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悪役令嬢転生物語~魅了能力なんて呪いはいりません!~  作者: 緑乃
第三章 15歳 デビュタント編
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閑話/エリク・休日と見合い話 後編


 コリーナ嬢との偶然の出会いの後、俺たちは一緒に街を回ることにした。

 彼女が見て回りたいと言ったからだ。


 俺としてもお嬢様への土産話になるだろうから丁度いい。


 街で食べてみたいと言う軽食や甘味を食べ。

 覗いてみたいという雑貨屋の中に入り。

 大劇場で短めの芝居を見る。

 その後は人気だという食事処のでの昼食。


(やはり女性視点の行ってみたい所というのは、俺では思いつかない場所が多いな)


 食事を終え、街を改めて歩きながらしみじみと思う。


「どうかなさいました?」


 ふいにコリーナ嬢の声がした。

 彼女は俺を見上げている。


(顔と身体が近い……)


 何故か彼女は俺の腕に捕まり身を寄せながら歩いているのだ。

 エスコートみたいなものだと思えばそうだが、こんな街中で――しかも貴族としてではなく、平民に混ざりながらするような事ではないだろう。


 第一、出会ったばかりの男に警戒心が薄すぎる。

 確かに見合い相手ではあるから、素性がはっきりしている分、信頼出来るかもしれないが。


「……あの、少々近くはありませんか?」

「駄目ですか?」


 困ったように上目遣いで言われると、なんとも肯定しにくい。


 昔同じ様にお嬢様にも剣術の稽古を押し切られたのを思い出す。


「……構いませんが」

「なら良かった。……少し足が痛くて」


 確かに今日の移動距離を考えると、女性では足が痛くなるのもおかしくはないと、今更ながらに気づく。

 お嬢様なら多分、この程度ならすたすた歩いていそうだが。


 ……ゆっくり歩いていたつもりだが、もう少し速度を落とそう。


 そんな事を考えながら歩いていくと、やがて目的の布屋が見えてきた。

 なんでもあの店で扱っているリボンは、街の若い女性に流行っているらしい。


 あそこが彼女の最終目的地。

 せっかくだから、俺もお嬢様とレナへの土産を買うつもりだ。もちろん自分の財布から。


(しかし……思ったより女性客が多いな)


 店にいる自分以外が全員女性かと思うと、場違い感に怖じ気づきそうになる。


「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。……ただ、傍に居ても良いでしょうか」


 俺がそう言うと彼女はきょとんとしてから、くすくすと笑って頷いた。

 彼女の傍で一緒にリボンを見る。


 レナの分はすぐに決まった。

 だが――お嬢様へのリボンが決まらない。


「誰かのお土産ですか?」

「えぇ……その、もう一人分買いたいのですが、中々決まらなくて」

「なら、その方の好きな色か、髪の色や目の色に合わせるのはどうでしょう?」


 言われて――お嬢様の好きな色である青色を自然と選んだ。

 その中でもどれが良いかと選んでいると、ふいに視線を感じて顔をあげる。


「――どうかしました?」


 視線の主であるコリーナ嬢に尋ねると、彼女ははっとして笑って「なんでもない」と答える。

 その後も少しだけ悩んでから、リボンを選ぶ。


 お互いに購入したいものが決まったので会計をして、外でお茶をすることにした。


 いい加減彼女も足が辛いだろうと思ってのことだ。

 注文したものが届き、お互い紅茶を飲み――彼女はカップを置くと、少し寂しそうに微笑みながら言った。


「――今回のお見合いはお父様に話して、お断りしておきますね」


 いきなりの申し出に頭が付いていかない。


(……彼女に何か失礼なことをしていただろうか)


 断ってくれるのは、俺としても助かる。


 しかし、不快な思いをさせてしまっての事ならば謝罪するべきだ。

 だが、その謝罪すべき事が分からない。


 俺が困っていると、彼女は苦笑しながら言葉を紡いでいく。


「わたくし、これは運命の出会いだと思いましたの。

 困っていたら颯爽と現れて、見ず知らずのわたくしを助けてくれる……しかもそれが、まだ会ってもいなかったお見合いの相手だったなんて、物語の中のようじゃありませんか」


 そう言ってから「でも」と俺をまっすぐ見ながら続ける。


「貴方には想い人がいらっしゃるのでしょう?」


 心臓が跳ねる思いがした。


「――わたくしと居ても、ずっと貴方は私じゃない誰かを見ている気がしてましたわ。

 さっきのリボンの事もそうです。とても柔らかい表情で、リボンを選んでいましたもの」


 自分の表情など分からない。

 だが、彼女が言うのならばきっとそうだったのだろう。


 そして……確かに俺は、彼女にどこかお嬢様の影を重ねて――比べていたのだ。


 なんと言えば良いのだろう。


 自分はやはり失礼なことをしていた。

 しかも無意識に。


「結べない縁に縋るほど、私はまだ貴方に惹かれていません。安心してくださいな。……少しだけ残念ですけれど」

「――自分は……」

「謝らないで下さいね。私が惨めみたいじゃないですか」


 困ったように笑って彼女は言う。


「ただ、ご家族とお話をちゃんとした方が良いと思いますよ。

 貴方はご自分で思ってるよりも、とても素敵な方です。

 想い人が居たとしても、貴方の傍に居られるのなら……と思う方が現れないとも限りませんから」


 ――その後は特に話をするでもなく、彼女を宿屋へと送り届ける。

 彼女は本の立て替え代金や、食事などのお金を持ってくると言ったが、失礼なことをしたのは俺だ。


 だから、今日のはお詫びと思って受け取って欲しいと、何も受け取らずに彼女から逃げるように去っていった。



* * *



 結べぬ縁。


 彼女の言った言葉が頭を巡る。


 そうだ。彼女は結べぬ縁だからと俺を切った。

 それはいい。きっと彼女自身の為にもそちらのが良かっただろうから。


 だが――自分は?


 お嬢様への想いは――決して実を結ぶことはないだろう。


 そもそも身分が違いすぎる。

 さらに彼女には婚約者がいて、彼よりも幸せに出来るかと問われれば答える事は出来ない。


 相手は王族。

 当たり前だが、資産も権力もまるで歯が立たないのだ。


 ――ならば諦めるのか。


(……それが出来ればこんなに苦しまないよな)


 細い糸のような、彼女との縁に縋っている自分がいる。

 ただ傍にいるしか出来ない。それでも良いからと惹かれて、切る事のできない想い。


 使用人の出入り口から屋敷に入り、お嬢様への部屋へと向かう。


 重い足取りの中、苦い想いが胸を締め付ける。


 こんな状態では他の誰かと結ばれるなど不可能だ。

 例え見合いであろうと、なんであろうと。


 きっとまた相手は気づいてしまうのだろう。

 そして――無意識に傷つけ、離れていくはずだ。


 あまりにも失礼で、身勝手な。


(……母さんに見合いを断る口実を作らないといけないな……)


 そんな事を考えながらノックをすると、お嬢様の声が返事があって部屋に入る。

 どうやらレナや母さんは席を外しているらしい。


「おかえりなさい」


 なんてことない一言。

 それでも微笑みながら言ってくれたその言葉だけで、胸のもやが晴れていく。


「どう? ゆっくり休めた?」


 柔らかく、気遣うような声音。


「疲れてないなら、お土産話しを聞きたいわ」


 俺の疲労なんてもう吹き飛んでる。

 彼女が望むのなら、いくらでも話せそうだ。


 街での出来事を目を輝かせ、楽しそうに聞いてくれる姿がとても愛おしい。


(――あぁ、やっぱり駄目だな)


 どうしても縋ってしまう。

 護衛という細い糸でも良いからと。


 もっと彼女の傍にいたい。

 例え、それ以上は望めなくても。


 結ばれるだけが、形ではない。

 ただ、彼女の笑顔を傍で見ることが出来て、必要としてくれるなら。


(どんな形でもいいじゃないか)


 そんな事を考えながら、街での話を続ける。

 楽しそうに笑う、彼女の顔を見ながら。


冒険者時代のエリクは、いろんな掃除を行っていました。

運河沿いの(魔物)掃除とか。

近くの森の(魔物)掃除とか。

街の中の(ごろつき)掃除とか。

真面目にやんちゃ(?)してた模様。


* * *


お読み頂きありがとうございます。

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