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21/街歩き


 麻袋と思われる何かの中で、大した身動きを出来ないままに私は状況を把握する事にした。


 腕――縛られている。

 足――縛られている。

 口――何か詰め物がされている。


(うん。八方塞がりだわ)


 この状況では魔法も使えない。

 仮に使えたとしても、敵が何人いるかも分からない上に、外がどうなってるか分からない今の時点で暴れるのは、リスクが高すぎた。


 自分の状況を確認して改めて、危険を実感する。


(……とりあえず、なんでこうなったか思い出すところから始めるか……)


 自分の気持ちを落ち着かせるように、まずは記憶を漁ることにした。



* * *



 今日は朝から登城して、街歩きの準備を始めたのはちゃんと覚えてる。


「どうかなミーナ。似合ってる?」


 そう言って、アンディが街に出るための変装をした姿で現れた。

 変装用の魔法道具の効果で、今の彼の金髪は黒くなっており、目の色も地味な茶色だ。


 その上で服装は、キャスケットにズボンというモブっぽい格好になっている。


(まぁ、顔が綺麗だから若干浮いてるけれど)


 苦笑するが、一応ぱっと見は街人に見えるだろう。


「はい。よくお似合いですよ。……私の方はどうでしょうか?」


 首を傾げながら、くるりと服装を見せるように回って見せた。


 今の私も彼と同じように色を変化させている。髪は赤毛に、目の色は黒だ。

 服装もごく一般的なワンピース。正直軽くて素敵です。


(しかしまぁ、変装用の魔法道具なんてあったんだなぁ)


 これがあるなら、もうちょっと気軽に街を出歩いても良いんじゃないだろうか。


「うん。すごく似合ってるよ。……でもなんだろう? なんか違和感があるような」

「変装用の魔法道具のせいでは?」


 適当にごまかす。


(っていうか彼も男なのね……こんなに純真そうな少年に見えるのに)


 今の私は、体型を少々弄っている。

 具体的には胸にサラシを巻いて潰しているのだ。


 私の胸は同年代の子と比べると、少々発育がよろしい。ドレス姿であればそこまでではないのだが、こういった素朴な格好では目立つ。

 最初に着替えた時点でそれに気づいて、目立ちたくない一心で胸にさらしを巻いてもらったのだ。


 お陰で少々息苦しいが……目立つよりは余程良い。


「そんな事より、アンディ様。早速街に参りましょう?」

「ダメだよ、ミーナ。今日は一日僕の事を呼び捨てにしてくれないと。様付なんておかしいだろ?」


 少しむっとしながら文句を言いつける彼は、年相応の可愛らしさを持ち合わせていたのをよく覚えている。

 写真が欲しいと切実に思った。そうでなくても画家に描かせる価値のある愛らしさだった。


 ちなみに、私はショタもおじ様も年頃のイケメンも、二次元であればバッチこいである。節操なしとも言う。三次元はノーセンキューだけれど。


 その後は順調に街歩きを楽しんだ。


 王都の町並みは、ファンタジーらしさを兼ね備えていて、初めてなのもあってついはしゃいでしまう。

 市場で商品を冷やかしたり、屋台で食べ歩きをしたり。


 人懐っこい野良猫を愛でたりもした。

 周囲の人に餌でもらっているのか、野良なのに逃げることもなく撫でさせてくれたのだ。

 黒猫なのに、アイスブルーの眼をした珍しい見た目だったので、誰かの飼い猫かもしれない。


 当然だがこういった事はアンディにとって、生まれて初めてなのだろう。

 見ていて写真を取りたい衝動に駆られるほど、キラキラした笑顔を振りまいている。


(イベントスチル……っ! イベントスチルでください……っ!!)


 仮になったとしても私は見ることが出来ないのだろうが、ついそんな事を考えてしまう。


 所々で護衛の人達の姿も見かけた。

 通常勤務の範囲外だと考えると、いい迷惑だろう。

 だが、あれだけアンディが喜んでいるのだ。

 仕事する側の気持ちも分かるが、許して欲しい。


 ……本当にご苦労さまです。


 ちなみに、何故かその中にエリクの姿もあった。

 今日は久しぶりに「一日休暇で良いよ」と言ってあったのに。

 心配性だな。……でも少し嬉しいと思うのは迷惑だろうか。


 その後も街歩きは続いた。

 治安の悪い場所へ紛れ込みそうになって、引率役からアンディが注意を受けたり。

 事前に指定された休憩ポイントで、昼食をとった後の記憶がなかったり――


(――ってあの食事に薬が入ってたのか!!)


 定番といえば定番だ。

 もう一つの定番だと裏路地付近で、いきなり薬嗅がせて連れ込むとかだろう。


(いや、だからそんな事はどうでも良いんだよ)


 現実逃避でもしてるのか、逸れ易い思考を無理やり現実に向かわせる。


(冷静に考えなさい)


 自分に言い聞かせるように周囲の音を必死で拾う。


 ほとんどが馬車らしき車輪の振動と音で消されるが、かろうじで聞こえる人の声。

 それも複数。話し合いというよりは通りすがりで聞こえるような感じだ。


(つまり、周囲に人がいる……街中ってことよね)


 少しだけ安堵する。

 街の中であるならば、逃げ出せれば比較的簡単に助けを求める事が出来るはずだ。


 すぐ近くに人の温もりのようなものを感じるから、きっとアンディも自分と同じような状態なのだろう。


(なんで狙われたんだろう……)


 顔は変えようがないが、現代みたいに写真が出回ってる世界じゃない。

 国王様や王妃様、継承権上位の王子ならば顔を覚えている人も多いだろう。


 しかし、継承権が一番低いアンディの顔をはっきりと知っているのは、一般人なら大きい商家の店主くらいじゃないだろうか。


 当然ながら、私の顔は全然知られていない。なにせ屋敷で基本引きこもっているのだから。

 最近は王城に出向くので、そこの人間になら顔も知られているかもしれないが。


 それにそもそも、私達は変装をしているのだ。

 髪の色や眼の色を変えて、”私達”と認識するのはかなり難しいだろう。


(――つまり、これは私達を”誰”か知った上で行っている犯行ということね)


 要するに貴族の手による犯罪である。


(でも、原作にこんなイベントあったっけ?)


 兄貴がアンディの過去イベントを潰した、しわ寄せだろうか?

 他に特に思い当たることもない。


 ただ、強いて言うなら一つだけ確信がある。


(絶対クソ親父絡みだ……)


 それだけは確信出来る。

 奴が黒幕なのか、奴に関わりのある人間がやったかまでは分からないが。


 とりあえず結論は出てしまった。

 出ても一切状況に変化などないけれど。


(うぅ……気持ち悪い。しかも痛い……)


 これなら目が覚めなかったほうが良かった気がする。


 絶えず揺られ、板の間の上で身体は痛い。

 やっぱりファンタジー世界の馬車なんて乗るもんじゃないわ。


(あれだ。まずこれを魔法道具でどうにかするほうが良いんじゃない?)


 そんな事を考えつつ、頑張って耐えていると、やがて馬車が止まった。

 多分アジトに到着したのだろう。もしくは乗り換えか。


 どちらにせよ今は暴れる時ではない。

 眠ったフリでやり過ごすのが無難だろう。


 誰かが私を荷物よろしく持ち上げる感覚。


(怖い……。

 ……みんな心配してるだろうなぁ……)


 脳裏に浮かぶのは、ダイアン、レナ、エリクの顔。


(……皆に会いたい……)


 そのためにも、今は耐えるのだ。

 そう自分に言い聞かせ、声をあげないようにじっとし続けた。



* * *



 浮遊感が襲う。

 その直後には地面に叩きつけられる感覚。


 思わずうめき声が出てしまったが、気にしていないのだろう。

 麻袋から取り出されて地面に転がされた。


 やっと自由になった視界に広がるのは、汚い建物の内部と思わしき景色。倉庫だろうか。

 隣には自分と同じように拘束されているアンディの姿。


 ――そして、私達を投げ捨てた二人の男。


 当たり前だが、見覚えはない。

 所作も粗野なので、演技でもない限りは、ただの雇われたごろつきだろう。


 睨みつけてやりたいが、そんなことをすれば確実に殴られる。

 さっと視線を泳がせて不安そうなフリをした。


 ついでに他に何か情報がないかと探すが――何もない。

 見つけたのは、鼠くらいだ。


 しかも恐ろしいことに、真っ黒である。

 どれだけ不衛生な場所に私達はいるのだろう。

 あんなのに噛まれたら、それだけで病気になる気がする。


 鼠を睨みつけて、あっちいけと念を送っていると、男達は部屋を去って行く。

 そっちに気を取られている間に、鼠も居なくなっていたので、とりあえずは一安心。


(どうしたものかな……)


 何かするなら今だ。

 問題は、拘束されてる状態では何も出来ない事だが。


(魔法が使えれば二人程度、どうにか出来るのに……!)


 苛ついていると、アンディが呻き声を漏らしながら目を覚ましてしまった。


(拙いっ。落ち着かせないと……!)


 だが、なだめようにも、声も出せなければ身体を動かすこともままならない。


 やがて状況を認識したアンディが、もがいて騒いでしまった。


 するとさっきの二人組の男の片割れがやって来る。


 そして舌打ちをしてから、有無を言わさずアンディの腹部を蹴りつけた。

 彼が大人しくなるまで、何度も何度も。


 物音に気付いたのか、もう一人男がやってきた。

 目の前の男の片割れかと思ったが違う。――しかし見覚えのある人物だ。


(お前もグルかよ!!)


 思いっきり殴りたい。

 なにせ、後からやってきたこの男は引率役である。


「王子を殺したら拙い! もう止めろ!」

「ちっ。次騒いだらもっと痛い思いさせるからなっ!」


 そう言って去っていく。


 殺しちゃ拙いのに、もっと痛い思いとか駄目だろう。


 ――まぁ、多分次に痛い目に遭うのは私だろうけれど。


 引率役は私の事については触れなかった。

 それはつまり、アンディ以外は不要だと言うことだ。


(あぁ、もぅ……っ! 油断してた……っ!)


 あの時のクソ親父の違和感を見過ごさなければ良かった。

 兄貴が王子の過去イベを潰したみたいだから大丈夫だなんて、油断しなければよかった。


 これからどうしよう……。




エリク は こっそりとつけていた!


……こうして書くと、大変変質者っぽい。

頑張れエリク。負けるなエリク。



* * *


お読み頂きありがとうございます。



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