34/ダンス
主催者である王様の開幕の挨拶がホールに響く。
(なんでお偉いさんってこう、お話が長いかなー)
学校でも会社でも、お約束と言っていいほどに長い。
新成人へのお祝いの言葉から始まって、成人としての心構えやらなんやら。
来年からコレを毎回聞かないといけないと思うと、正直気が重い。
ただ、一つだけありがたい事があった。
身分の高さによって、ある程度固まって配置される。
そのため、近所に兄貴とシルヴィア、そして――クソ親父がいたのだ。
久しぶりにクソ親父の姿を見て、げんなりしたところでこの長話。
お陰様でアンディへの緊張はほぼ消えた。ありがとう長話。今だけ感謝します。
今後はいつも通りに振る舞えるだろう。
そんなこんなで、ようやく王様の長話から開放され、各々移動を始めた。
ホールは大まかに二つのエリアに分かれている。
一つはダンスエリア。
文字通り、曲ごとに人が集まってダンスをする場所だ。
ホールのど真ん中を陣取っている花形ポジションである。
もう一つは歓談エリア。
こちらはダンスエリアを囲むように壁際までがそう呼ばれている。
立食形式の食事も用意されているので、それをつまみながら話したりするらしい。
後は夜会に疲れた人用に、休憩エリア(個室あり)が複数あるという。
(休憩エリア行きたいなぁ……)
踊るのも、知らない人の対応するのも面倒くさい。
とはいえ……流石に開始直後に向かうと怒られる気がする。
それに私にはやらねばならない使命があるのだ。
ぐるりと見回すと、周囲は派閥で別れているらしく、それぞれが自分の子供を他の人に紹介したりといった様子が見られた。
明らかに持ち上げている人もいれば、なんとなく面倒臭そうに対応してる人もいたりして、どす黒く感じる。
(うん。見栄と派閥の思惑が渦巻いてるわね)
でっぷりとした腹で、食事を楽しみつつ自慢話をする人もいれば、よいしょしながら自分の立ち位置を確保する者。
お互いを褒め合いながらも、自分の方が美しいと言いたそうな女性陣。
それから、獲物を品定めし始めてる令息令嬢の人達。
はっきり言って冷静に見回すとカオスだ。
(レナはどこかな……)
きょろきょろと探してみるが見つからない。
一度姿を見ている分、探せそうなものだが人が多すぎる。
どうやって探そうか悩んでいると、聞き覚えのあるメロディが流れ始めた。
ゲームでお城のBGMに使われている曲にそっくりだ。久しぶりにここがゲームだと実感する。
そうこうしてると、一組、また一組とダンスエリアへと人が集まっていく。
どうやら、この音楽がダンス開始の合図らしい。
「ミーナ」
「あら、アンディ様。どうしました?」
首を傾げると、少しだけ戸惑ってから、彼はすっと手を差し出してくる。
「僕と踊ってくれませんか?」
どうやらダンスのお誘いらしい。
視界の隅では、シルヴィアが兄貴にエスコートされて、ダンスエリアへと向かうのが見える。
確か夜会マナー講座で、最初のダンスは婚約者と行うのが通例だと言っていたはず。
「はい。喜んで」
微笑んで彼の手を取りダンスエリアへと向かう。
ダンスは苦手。
踊れないわけではない。練習をしたし、侯爵家として恥ずかしくない程度には踊れる。
問題はパートナーとの距離だ。
腰に手を回され、身を近づけて、顔も近い。
『魅了』の影響を考えると、正直やりたくないし、私自身ダンスに魅力を感じていないのだ。
(昔映画で、ダンスを踊るシーンがロマンチック的な事を聞いてたけれど……理解出来ないなぁ)
アンディのリードに合わせながらステップを踏む。
確かに、ダンスというのは人前でイチャつける希少な機会なのだろう。
見た感じ、完全に抱きつくような形で踊ってるカップルもちらほら見える。
(恥ずかしくないのかなー?)
理解出来ないなと考えながら踊っていると、アンディの声が聞こえた。
「ミーナは、踊るのは嫌い?」
「そうですね、あまり好きではないです」
「上手に踊ってると思うけれど……」
「技術と好みは別ですから。この後も踊らないといけないかと思うと、正直億劫です」
「……いや、踊る必要はないよ」
そう言って彼は少し嬉しそうに微笑む。
「どういう意味ですか?」
「以前言ったよね、指輪を付けてる人は婚約者がいるっていう印だって。
だから、それを口実にダンスの誘いを断るのは、失礼にはならない。
婚約者がいるのに、他の人と踊るというのも問題だろうし。
もちろん友人関係とかで踊るのは別だと思うけれど」
「あぁ、そうなのですか。ありがとうございます。少し元気が出ました」
ほっとして感謝を述べると、彼は少し顔を曇らせる。
「どうかしました?」
「いや……僕は他の人と踊りたくはないんだけれど、この後君以外の人と踊る事になりそうだなって思って……」
「なるほど」
女は基本的に旦那様が一人だ。
しかし、男は違う。特に高位の身分であればあるほど、第二夫人というポジションが存在する。
ちらりと踊りながら周囲を見ると、ギラギラと獲物を狙う目つきの令嬢が複数人いるのが見えた。
「……頑張って下さい」
「うん……。――じゃなくて、本当に踊りたかったのは、君とだけだから。
それだけ覚えていて欲しい」
「大丈夫ですよ」
苦笑して答える。
そう言ってくれるのはやはり嬉しいが、これは『魅了』のせいだ。
(あの狩人と化してる令嬢たちの中に、本当に彼を愛してくれる人がいれば良いのにね)
そんな事を願いながら、私はアンディと踊り続けた。
* * *
最初のダンスを終えると、パートナー交代のため歓談エリアの方へと移動する。
それを見逃しては狩人の名折れとばかりに、あっという間に令嬢たちに囲まれていくアンディ。
これから彼の長い戦いが始まるようだ。
(頑張れ、アンディ)
心の中で応援しつつ、自分に群がってきた男には指輪を見せて微笑んで、適当にあしらっていく。
見目か、侯爵令嬢という肩書か知らないが、売約済みの女に近寄るのはどうかと。
それともこの婚約はあまり有名ではないのだろうか。
言い寄ってくる男性陣に呆れながらレナの姿を探していると、途中でシルヴィアの姿を見つけた。
近くに兄貴はいないようで、彼女は付き合いなのだろう。年配の男性貴族たちに笑顔を振りまいている。
その姿は、ホステス嬢が如く。
微笑みながら話しを受け答えては、周囲の男性へのよいしょも忘れない。
完璧だ。本物見たことないけれど完璧なホステス嬢のテクニックを持っている。
(貴族令嬢の理想的な立ち振舞よねぇ……私も侯爵令嬢としては、あれくらいやるべきなんだろうな……)
でも知らない人にあそこまでのサービス精神は出せないし、そもそもおっさんに囲まれたくない。
心の中で頑張って、と応援しつつ私はレナを探し歩く。
周囲ではワインの質がどうだ、料理が美味しいなどという声が聞こえる。
確かに料理はどれも美しく盛り付けられていて、曇ったグラスもカトラリーもない。
照明も複雑な細工が施されたガラス製が多く、とても豪奢だ。
(質が良いのは確かなんだけれど……)
どうにも、貴族としての見栄という部分を強く感じて、あまり良いものだとは思えなかった。
うちで主催してるアンディの誕生日会の方が、よほど良いだろう。
なんというか、質はともかく、もてなしの心というのが見栄で埋もれている感じがしてなんか嫌だ。
軽く嘆息しつつ、再びレナを探していると――ようやく彼女を見つけた。
アンディ の 戦い は これからだ!
頑張れアンディ。
見事ハイエナから逃げ延びるのだ。
* * *
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