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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第四章 15歳 クラース領編
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閑話/ディルク・小さな芽生え



 ただ、無心に素振りを繰り返す。

 アンディと共に師事した、アデルさんが俺に与えた課題だ。


『あんたは技術もあるし、このまま基礎訓練を詰んだ方が良いね。

 それと、実戦の数をこなしな。

 相手は……そうだね。

 坊やに相手をしてやりなって言っておこうかね』


 願ってもない事だ。

 エリクさんは、騎士団でオレの訓練に付き合ってくれる人達よりも強い。


 あの人との手合わせは、とても勉強になる。

 ただ、彼の時間を使わせてしまうのが少々申し訳ないが。


 先日正直にそれを伝えたら、『この手合わせは、自分にも利がありますので、問題ありません』とエリクさんは笑って言った。


 オレの方が身分が上なので気を使わせたのだろうか。

 それとも、アデルさんに言いつけられたせいだろうか。


 ――ほんの少し、そう考えた。


 だが、エリクさんはオレとの手合わせで、毎回毎回いろんな手を使う。

 勝ったことはないけれど、様々な戦法をこの目で見て、経験するのは実にやりがいがある。


 同じようにエリクさんとしても、色々試せるオレという存在は、都合が良いのかもしれない。


(甘えかもしれないな……)


 とはいえ、これから起こる――起こす予定の事を考えれば、今は好意に甘えるしかないのが現状だ。

 一人で強くなろうとするには、時間があまりに足らないからな。


「ふー……」


 素振りの手を止め、ゆっくりと息を吐く。

 雑念が混ざってきたから、というのもあるが。

 どうやらオレに用がある奴がいるみたいだから、一度終わりにしよう。


「レナ、なんか用か?」

「ふぇっ!?」


 振り返り――庭の木に隠れるように佇んでいたレナへと声をかけと、彼女は小さな悲鳴を上げる。


(……バレてたのに気づいてなかったのか?)


 少し前から、隠れてこちらを伺っているのには気づいていた。

 多分、オレの鍛錬の邪魔をしないように、待っているのだと思っていたんだが。


 実戦稽古を付けてもらうにあたり、訓練場所はオレの実家にある訓練所を使っている。

 これならオレとの訓練後に、エリクさんに訓練所を貸しやすい。


 せめてそれくらいの、お礼はしたかった。


 ちなみにレナがいるのは、エリクさんだけでなくミーナもうちにいるからだ。

 そしてミーナの奴がいる以上、世話役のレナも必要らしい。


(”お嬢様”という身分も大変だよなー)


 アンディもそうだが、身軽に出かけられないという身分というのは、本当に息が詰まりそうだ。


(うちなんて、「出かけてくる」の一言でいいもんな)


 男所帯の家だからっていうのもあるかもしれん。

 母さんも元騎士だから、あんまり口うるさくないし。


 ――と、考えてる場合じゃないな。


「で、レナ。なんか用か?」


 一向に何も言い出さない彼女に、もう一度問いかけると、レナははっとした顔をしてから指を組む。


「あ、あのっ。

 お嬢様が、そろそろお茶にしませんかって」

「もうそんな時間か」


 エリクさんはエリクさんで、結構根を詰めるタイプだ。

 けれど、ミーナが「お茶にしよう」と提案すれば、断ることはないだろうから、休憩させることが出来る。


 とはいえ、家の人間でもない奴が勝手をする訳にもいかない。

 だから皆で休憩を取るのが、恒例となっていた。


「あの、こちらをどうぞ」


 レナに差し出されたタオルに、「ありがとう」と礼を言ってから軽く汗を拭く。


「あ、あっち向いてますね!」


 そう言ってレナは背を向ける。

 なんだか耳が赤いような。


(……あ、またやっちまった)


 冷静に考えると、女性の前で服をめくって体を拭くのは行儀が悪い。

 どうもオレは、そういう配慮が足らないな。


「悪い」

「い、いえ。大丈夫です」


 レナが度量の広い奴で良かった。

 母さんの前でやったら、容赦なく拳骨が落とされるぞ。


「――うし。もう大丈夫だ」

「はい。では、行きましょうか、ディルク様」

「おう」


 二人で庭を歩く。

 我が家の庭は、走り込みをするために無駄に広い。


 ミーナ達が待ってる茶室まで、そこそこかかる。

 走ればすぐだが、レナを走らせる程急いでるわけでもない。


「今日の訓練ではエリクさんがな――」


 移動中ずっと無言というのはどうも苦手で、つい今日の訓練の話をしてしまう。

 レナはオレの話を、微笑みながら聞いてくれて。


 だから余計に口が回る。


(こういう話、あんまり興味ないだろうにな)


 一般的に、武術の話が女性ウケしないのは知っている。

 というのも、親父の部下が愚痴っているのを聞いているからだ。


 事実一番身近な女子であるミーナも、あんまり興味ないみたいだし。


「どうかしましたか? ディルク様」

「いや、レナはいいヤツだなって」

「……はい?」


 意味がわからないといった調子で、首を傾げるレナ。


(うーん。なんて言えばいいかな)


 こういう時、アンディやコルトなら上手いこと言葉に出来るんだろうが。


「えーっとだな。

 興味ない話を嫌な顔せずにちゃんと聞いてくれるからさ。

 いいヤツだなーって」

「あぁ、そういう意味でしたか」


 苦笑して、柔らかくレナが微笑む。


「正直に申し上げれば、確かにディルク様のお話を、ちゃんと理解出来てはいないと思います。

 けれど……楽しそうにお話してくれるのが、私は好きなんです」

「そうか」


 ……なんだか妙に、落ち着かない。


 こんな風に言われるのが初めてだからか?


 フォルクマール程じゃないが、オレも割と口下手な方だから。

 「楽しそうに話すのが好き」等と、言われるなんて思ってもみなかった。


「申し訳ありません。

 理解出来てない、なんて言ってしまって……」


 オレがそっけなく答えたのが、不満と見られたのか。

 申し訳なさそうに、レナが慌てて謝り出す。


「いや、すまん。違うんだ。

 別に怒ってないし、理解出来ないのは仕方ないだろ。

 っていうか、そもそも別の話題を出せって話だよな」

「いえ、そんな事は……」


 立ち止まり、二人してオロオロと互いに狼狽える。


「えーあー……エリクさんも凄いけど、ミーナも凄いよな!」


 気まずさに、話題を変えようと彼女の主である、ミーナを持ち出す。


「一人で色々考えてさ、凄いよな」


 まさか自分の親が、国家転覆を狙う悪党で。

 しかもそれを、あいつは逃げるでも見ないふりをするでもなく、立ち向かおうとした。


 頼ってもらえなかったのは、友人として少し寂しいが。

 魔法師の腕だけじゃなく精神まで強いあいつを、オレは友として誇らしい。


「そう……ですね。

 お嬢様は、本当に強いです」


 褒めているのに、なぜか表情を曇らせるレナ。


「……どうした?」


 オレの問いかけに、ますます暗い顔をして俯く。

 おかしい。レナはミーナの事を好いてるようだから、話題にするに最適だと思ったのに。


「なにか、変な事を言ったか?」

「いえ、そういう訳ではないんです」


 俯いたまま、レナは自分の服を掴む。


「――私は、弱いなって」


 ぽつりと呟いた言葉は、とても弱々しい。


「……お嬢様も、お兄――兄も、すごく努力しています。

 私も、なにか出来たらいいのにって……」


 ――なんだ。そんな事か。


 ほっと息を吐く。


 確かに、周囲に比べ努力が足りないのかと、不安になる気持ちはよく分かる。

 オレだって、いつの間にかアンディに抜かれて、焦っていた時期があったから。


(でも、レナは違うよな)


 レナはオレ達に出来ない事を、誰よりも率先してやっている。


「――出来てるだろ?」

「……?」


 俯いていた顔を上げてレナが首を傾げる。


「だからさ、レナはミーナや、エリクさん達の為に、色々やってるだろ?」

「そんな事は……」


 どうにもレナは自信というものが足らないようだ。

 謙虚と言えば聞こえは良いが、もう少し自信を持っても良いだろうに。


「えーとだな、騎士団に例えるとだ。

 実働部隊――戦ったり、警護する人員の方が目に入るし、仕事してるように見えるけどさ。

 本当は、そういうわけでもないんだよ」


 戦う為の人間は確かに重要だ。

 力がなければ、治安を守ることが出来ないから。


 だが、戦う奴ばっかだけで治安を守れるかと言えば、そんな訳がない。


 効率的な警邏ルートを考える奴。

 治安の情報収集をする奴。

 知恵を出して、作戦を考える奴だっている。


 何よりも重要なのは。


 食事の準備や、道具の手入れといった、戦う為の準備をしてくれる奴。

 存分に力を振るうための、下準備をしてくれてる奴がいるから、騎士は戦えるんだ。


 ――どうにか、拙い言葉なりにそれを伝えるが、レナは瞬きをしてきょとんとしたまま。


「すまん。オレじゃ上手く説明出来ないな……。

 とにかく、だな」


 言って出来るだけ、真面目な顔を作る。


「レナは皆を支えるために、頑張ってる凄い奴だぞ?」


 最初、きょとんとして。

 段々と顔を赤くして。


 レナは両頬に手を染めて、顔を背けた。


「――ありがとうございます」


 か細く聞こえてくるレナの声。


(……なんだ、これ)


 さっき感じた落ち着かない感覚が、さらに強くなってきた気がする。


「……ディルク様、どうかなさいましたか?」

「いや……なんでもない」


 今度はオレの方が、顔を反らす。


(なんだろうな、この感覚)


 嫌な感覚ではないが、どう向き合ったら良いか分からなくて困る。


「と、とにかく、二人の所に行こうか」

「そ、そうですね」


 二人で困ったように笑って、再び廊下を歩き出す。


 少しの恥ずかしさと、居心地の良さを感じながら――



 ディルク は 天然たらし 系!

 レナ は ときめいた!


 スポーツマン系キャラは、なんとなく天然たらし系か、「こいつ可愛いな!」系が多い気がする。

  ※あくまで個人の感想です。


* * *


 お読み頂きありがとうございます。


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