序
何から語るべきか。それを考えるより以前に、僕は警告を発しておきたいと思う。
悪いことは言わない、まだ間に合ううちに引き返した方がいい。これから僕がするのは、決して人に聞かせられたような話じゃない。
恐怖で眠れなくなる、で済めばまだマシだ。トラウマになる人も出るかもしれないし、ショックで死んでしまう、だなんてこともないとは言い切れない。決して大袈裟に言ってるわけじゃない、面白そうだから聞いてみようだなんて安直な気持ちでいるなら後悔するだろうから。
少しの猶予を設けよう、やっぱりやめておく、そう判断した人は立ち去ってくれて一向に構わない。僕はその後ろ姿を見て笑ったりはしないし、むしろその方が賢明だ。
どうやら、この場に残った人がいるようだ。
最終確認として、今一度問おう。
この先はあくまで自己責任。君が気分を悪くして寝込んでも、精神に異常を来たしても、僕は何の賠償もするつもりはないことを明記しておく。
これから語られる物語を目の当たりにする覚悟があるか? 絶対に後悔しないと断言出来るか?
そう、分かった。聞き手となってくれる君に対して、最大限の感謝を贈りたいと思う。
改めて自己紹介を……と思ったけれど、そんなものは不要だろうか。ここにいる人ならば、僕の名前など先刻承知だと思うから。
でも中には初めての人もいるかもしれないから、今一度名乗っておこう。
僕は金雀枝一月、鵲村という田舎の村の出身だ。
前置きはこれくらいにして、そろそろ始めよう。
これから僕が語るのは、何年も前に僕が体験した凄惨な事件の記録。人に話せば腹を抱えて笑われるか、下手をすれば正気を疑われるかもしれない……だが決して嘘偽りのない、血塗られた怪異の話だ。
怨念と悲劇に塗り固められ、繰り返された恐怖の物語だ。
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当作は八年ほど前に書きました、『鬼哭啾啾 ~置き忘れた一つの思い出~』のフルリメイク作品です。
原作をただ手直ししただけでなく、色々と改変が加えられています。
なお、リメイク前の作品や他のシリーズ作品はこちらからご覧いただけます。
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