表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第四章 15歳 クラース領編
59/95

46/計画



 手記を見つけた翌日、私は与えられた自室で机に向かいながら考える。


(……これでクーデターを阻止するために最低限必要な物は揃ったわ)


 手元には今後の行動方針を決めるためのメモがあり、自分で書いたそれをもう一度読み直す。


 一つ目は組織の幹部を支配ないし、拘束するための手段。


 これは昨日の手記とゲームの情報から生み出した魔法『赤い糸』を使えばいい。

 ”運命”部分は、長いし削った。それにあんな魔法で押し付けられたモノが”運命”だなんて断じて認めない。


 この『赤い糸』ならば、一人づつ口付けや身体的接触で『魅了』するのと違い、遠距離からも可能かつ、複数人を一気にまとめて支配出来る。


 二つ目は組織の下部を構成する、実働部隊層を捕縛するための兵力。


 これは、クラース家の私設騎士団があるし、クソ親父を『魅了』してしまえば、アイゼンシュタインの表側の兵力が使えるから問題ない。

 それに他のクーデター主要面子にも、国を欺くための表向きの兵力を保有してるはずだから、結構な兵力になるはずだ。使えるものはじゃんじゃん使おう。


 三つめは何をやらかすか不明な兄貴が、おかしなことを始めた時に抑えられる人物。


 これが一番の難関。


 だが、こちらには原作第二位という高い個人戦闘能力を持ち、裏切る可能性がないアデル婆さんがいる。


 ――そう、面倒くさそうな顔をして、あーだこーだと嫌味を重ねはしたけれど、結局彼女は私達の味方となって付いて来てくれた。


(代わりにエステルが付いてきたけれどこっちとしては全然問題ないし)


 彼女を一人で村に残すのが心配なのは、私も同じ。

 それなら一緒に生活をしてくれた方が断然良い。


 ついでに、友人になってくれたらやっぱり嬉しいしね。


(……最後のはただの願望だけれど)


 余談はさておき。


 彼女なら仮に兄貴と直接対決することになっても、簡単には負けないはず。

 原作基準であるなら、時間稼ぎくらいはやってくれるだろう。


(……あの人の事だから、案外アデル婆さんの強さに興味が湧いて、やっていた事から意識がそれるかもしれないし)


 バトルジャンキーではないが、兄貴は割と目先の興味に目が行きやすいタイプだ。

 そもそも執着が薄いし、あの人が固執する”何か”など思いつかないので、そうなる可能性は高い。


(――うん。最低条件は揃えってるわね)


 確認し終わると、私は満足げに頷く。

 そしてノートの次のページへと視線を移す。


 そちらにはクーデター阻止計画が書かれている。


 一、組織のトップである父親を魅了する。

 ニ、父親を使って幹部陣を呼び出し魅了する。

 三、幹部陣を使ってその下にいる組織の実働部隊を捕えやすくなるよう動かし、クラース家や幹部陣の表側兵力で一気に捕縛する。


 ……計画というにはかなり大雑把だが、計画と言っていいはずだ。


(ま、まぁ、細かい部分はもっと頭のいい人や、伯父様に任せればいいのよ)


 今後詰める必要はあるだろうが、条件も計画もこれで問題ないだろう。


(後の心配は……クーデター阻止が出来た後、だよね)


 多数の、力ある貴族が失脚することによる混乱は、私には予想がつかないのだ。


 当主を代替わりさせることで終わる家はそれで良い。

 けれど、中には一族ごと入れ替えになるような地域や家だってあるだろう。


(……入れ替わりの時は……連座になるんだろうな)


 禍根を残さないという意味でも、見せしめという意味でも。きっと政治としては正しいのだろう。

 それでも、何も責任のない女子供が殺されるのは――その引き金を引くのが自分かもしれないと考えると怖い。


 でもこれは他人事じゃない。我が家にだって降りかかる可能性がある。

 ――いや、クーデター計画の首謀者の家なのだから、確実に降り掛かってくるだろう。


(クソ親父の隠居と言う名の幽閉か、処刑は当然として……)


 家の取り潰し、私と兄貴が国からの追放。

 それくらいまでなら、許容範囲だ。


 そうなったら、せっかくだし、世界を見て回るのも悪くない。

 幸いなことに魔法の腕だけはあるから、冒険者家業で生きていくのもそれなりに楽しいだろう。


(……でも、多分連座だよね。私も兄貴も)


 正直、兄貴は自身の命に執着してるようには思えないが、流石に連座となれば抵抗するかもしれない。

 そうなると、被害も増えるし、私も死ぬのは嫌だし、素直に追放して欲しいものだ。


(あ、いや……兄貴は建国以来の天才だし、飼い殺しルートかな……。

 どっちにせよ大人しく従うような人じゃないけれど)


 何にせよ、戦力でならばまだ役に立つかもしれないが、政治となると私は無力だ。

 この辺りは伯父さんの政治手腕に期待するしかない。

 あの人ならば、きっと私達を悪いようにはしないだろうし、尽力してくれる。


 ――その結果、どうにもならなくなった時に、どうするか決めれば良い。


(計画終了後のことは、後で考えればいいとして……問題なのはもう一つの方よね)


 ずばり『魅了』の持続時間問題。


 血の魅了効果は、約一週間。一人を付きっきりで支配するなら十分だけれど、複数人を同時に支配し、組織的な活動をさせるには短すぎる。


 一週間とか国内移動してるだけで、時間切れになりかねないのだ。

 口付けによる一ヶ月とかでも不安がある。


 ――となると、肌を重ねる事まで考慮しないといけない。


(……うぇ……想像するだけで鳥肌っ立った)


 出来ればそういう事は、生涯でたった一人の好きな人とだけにしたい。

 ついでに、殆どが親子ほどの年齢差があり、お世辞にも見目が良いとは言えない人もいたし、何よりその中には実の父親までいる。

 心の底から嫌だ。


(解決する方法は一応あるけれど……)


 移動に時間が掛るのなら、移動時間を短縮させればいい。

 つまり――瞬間移動の魔法だ。


 伯父さんにお願いして、空間魔法の本は借りてある。

 しかし、実家にあった本でも試してみたが、やはり私に瞬間移動の魔法は使えなかった。


(多分、空間魔法って術者の実力ていうよりも、適正の有無の方が影響が大きいのよね……)


 かつて使えるようにと躍起になって、特訓した日々を思い出す。

 どれだけ頑張っても使えなかったのは、本当に悔しかった。


(自分が使えないなら、使える人に……だけれど……)


 私が知ってる瞬間移動が使える人間は、兄貴だけだ。

 頼めば使ってくれるかもしれないが、正直兄貴は信用できない。


 悪人ではないと思ってるけれど、あの人は邪気がないだけ。


 それゆえ、気まぐれで何をしでかすか判らないのだ。

 そんな人に、計画の中核を任せるなんて、自殺行為もいいところ。


(困ったなぁ……)


 ため息を吐いて、ぐでんと机に突っ伏す。


(……最悪の最悪は、私が我慢すればいいだけなんだろうけれど……)


 クーデターで自分の周囲や、無辜の民に被害が出ることを思えば、選択肢なんてない。

 仮に嫌がった結果、失敗したら私はきっと後悔するだろうし。


(それでも嫌なもんは嫌よ……)


 生前もそう言った事とは無縁だったので、それが現実になるかと思うと余計に怖くてたまらない。


(誰か使えないかなぁ……)


 ため息を吐いて机から離れ、外を眺めた。

 窓の外には、訓練場が広がっている。


 確かこの時間は、エリクがアデル婆さんと稽古をしていると言っていたはずだ。


 なんとなく視線を向けると、宣言通り稽古が行われているのが見える。


 魔法ありの模擬戦らしく、周囲にはレナとシルヴィアとエステルが見守るようにエリクを応援していた。


(……にしても凄いわね)


 エリクが雷の魔法を放つが、アデル婆さんはそれを前進しつつ回避、すれ違いざまにエリクを蹴り飛ばす。


 言葉で語るならば、単純にそれだけだろう。


(雷って目で見て避けれるものなの……?)


 下ではエリクが何度も挑み、その度に叩き伏せられている。

 私はどちらの動きも、ちゃんと目で追えていない。


 人外レベルの速度で、高度な応酬をしているのだろうというのは判る。

 判るが、具体的にどんな動きかまでは判らない。


 またエリクが吹っ飛んだんだな、程度。


(うぇぇぇ……まるで子供扱いじゃん……)


 以前、エリクは兄貴に我が国でトップクラスの強さと評価された。


(それを子供扱いってどういうことよ……引くわぁ……)


 吹っ飛ばされたエリクに、レナが慌てて駆け寄るのが見える。

 その横では、エステルがアデル婆さんに何やら怒っていて、シルヴィアが二人の間で仲裁をしていた。


 窓に肘をついて眺めながら苦笑する。


(女性四人に囲まれて、エリクったらモテモテね)


 そういう状況でないのは分かっているが、ついそんな事を考え――不意に気がつく。


 RPGのゲームにおいて、移動手段というのは大事だ。

 ゲームによっては序盤から使えたり、シナリオ後半に手に入れる空を飛ぶ乗り物を使ったり、地図でショートカットしたり。


 そして――『騎士物語~愛の絆~』において、移動手段は比較的序盤から使える。


(……原作ヒロイン、空間魔法使ってるじゃん!!)


 薬草×99個みたいな、馬鹿みたいに大量なアイテムを持ち歩いているし、街から街への移動も魔法で可能だったはず。


 ゲームだからと言ってしまえば、それまでだけれど、現実的に考えるならば空間魔法である可能性は高い。



* * *



「――というわけで、エステル。貴女にお願いがあるの」

「はい?」


 私は訓練場へと急ぎ向かって、彼女の両肩に手を置いて言う。


「今から貴方に瞬間移動を覚えてもらいます!」

「ええ、そんな無茶な!?」


 無茶ではない。

 はいか、イエスかであり、拒否は認めぬ。


「貴女なら出来るわ! 自分を信じなさい!!」



 なんでも出来るし、頼りになる兄貴。

 しかし、頼るのはちょっと怖い。


 兄貴のご利用は、計画的に。


* * *


 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ