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20/提案



 図書館デート(形だけ)を繰り返す事数日。

 真夏だった日差しも気持ち落ち着き、残暑が近づいてきた。


 そんなある日のこと。

 何時も通り書庫に入ると、アンディがキラキラした目で詰め寄ってきた。

 ここに来る道中もそわそわとしていたから、余程話したい事があったのだろう。


「アンディ様。何か良い事でもありました?」

「うんっ!

 数日前に話した件なのだけれど、お忍びで街を視察できることになったんだっ!」


 なんでも先日の話題を教育係に相談したところ、民の暮らしを自分の目で見るのはいい勉強になると許可されたとか。

 完全な自由ではないけれども、街に出られると喜ぶアンディ。


 当たり前だが引率役がつくし、安全性の確保から護衛の配置もあるらしい。

 しかしそれでも、念願が叶うのは嬉しいだろうし、立場的にそれが必要であることも理解しているのだろう。


(良いなぁ……)


 羨ましく思っていると、喜んでいたアンディが小さく咳払いしてから、私とチラチラと見つつ言う。


「その……ミーナもよかったら一緒に街を巡ってみない……かな?」

「私もですか?」

「うん。どうせなら一緒に見た方が魔法道具の案の話も盛り上がれるし……。

 もちろん、必要なことは王家の方で手配するよ、護衛とか」

「なるほど……」


 それはありがたい申し出だった。

 多分、私一人が希望してもきっと許可は出ない。


 それに護衛を用意してもらえるなら、最近ずっと仕事漬け状態のエリクに休みをあげることが出来る。

 だが――


「とても嬉しいお誘いなのですけれど、やはり家の者に相談しないといけないので……。

 お返事は後日でもよろしいでしょうか?」

「もちろんだよ」


 満面の笑みで頷くアンディ。


 街歩き。

 食べ歩きとか出来ちゃうのだろうか。


 そう考えると、否応なしに期待に胸が膨らんだ。



* * *



 アンディからの街歩きの誘いを受けてから数日。


 どうやって身内の説得をするべきか……。


 兄貴なら多分「好きにすれば」と許可は取れるだろう。

 クソ親父は「余計な手間を増やすな」と言うかも。


 ……でも今回は王宮側が警備とか出してくれるから、説得できるかな?

 あの人らにしてみれば、私はどうでも良いし王子との繋がり強化に使えるなら、それで良いと判断すると思うのだ。


(……本当に兄貴も許可くれる?)


 ふとそんな疑問が過った。

 クソ親父については間違いなく、どうでも良いと考えていると思うが、兄貴については違う気もする。


 よく考えると、婚約破棄を考慮出来るアフターケアまで用意しているのだ。

 王子をどうでも良いと思ってるのは確かだ。繋がり強化なんて気にしないだろう。


(でもまぁ、基本的にあの人放任主義みたいだし、別に何か言うとも思わないけれど)


 自分から関わってくる時は、有無を言わさないし、こちらの意志など無視するが。

 それ以外では基本的に何もしてこない。


(二年も関わってるけれど未だによくわからんな……)


 一応攻略対象として攻略済みではあるが、やはりシナリオと現実は違う。

 正直このまま彼のイベントのキーになる人物が現れても、将来的にヒロインと恋に落ちるのか疑問だ。


(まぁ、保護者二人は大丈夫でしょ)


 少なくともゴブリンの群れに投げ込まれるよりは安全だろうし。


 問題は私が家族と思っているダイアン達の方だ。

 こちらは本気で私を心配する。兄貴の誘拐拉致事件もあってそれはより一層強くなっている。


(でも王子の護衛付きだし……)


 婚約者でもあるから、護衛の方も私の守りはそれなりにちゃんとしてくれるだろう。

 そうでなくても魔法が使える状態であれば、エリクレベルの護衛でもない限り私のほうが強いと思うし。先手必勝という前提だが。


 部屋でベッドメイキングをしているダイアンを見る。


 最大の壁は彼女だ。

 乳母として、一人の母として私を心から大切にしてくれる人。


 例え私がゴブリンの群れを倒せる(といっても兄貴の保護下だけれど)と言っても、きっと許可してくれないだろう。

 そもそも、私が戦うことを許容してくれるとも思えない。


 ――別に私だって、別に戦いたいわけじゃないんだけれども。


(レナとエリクを味方に巻き込んで……いやでもな……)


 二人共どちらかと言えば、ダイアン寄りの意見だろう。

 我儘をあまり言いたくもないし……。


 ここ数日ずっと答えのない悩みを考えていると、ノックが響く。


 ダイアンが出ると、どうやら本宅からの先触れらしい。

 それも兄貴ならまだしも、クソ親父が来るという。


「さぁ、お嬢様。お迎えに行きませんと!」


(ダイアンの善意が辛い)


 挨拶だけでも、言葉を交わせる機会だからと連れて行きたいのだろう。

 私になる前のヴィルヘルミーナは、それこそ率先して会いに行っただろうから。


 それは分かるし、そうでなくても娘が迎えに行かなければ、不興を買うのは分かる。


(でもあのクソ親父を出迎えとか、めっちゃしたくない……)


 重い足取りながらも、周囲に連れられて玄関へと向かう。

 各々配置について少し待っていると、やがて正面にある大きな扉が開いた。


 同時に全員で頭を下げて出迎える。


「「「「「おかえりなさいませ、侯爵様」」」」」


 複数人の唱和した声が響く。

 それに和やかな笑みを浮かべて「顔を上げなさい」と声を掛けるクソ親父。


 奴はゆっくりとした足取りで私の前までやってきた。

 断腸の思いで、ゆっくりとドレスの裾をつまんで優雅にお辞儀をする。


「お帰りなさいませ。お父様」

「元気なようで何よりだ」


 声音だけは兄貴と同じように優しい。

 いつぞやの書斎で婚約の話を出した時とは大違いだ。


(ええい、この狸親父が……っ)


 舌打ちしたいのを必死で抑えながら、顔を上げて嬉しそうなフリをして微笑む。


「そういえば、婚約者のアンディ王子とは上手く付き合えているのか?」

「え? ――はい。数日前もお会いして、楽しい時間を過ごさせて頂いております」


 挨拶以上に会話が続くとは思っておらず、変な声が出てしまったが会話を続ける。


(人前だから? それとも王子との関係が気になってるの?)


 何にせよこの男が私に関心を持つとは珍しい。

 ここで会話を終わらせても良いのだが、お互い人前だ。当たり障りなく話を続けたほうが良いだろう。


「先日も街歩きをお忍びでするので、一緒にどうかとお誘いを頂いたところです。

 お兄様かお父様に許可を頂かないと答えられませんと、お伝えしているのですけれど……」


 「どうしたら良い?」という顔でクソ親父を見上げながら詳しい説明をする。

 少しだけ考える姿勢を見せた後、奴はあっさりと許可を出した。


 ある意味で予想通り。


「王家の側で警備を受け持つというなら、こちらは最低限の人員だけで良いだろう。話は通しておく」


 そう言ってクソ親父は去っていった。


(許可は下りるだろうとは思ってたけれど……)


 なんだろうか。

 屑だと分かっているから穿ちすぎだろうか。なんか笑ってなかった?

 気のせいかな……?


 そう思って後ろを振り返る。


 いきなりの展開で渋い表情をしているダイアン。

 眉をひそめるエリク。

 「良かったですね」と言いたそうに微笑むレナ。


 三者三様で、まるで私の気持ちをそれぞれが代弁しているようだった。


(でもまぁ、クソ親父っていう最高権力者が許可出したんだし、街歩きは決定かな?)


 そう考えると、婚約者との仲を優先に考えただけだろうが、クソ親父に多少は感謝しても良いかもしれない。


 そしてそれは間違った解釈だったと、私は後に知る。



* * *



 気がつけば、簀巻きにされて転がされている私。

 暗くて良く分からないが、多分地面がガタガタと揺れまくっているので、馬車か荷車に乗せられているのだろう。

 ついでに私はどうやら麻袋らしき袋に入れられているっぽい。


(うん。これって誘拐だよね)


 ……なんでこうなったし。


街歩きは楽しみ。しかしクソ親父の態度は気になる。

そうだ。クソ親父を殴ろう(合言葉


* * *


お読み頂きありがとうございました。


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