連想ゲーム to H
「俺な、どんな単語でも三回の連想でエロい言葉に結びつけられんねん!」
「は?」
ケンジが突拍子も無いことを言い出すのはいつものことだが、まさか高校の教室でこんなことを口にするとは思わなかった。どうやらおれはケンジを甘く見ていたようだ。
「ええからええから。ほらなんか単語言うてみ?」
周囲の女子の目が気になったが、それ以上にケンジの言葉が気になった。おれがケンジの勢いにのまれるのもいつものことだ。
「ええ、じゃあ、制服」
おれがそう言うと、ケンジは腹を抱えて笑い出した。
「ひっひっひっひっ、あほか!ひっひっひっ、制服はもともとエロいやろ!」
「いや、どこがエロいねん。そんなん言うたら、この学校、エロの巣窟やんけ」
「あひゃっひゃっひゃっ、ひっひっひっ。よう分かっとるやん!ひっひっひっ」
そのあと一通り笑い終えたケンジはぜえぜえと息を切らしながら言った。
「もっと違うやつにしてくれ。どんなもんでも構わんから」
「んなら、数学」
「おっけ、数学か。せやな。数学、円周率、π、おっぱい。ほら、どうや!」
「おお、ちょっとすげえ」
ちょっとすげえくらいくだらないが、ケンジはしたり顔を輝かせている。ほんの少しだけ面白い。
「簡単な連想やったけどな。もっと難かしい単語でもええねんで」
「なら、アフロ」
「おい、どこ見て言うてんねん!俺は天然パーマじゃ。アフロちゃうわ。まったく失礼やなあ」
ケンジは人工パーマだ。美容院で毎回パーマをかけてもらっていることをおれは知っている。
「ええから、アフロ」
「わかったわかった。アフロ、お風呂、裸、おっぱい。ほらな?」
「少しズルくないか?」
「立派やろ!」
アフロからお風呂への連想はダジャレに近いところがあるが、それも一つのテクニックなのだろう。こういうゲームはルールを厳しくすればするほど面白くなくなるものだ。野暮なことは言うまい。
「じゃあ、難問いくで」
「おっしゃ。こいや」
「ガリレオ・ガリレイ」
「おいおいおいおい。ガリレオ・ガリレイて!渋すぎるやろ。かなりの難問やぞ、これ」
流石のケンジもこれにはお手上げかと思ったが、
「ガリレオ・ガリレイ、科学の父、ちち、おっぱい」
「おお!」
思わず感心してしまった。ケンジにはある種の全く不必要な才能があるのかもしれない。
「俺に死角はない!さあ、次や」
そのとき、授業開始を告げるチャイムが鳴り、担当の教師が教室に入ってきた。ケンジは興が冷めたように肩をすくめた。
「なんや、せっかく盛り上がってきたとこやのに。しゃあないから、授業の間に難しい問題考えとけよ。宿題やぞ」
しかし、おれもケンジも勉強に集中するうちにそのことはすっかり頭から離れてしまった。
部活動の練習を終えて帰路に着く頃には空はすっかり暗くなっていた。今夜は雲がほとんどない。遠くに見える山々が夜の薄闇にくっきりと影を落としていた。そんな光景を眺めながら歩いていると、ふとケンジの連想ゲームを思い出した。くだらないと感じつつもやってみたくなった。
――夜の山、山の怪談、山姥、老婆。
思わずにやりと口が歪んだ。