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12/書庫



 さて、私が欲しい本はどこだろう。

 読むことを考えれば、探すのにあまり時間は割けれない。


 焦る気持ちを抑えながら、本棚のタイトルを目で追っていく。


(この辺は……歴史書か。――こっちは物語系……)


 ざっと見た感じだが、やはり目に付きやすい所にはないようだ。


(やっぱりしまってあるって事か……時間もないしなぁ……)


 ちらり、と本を読んでいる兄貴を見る。

 私の視線に気づいたのか、すぐに顔を上げこちらを見てきた。


(反応早すぎ……っ)


 内心ビクつきながら近づく。

 背に腹は変えられない。可能性があるならば、まずは試すしかない。


「あ、あの……お兄様」

「なんだい?」

「魔法に関する書物が読みたいのです。……それで、本のある場所を教えて頂けませんか……?」


 ダメ元でお願いしてみると、彼は本をパタンと閉じて歩きだす。


「それならここにあるよ」


 そう言って部屋の一番奥へと歩き、タンスらしき家具のもとへ向かう。

 そして取っ手近くにある鍵穴に指を当てた後、扉を開けた。


「貴重本はこの中にしまっているんだ」

「……それ、本棚だったんですね」


 なんで書庫にタンスがあるんだろうと思ってたが、アレが貴重本入れだったのか……。


「これで良いかい?」

「はい。ありがとう存じます」


 頭を下げてお礼を言ってから、いそいそと貴重本入れに入っている魔法書のタイトルを追っていく。


 ざっとタイトルを見た限り、魔法の専門書が多く、基礎理論等といった初心者向けの物もあるようだ。

 出来ることなら全部読んでみたいものだが、時間がない。


(とりあえずタイトルと、中の目次を見て読むべきものを決めよう)


 一冊一冊手に取り、ぺらぺらとめくりながらざっと小タイトルを読み漁る。

 幸いなことに本の中身は、現代と大差がないようで読みやすい。


(これは魔法の入門向け……これは中級……。

 こっちは雑学関係の今一般に普及している魔法に関してか……)


 レナが使ってたような、生活にあると便利な魔法が多分多く書かれているのだろう。

 気にはなるが、今必要なものではないと判断して、また違う本を手に取る。


(む。この二冊はさっき兄貴が使ってた瞬間移動とかの転移系魔法と、暗視とかの視覚強化系の魔法の本?)


 正直喉から手が出るほど読みたい。

 素養がなくとも、基本部分なら使えるかもしれないし、転移系を覚えられればいつでもこの部屋に入ることが出来るのだ。


(……でもダメ。我慢しなきゃ。当初の目的を忘れちゃダメよ)


 断腸の思いでそっと本を戻して、新たに本を手に取る。


(こっちは一般に普及してる魔法と、個人の資質による特別な固有魔法の違いについて……。

 固有魔法っていわゆるユニーク魔法? ゲームでも個々人に特殊能力とかあったし、それに関してかも……これはキープっと)


 キープにした本はそっと横に置いておく。

 次に取ったのは、歴史関連の本だ。


(歴史に名を残す英雄名鑑みたいなものか……これはいらないかな……)


 ぺらぺらと中の小タイトルを見ると、興味深い記述があった。

 それは過去の人物が使えたと思われる、固有魔法の逸話について。


(これはさっきのと合わせて読む価値ありね)


 とりあえずざっと見た感じ、今一番必要そうなのはこの二冊だ。

 専門書だからどこまで読めるか分からない。


 一冊にかかる時間が分からない以上、とりあえずはここから読み始めるべきだろう。


(よし。頑張ろう。読書は得意な方だもの)


 テーブルについて、まずは最初に見つけた固有魔法について書かれている物を読み始める。


 指と目で文字を追いながら、読んでいくといくつかの事が分かった。


 固有魔法の発現は、ある程度血筋が影響するということ。

 それから、得る能力はその人物の資質に影響するということだ。


(……ヴィルヘルミーナは、寂しくて、愛して欲しくて、誰かに愛される『魅了』の能力を得たって書いてあったし……つまりはそういう事か)


 しかし、残念なことに書かれているのは固有魔法の傾向や、その有用性等といった部分だけだ。

 私が欲しいのは、固有魔法の封印手段なのだが、それは載っていなかった。


(でもこっちにまだ望みはあるかもだし……)


 今度は英雄名鑑の方を読んでみる。

 残念ながらこちらにも私が望む情報はなかった。


 こちらに載っているのは、英雄や有名人が持っていたとされる固有魔法についての情報。

 その種類や、効果が載っていて中々に面白い内容だ。


(あぁ、ヒロインのバフってこの『愛情』っていう奴かー。

 恋人キャラとの親密度が高いほど、そのキャラと自分が強くなるのよねー。実に乙女ゲー向きだわ)


 確か『騎士物語~愛の絆~』のメーカー元は、同じ世界観を基本として使っている。

 そして、そのメーカーの乙女ゲーはいくつか種類があるのだが、どのヒロインもこの『愛情』の能力を持っていた。


(あ、こっちの『鑑定』はエネミーデータ確認する奴かな)


 色々な種類の固有魔法の情報は中々に面白い。


(もしかしたら、他の人の固有魔法を封印出来る人がいたかも……!)


 趣味半分、目的半分で私は本に没頭して読み続ける。

 読み終わった後は、さっきの固有魔法についての本も飛ばし読みだったからと、もう一度読み直し――



* * *



「――そろそろ夜が明けるから、読書会は終了にしようか」


 そんな声と同時に、手にしていた本が奪われる。


「え、もうそんな時間ですか?」


 本の劣化を防ぐためか、この部屋に窓はない。

 そもそも書庫なので、本を読むのは基本的に自室や書斎である。

 一応テーブルはあるが、ここで読む人はほとんどいないので、ほぼ使われていない。


 結局読めたのは最初の二冊を含めた三冊程。


 しかし、固有魔法についての情報はかなり有益だった。

 危険を冒してでも行動して、正解だ。


(行動と言えば……なんでこの人は、私に協力してくれたんだろう)


 貴重本を戻して、鍵をかけ直す兄貴を見つめて考える。

 この人の行動原理がいまいち読めない。


(――まぁ、何にせよお礼は言わないとね)


 ネグリジェの裾を軽くつまんで、頭を下げる。


「お兄様、本日はわたくしのお願いを聞いて下さりありがとう存じます」

「君が喜んでくれたなら構わないよ」


 微笑みながら言う彼の目は、やっぱり冷たい。


「あの……どうして協力してくれたのですか?」


 思わず本音がぽろりと出た。

 拙かっただろうかと、顔を伺う。


 相変わらず微笑みながら、彼は言った。


「君のことを知りたかったからだよ」

「……はい?」


 妹を知りたかったとはどういう意味だろう。

 思わず小首を傾げていると、彼は穏やかな笑みを薄ら寒いものに変え、目を細める。


「気絶した前と後で、君は変わった。

 ヴィルヘルミーナの中身が変化したと言っても良い。

 だから、少し気になって観察していたんだ」


 一歩、一歩、ゆったりとした足取りで私に近づいてくる。

 私は同じ様に、一歩一歩後ずさりながら必死に笑顔で言う。


「そんな馬鹿な事を……お兄様らしくありませんわ」

「そうかな?

 以前の君とは姿勢や歩き方が違う。

 話し方が違う。――まぁ、こちらはほんの少しだけれどね。

 それに、好みも変わったね。以前プレゼントした果物と花の中には君がいつも喜ぶものが入っていた。

 以前の君ならば、そればかりに目をやって、無邪気に喜んでいたものだよ」


(好みの物はまだしも、姿勢って!!)


 どれだけ観察されていたのか。

 それとも、おかしいくらいに記憶力が良いのだろうか。


「それから以前は、魔法になど全く興味を持っていなかったよね。

 それに、運動をすることも好きではなかったはずだ。それを考えれば剣術の稽古なんてまずないだろう?」

「た、たまたま目覚めただけですわ」


 ほほほと笑いつつ、ずりずり下がっていく。


 逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、どこに逃げれば良いのか。

 彼が瞬間移動の魔法を覚えている以上、逃げられる可能性はとても低い。


 一歩一歩近づいてくる兄貴は死刑執行人のよう。


「――何より、誕生日プレゼントの件だ。

 今までのヴィルヘルミーナなら、無邪気に私に甘えていた」


(あんた相手に無邪気に振る舞うとか無茶言わないで!!)


 心の中で絶叫を上げていると、がん、と背中が壁に当たった。


「君が読んでいたのは固有魔法についてだったね。

 もしかして、固有魔法を持っているのかい? ――それでヴィルヘルミーナになったの?」


 半分正解で半分ハズレ。

 しかし、それでも転生憑依の事を突き止めるのは時間の問題かもしれない。


 冷たい目が、私をまっすぐ射抜くように見つめる。


 逃げられない、と感じて腰が抜けてしまい座り込む。


「ねぇ――」


 片膝をついて、逃げ道を塞ぐように片腕を私の顔の横にやり、もう片方の手で私の顎をくいと持ち上げる。


「――君は誰だ?」


 壁ドン顎クイ頂きました。

 乙女ゲーで定番のときめきイベントです。


 全くときめきません。


(やばい……これは死んだかも……)


 私の心臓は、ときめきではなく恐怖で高鳴った。




魔王兄貴 の 攻撃!

ミーナ は 逃げ出したい!


だが 魔王 からは 逃げられない!



* * *


お読み頂きありがとうございます。

評価も頂けて、すごく嬉しいです。皆様ありがとうございます。

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