


 これではまるでダイアンと同じ。


「お嬢様、とにかく侯爵に」

「そ、そうね。エリク、シルヴィアをお願い」

「畏まりました」


 訳が分からない状況のまま。

 私達は再び、伯父様の元へと向かう。


 背後で「にゃぁん」という声が聞こえた気がした。


 コルトはかつて、ミーナを鑑定したことがあります。

 そして、鑑定不能(レベル差のため)出来なかった為、最初は警戒していました。


 なお、ミーナの戦ってる姿を目撃したのは、ヴィリーさんです。


* * *


 お読み頂きありがとうございました。

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