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04/状況確認



「……最悪な目覚めだわ」


 座った目で天蓋を睨むように目を覚ましてからぼやく。


 多分あの夢は、私の精神とヴィルヘルミーナの精神が齟齬をなくすために見せたものだと思う。

 それがヴィルヘルミーナの魂なのか、それとも私が確認するために見たのかまでは判らないけれど。


「……あのクソ親父、ぽっくりくたばらないかしら……」


 不穏な言葉が思わず溢れるがそれも仕方ない。

 夢の中で、何度も何度も娘を放置しては悲しませるネグレクト親父の姿を見せつけられたのだ。毒くらい吐きたくもなる。


 そもそもアイツがまっとうに家族を慈しんでくれてれば、ヴィルヘルミーナは苦しまなくて良かった。

 ……まぁ、それを言い出すと「そもそもゲームのストーリーだから」で終わってしまうんだろうが。


 だいたいクソ親父は無能にも程がある。

 家族さえ見ていれば、兄という最強の手札がある事に気づいて簡単に国をひっくり返せるというのに。


(……いや、ひっくり返さなくていいや。

 というか冷静に考えたら、クソ親父の悲願が叶うのはとても癪なので叶わない方が良いな。うん)


 大きく息を吐き出して、改めて深呼吸をする。

 思ったより夢見の悪さのせいで、頭に血が登っていたみたいだ。


 身体を起こしてベッドの上で体育座りをし、自分の膝に頬杖を付きながら考える。


(これからどうしようかな……)


 指針としては、当初の予定通りヴィルヘルミーナとして生活しながら日本に戻る手段を探す。

 ……それで良いとは思うのだが、大前提としての問題が立ちふさがっている。


 ヴィルヘルミーナとして生きるという事は、将来的にクーデターに巻き込まれしまう事を指す。


 当たり前だが原作通りに、あの兄貴のためにビッチな悪役令嬢になるのは絶対に嫌だ。

 クーデターに加担するのも、巻き込まれるのも絶対に勘弁したい。


 それが嫌なら、この家から逃げるしかないだろう。


(……現実的にそれが無理だから困る)


 将来的にならどこかへ嫁入りという形で、家から出ることは出来るかもしれないが、それでは遅い。

 そして、今すぐに家を出るのは自殺行為というものだ。


 なにせ稼ぐ方法はないし、容姿だけは良い女児。

 すぐに野垂れ死ぬか、人さらいにでも捕まって娼館に売られるのが関の山だろう。


 もちろん手段を選ばないなら、魅了を使いまくれば自分の命は守れるかもしれない。


(……でもなぁ……)


 そもそも、今の時点で自分に『魅了』の能力が発現しているのだろうか。


 仮に備わっていたとしても、それを活用するためには能力の詳細を知る必要がある。

 その上で検証し、使い道を限定しなければ、魔女ルートまっしぐらだ。


(そもそも、使いたい訳じゃないのよねー……)


 『魅了』を本気で使うなら、男女の関係を持たなければならない。


 そう――ヴィルヘルミーナの魅了は“抱かれた時に最も強い力を発揮する”のだから。


 年齢制限のないゲームだったから、そういう夜のシーンそのものは無かったけれども……勘の良い人には分かる程度の示唆がある。 


 本当に好きになった人とならまだしも、利用するためにそういう行為を行うのは普通に嫌だ。


(生前もそういう経験なかったしなー……。

 まあ、『魅了』の力は基本的に利用しない方向にしよう。使えるかも分かんないんだし)


 そう結論づけてため息をつくと、窓の外で鳥のさえずりが聞こえてきた。

 そろそろレナかダイアンが起こしにくるかもしれない。


(あー……どうしたものかな)


 大の字に寝転がって目を閉じる。


 脳裏に浮かべるのは知っている限りの相関図だ。


 とりあえず血の繋がった家族は二人。

 まずはクソ親父こと、ブルクハルト・フォン・アイゼンシュタイン。


 中身はたぬき爺なのに、見た目だけは普通に渋いおっさんなのが気に食わない。

 年齢はよく知らないけれど、多分まぁ、兄の年齢を考える限りいってて五十歳位だろう。……生活習慣病でぽっくり逝くには若い。残念。


 実はこの人、物語の舞台となるディアマント王国に叛意を持つ“犯罪組織の親玉”だったりする。


 ゲーム中盤あたりまでメインの悪役を務め、様々な事件の黒幕っぽく大物ムーブを見せて、さあこれから――というところで息子であるレオンハルトに殺される。

 貴族としての地位や財産、率いる組織、長い時間を費やしたクーデター計画など全てを奪われて消える噛ませ犬だ。


 次に、未来のラスボス、魔王兄貴ことレオンハルト・フォン・アイゼンシュタイン。

 確か年齢は二十歳。なんでも出来る万能タイプの天才で、それゆえに感情が希薄で自身の心が震える事を求めている……という設定だった。


 ……だからって、クソ親父を殺してクーデターの計画乗っ取るとか、正直理解に苦しむ。

 この人に任せておけば、そのうち下剋上してくれるだろうが、そうなると今度は国がやばくなる。


 ただ現時点では、一応特に悪いことはやってない……とは思う。

 どうにかヒロインルートに誘導して、幸せになって欲しい。

 そうすれば、私は晴れて兄貴の下僕な悪役令嬢ルートから完全に脱せれる。


 ……うん。こうして考えると身内にろくなのいないな!!

 母親もう死んでるし……。


 心の中でため息をついてから、次に身内に近しい人達を思い浮かべる。


 当然一番に挙げられるのは、乳母であるダイアン・フォン・フォレスト。

 母親が私の産後に死んでいるので、育ての母どころか唯一無二の母親と言っていいくらい大切な人。むしろ血の繋がった身内より大事だ。


 その娘であるレナ・フォン・フォレストも、これまた同い年で同性というのもあって、友人兼乳姉妹の大事な人。

 兄貴より余程傍にいてくれるし、私の為にいろいろと考えてくれる貴重な人材。


 あとレナのお兄ちゃんがいた気がしたけれど……すぐ思い出せないので、取り合えずそこは放置しておこう。


 成功しようと失敗しようと、クーデターが起きてしまえば、あの二人はきっと不幸になる。

 戦犯の一味として罪に問われるか、それとも守ろうともしない我が家の面々に見捨てられるかは分からないが……きっとろくでもない未来だろう。


(――それだけは絶対に許さない)


 ヴィルヘルミーナも、そんなの望まないはずだ。


(となると、私はクーデターを阻止しないといけないのよね……。

 もしくはそれが起きる前に実家を彼女達を連れて逃げ出す……)


 出来るだろうか。

 正直今のままでは難しい。


 それならば、考え方を変えてみよう。


(父娘、兄妹間の関係は冷めきっているけれど、環境は良いのよ、環境だけは)


 娘に煩わされたくない父親は、望めば余程の事がない限り好きにさせてくれるだろう。

 それは逆に言うと、いくらでも学ぶ手段を得られるという事。


(――よし。二人を守れるだけの力と知識を得たら、逃亡ねっ!)


 うんうんと自分のアイディアに心の中で頷いていると、ふと疑問が浮かぶ。


(……あれ?

 でも私が居なくなって本当に良いの……?)


 悪役令嬢になる気は毛頭ない。

 『魅了』を使いまくるビッチになれるとは思えないし、なりたくもないのだから。


 しかし――だ。


 悪役令嬢という敵役が居なくなって本当に良いのだろうか?


 ストーリーでは最後の方まで表立っては出てこないが、序盤からヴィルヘルミーナは色々と暗躍している。

 そして障害として立ちふさがることで、ヒロインとその仲間や恋人候補達は、絆を強めたり、恋を燃え上がらせたりと、成長を促してた部分があった。


 そんなヴィルヘルミーナが居なくなったらどうなるのだろうか。


(ゲームのストーリー補正が働いて、他の誰かが敵役として彼等を成長させる障害になってくれるかな?)


 それは予想というよりも、楽観的な希望だ。


(もしも、そういった存在が生まれなければヒロイン……レベルが足らなくて負けちゃう……?)


 出来ればヒロインには兄貴浄化というお仕事があるので、仲間ルートにはいかないようにしたい。

 その場合ラスボスがヴィルヘルミーナになるけれど、兄を取られて嫉妬する妹だからこそラスボスになったわけで。


 こちらとしては兄貴を受け取って浄化してくれるというなら、熨斗をつけて送り出し、全力で祝福したいのだが……。


 上手く兄貴とくっついてくれるだろうか。


(……正直難しいわよね)


 身体を起こし、改めて体育座りをしながら考える。


 そもそも彼女との出会いも、一度クリアしたゲームデータで条件を整えることで発生するイベントだ。

 上手いことぶつけるのはかなり難易度が高い。


(いや、それならそれで、ゲームクリア後にワンチャン……)


 しかし、ゲームクリア後というのはつまり、クーデターを阻止した後。

 自分が逃げてしまえば、レベルアップが足らなくなり、ヒロイン達はクーデターを阻止出来ずに死ぬかもしれない。


(つ、詰んでる……!)


 クーデターが起きてしまったら、もう兄貴浄化も逃げるのも無理だろう。

 仮に上手いこと逃げられたとしても、クーデターが成功してしまえば、この国の王様にクソ親父か兄貴がなるということ。


 ……それはつまり、大魔王が野に放たれるのと同義だ。

 どこか他の国に逃げたとしても、兄貴が「面白そうだから」と言う理由で戦争をふっかけるのは目に見えている。


「どうしろっていうのよ!?」


 思わず私は枕をベッドに叩きつけた。


 ……その姿をレナに見られて呆然とされてしまったけれど、うん。まぁ仕方ない。



ミーナ は 癇癪 を 起こした!

枕 に 3 の ダメージ!


色々詰んでる状況からのスタート。

頑張れ。


* * *


お読みいただきありがとうございます。

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