恐ろしい夜が明け、朝が来ました。
リハビリがてら、ミステリーホラー風?のものに挑戦してみました。
人狼ゲームから着想を得ていますので、人狼が苦手な方、人狼に強いこだわりのある方は閲覧をお勧めできません。
「酷い雨だね……」
ベッドに腰掛け窓の外をぼんやりと見ながら、スノーはそう口にした。
2泊3日で避暑地のペンションに来た僕たちだったけど、突然の大雨のせいで外に出られず急遽そのまま留まることになった。幸いなのは、オーナーである老人が追加の宿泊費はいらないと言ってくれたことだろうか。
「予報だと、あと1週間は振り続けてるみたいだよ」
僕の声に反応するかのように、周囲の森で狼の鳴き声が響く。それは周囲の雨音と混ざり合い、やがて夜の闇の中へと溶けていった。
「これだけ山奥になると狼もいるんだね」
そう呟くスノーの肩に手を回し、そっと抱き寄せる。彼女の体はふっくらと柔らかく、少し汗ばんでいた。
「雨なのに元気だよね」
「ふふ、それはラティくんもでしょう?」
悪戯っぽく笑うと、スノーは僕の首筋にはむっと噛み付いた。
「ふふふ、可愛いな。まぁ、人里離れてスノーと一緒に居られる時間が増えたし、良しとするか」
スノーの頭をそっと撫でながら、僕たちもまた夜の闇の中へと二人溶けていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「────か!? おい! 返事をしろ!」
木のドアをノックする音とともに、男の怒鳴るような声が聞こえる。
「んぁ〜……。なんだよ……」
スノーの身体に布団をかぶせ、バスローブを身に纏ってから僕は鍵を解いた。
「良かった! お前たちは無事だな! 起きてくるのが遅いから心配したんだぞ」
飛び込んで来たのは、筋骨隆々な初老の男性だ。確か名前はゴードンさんだったかな。
僕たちと同じようにこのペンションに取り残されたうちの一人で、元々は軍人だったらしい。
彼がいまは息を切らせながら、ほっと胸をなでおろしていた。
「無事って何ですか?」
僕が尋ねると、神妙な面持ちになってゴードンさんは口を開いた。
「……オーナーが、狼に殺されたみたいだ」
「死亡推定時刻は、昨日の深夜2時ごろですね。大型の肉食獣に噛み付かれたのでしょう」
オーナーの遺体を移動させていた男性がそう口にした。細身の彼はディートリヒさん。20代後半くらいで、メガネが特徴の若手医師だそうだ。
ペンションの大広間。昨日の朝は美味しそうなトーストの匂いが立ち込めていたここに、いまは鉄のような匂いが充満している。
部屋の一角に、黒く変色した血溜まりが存在感を示していた。
「ま、待ってくださいよ! それってこの建物の中に狼が入って来たってことですか!?」
「おそらくそうでしょう。死体が移動させられた痕跡はありませんから」
僕の問いに対して、ディートリヒさんは冷静にそう答えた。
その後に慌てて全員でペンションのドアや窓を確認したけど、結局どこも壊されても鍵が開いてもなかった。
「まさか、オーナーが狼招き入れた後に鍵を閉めた?」
「一体何のために……」
スノーのつぶやきに対して僕は思わず問いかけた。別に答えを求めたわけじゃない呟きは、雨音しか聞こえない大広間にやけに響いた。
そんなとき、一人の女性が口を開いた。
「あ、あのっ……」
僕たちと同じか少し上らしい、気の弱そうな女性だ。
「ええと、貴方は……」
「あ、はい。私は、アンジェラさんの付き人をしていますイリスと言います」
アンジェラさん、というのはいま彼女の横にいる30歳前後の女性だ。有名な女優で、今回は付き人のイリスさんと一緒に羽を伸ばしにしていたらしい。
「イリスさん。どうなさったんですか?」
ディートリヒさんの問いかけに対し、イリスさんは両手で自らの体を抱きしめながら恐る恐る話し始めた。
「あの、私、見ちゃったんです。大きな人がオーナーさんを襲ってるのを」
「大きな人? 狼ではなく?」
「暗かったのと後ろからでしたが、2本の足で歩いていました。狼と見間違えることはないと思います……」
彼女の言う通り、もし仮に狼が後ろ足だけで立ち上がったとしても、人間と狼を見間違えることはあり得ないだろう。
「この中でガタイがいい人となると」
全員の視線が、ゴードンさんの方へと向かった。
「はっ!? 俺じゃねぇよ! 俺がオーナー殺す意味なんてねぇだろ! 第一、どうやって人間に狼に襲われたみたいに殺せるんだよ!」
彼は元軍人というだけあって、ガタイがいい。背も2メートル近くあり、筋肉質な体をしている。
……彼ならば、人を一人殺すことくらい造作もないだろう。それに彼は元軍人だ。人を殺すことにも慣れているのかもしれない。
それでも、唯一引っかかるのは獣に食いちぎられたようだという遺体。
僕自身が見たわけではないからなんとも言えないけれど、そんなふうに偽装することが可能だろうか。そして、そこまで念入りに偽装を施す人が、現場を他の人に見られるなんていうミスをするだろうか。
「そういえば、聞いたことがあるわね。この辺りの伝説」
考え込むようにしながら、アンジェラさんがよく通る声で呟いた。
「伝説、ですか?」
「伝説というか、ただの都市伝説のようなものなのだけどね。人間に化けた狼が、人間を殺すという話よ。彼らは決まって、人の出入りのない田舎村とか、嵐の館の中を狩場にするらしいわ」
いつもであるならば、よくある都市伝説の類だと適当に聞き流したことだろう。
でも、都市伝説だと聞き流すにはあまりにも今の状況は奇怪すぎた。もういっそ、そんな化け物がいると考えた方がしっくりするくらいに。
「今の状況にそっくり……」
「どうすればいいんだよ、そんなの」
もし、人間でも狼でもない存在の仕業なのだとしたら、僕たちに打つ手はない。
「冷静に話を聞いて。この都市伝説には続きがあるの。一度だけ、逃げ延びた例があるそうよ」
「狼男……いえ、男とは限らないから人狼なのですか。その人狼を捕獲、もしくは倒したということでしょうか?」
「その通りよ」
ディートリヒさんにアンジェラさんは自信満々に答えた。
化け物を倒す……そんなことができるんだろうか。いや、でも、倒すことができた前例があるからこそ、こうして話が広まっていると考えることができる。
「ですが、どうやって人狼かどうかを判断するんですか?」
「……なんでも、怪しいと思う人を順番に殺していったそうよ」
「そ、そんな……!」
疑わしきは罰せよ。そういうことなんだろう。
狂ってる……。
屋敷の外は嵐。その上で、人狼なんていう未知の存在に怯えている現場。
こんな時に、人間同士で疑い合うなんて愚行という他ない。
だけど────
「やらないと僕たちがやられるってわけか……」
そう思いながら僕は周囲を見渡した。
ゴードンさん 男性 初老の元軍人
ディートリヒさん 男性 20代の医師
アンジェラさん 女性 30歳前後の女優
イリスさん 女性 20歳前後の付き人
そして、僕ラティスとスノーに、今朝なくなったオーナー。
このペンションの中にいたのは合計7人。
そして、残っているのは僕たちを含めて6人。
僕とスノーはもちろん、目撃者であるイリスさんも除くとすると、残るのはディートリヒさんとゴードンさん、アンジェラさんの3人。
この中に、化け物がいる……。
「まだ、その人狼?の仕業って決まったわけでもないんだし、早まるのは良くないと思います」
僕の手を握りながら、スノーがそう言った。
いつの間にか震えていた手にスノーの体温が伝わってくる。
そうだ、僕は頭が回っていなかった。そもそも、そんな化け物の仕業だと考えること自体が狂ってる。僕たちの知ってることが真実とは限らないけれど、都市伝説よりは十分に信頼に値するだろう。
「僕もスノーの言う通りだと思います。所詮は都市伝説ですし、そんなものを信じて罪もない人を殺すなんてあまりにも前時代的です」
僕とスノーの言葉を受けてか、その場の雰囲気もいくらか柔らかなものとなった。
「そうね。 ごめんなさいね、私が変なことを言ったばっかりに」
「ですが、人が一人死んだことは事実です。この雨が止んで警察が来るまでは自分の部屋から出ないようにしたほうがいいでしょう」
その日はみんな昼間は一人にならないようにしながら、無事に夜を迎え部屋へと戻って行った。
僕とスノーは同じ部屋だけど、他の人たちはみんな違う部屋だ。
「ねぇ……。大丈夫だよね……?」
「分かんない。でも、スノーは僕が命に代えても守るから」
「うん……。ありがとう」
この日、僕たちは緊張で疲れた体を休めるべく早々に夢の世界へと落ちていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
恐ろしい夜が明け、朝が来た。
今日の犠牲者は……ディートリヒさんだった。
「嘘……だろ……」
「ディートリヒさん……」
「この感じ、狼の仕業じゃないわね」
「明らかに、人間……もしくはそれと同等の知能を持つ生き物の仕業ですね」
ディートリヒさんは自身の個室の中で殺されていた。しかも、扉を破壊されたわけでも、窓を破られたわけでもなさそうだ。
何か事情があって、内側から自ら鍵を開けたという線か……。いや、もしくは、マスターキーのようなものを犯人がオーナーから奪ったのか?
「この大雨の中、外からやって来たとは考えられないですね」
そう言って僕は窓の外に目をやる。
相変わらず雨は降り続いていて、ここまでの山道を歩くことはおろか、外にいることすら難しい雨風だ。
「何が言いたいんだよ」
僕の言葉にゴードンさんが腹立たしげに反応した。別に彼に対して言ったわけではないのだけれど、現状として昨日から一番疑われていたのは彼なのだから神経質にもなるか。
「本当に人狼なんて存在がいるのだとしたら、この5人の中の誰かが」
「ほらほら、こんな中で疑心暗鬼になってはダメよ。しばらくはここから出られないんだし、こういう時こそ協力して殺人鬼を突き止めないと」
視線を周りに戻した時、僕の言葉はアンジェラさんによって遮られた。
「そうですね、すみません」
たしかに、僕自身も冷静ではないようだ。
昨日からどうにも考えが悪い方向にばかり進んでよろしくないな。
「気にしなくていいのよ。でも、鍵をかけても無駄となるとバラバラにいるのは逆に危険ね」
アンジェラさんの言う通りだ。犯人がどう言う手で鍵を開けたにしろ、バラバラにいたのでは迂闊に休むこともままならない。
昨晩ディートリヒさんが殺されたのだって、一人でいたから狙いやすかったと言うのもあるのではないかと思う。
「ホールに集まって交代で寝ずの番、というのがいいでしょうか?」
イリスさんがアンジェラさんにそう提案した。残っているのは、ゴードンさん、アンジェラさん、イリスさん、僕とスノー。このメンバーで交代で睡眠をとりながら番をすると言うことか。
「そうね。そうしましょう」
この日も、犯人探しをすることはなく、襲撃に備えると言うことで意見は一致。
ただ、昨日とは違い食事は毎食全員で同時に同じ部屋で食べ、極力ひとりになることがないように行動した。
夜は更け、僕とスノーが起きて番をする時間になった。少し広めの部屋に各々の部屋から寝具を持ち寄って扉や窓から離れて眠る形となっている。
「なぁ、スノー」
「なぁに?」
「人狼なんて、いると思う?」
僕の問いかけに、スノーは困ったような笑みを浮かべた。
「私に聞かれても、そんなの分からないよ」
「でも……」
「私はラティくんとずっと一緒にいたい」
そう言いながら、スノーはギュッと俺の体を抱きしめてくれる。いつの間にか早くなっていた鼓動も収まり、いくらか冷静にやることができた。
「そうだね。 生きて、絶対にこの屋敷から出よう」
俺の言葉にスノーは嬉しそうに頷いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕の最後の番が終わり、眠りについてからしばらく経ってからのことだった。
「う、うわぁぁああああ!」
部屋の中に木霊したのは、野太いゴードンさんの悲鳴。
「なに!?」
慌てて起き上がると、吐き気がするような血の匂いを感じた。慌てて灯りをつけると、血溜まりの中に大きく身を削られたアンジェラさんの姿が露わになった。
「アンジェラ、さん……!?」
「アンジェラさん! しっかりしてください! アンジェラさん!」
付き人であるイリスさんが慌てて抱き起すが、既に息はなくぐったりとしていた。
全員が同じ部屋の中にいる現状で、人が一人殺された。このことが、僕の心に深い恐怖心を植え付ける。
まだ日が昇るまで時間があったけれど、とても眠る気になどなれず、部屋の片隅で現実から目を背けるしかできなかった。
僕とスノーは体を寄せ合い、イリスさんはアンジェラさんの体を抱きしめながら泣いたまま。ゴードンさんは頭を丸めて蹲っている。
そんな中で、スノーが恐る恐ると言ったように口を開いた。
「あの、この時間はアンジェラさんとゴードンさんが見張りのはずでしたよね? ゴードンさんは何をしていたんですか?」
それは僕も、そしてイリスさんも思っていたであろう疑問。
こう言った事態を避けるために2人1組で番を行なっていたのだ。それなのになぜアンジェラさんだけが襲われ、ゴードンさんは無傷だったのか。
「急に腹が痛くなったから、ちょっとトイレに行ってたんだよ。それで、トイレから帰ってきたら……」
普段の強い口調はどこかへ捨て去ったと言わんばかりの弱々しい声。
トイレに立った間に襲われた、と言うことらしい。でもそれが、僕にはどうにも疑わしいものに聞こえてしまう。
「本当にトイレなら、一度全員を起こすべきだったんじゃないですか? アンジェラさんの身を守るのはもちろん、用を足している最中では貴方も無防備なはずですから」
冷静に考えるなら、1人で番をすることになるアンジェラさん以上に、誰もいない場所に行くゴードンさんの方が危険なはずだ。もちろん、犯人がこの部屋の中にいなかった場合の話ではあるのだけれど。
ならば彼は、自分自身の身を守るためにも一度全員を起こし複数人で行動をすべきだったのではないだろうか。
「何が、言いたいんだよ」
「貴方が、アンジェラさんを殺したんじゃないかって」
彼が他の人を起こさなかった理由、それは本当はトイレなど行っていないからではないだろうか。
アンジェラさんを殺し、その後で何食わぬ顔で第一発見者のふりをした。
その方がはるかに筋が通っているように感じる。
「たしかに、お前らを起こせば良かったよ。そこについては俺とコイツの落ち度だ。だがな、俺はお前らの中に人狼がいるって思ってるんだよ。だから、そんな奴と一緒に部屋を出るくらいなら1人で出た方が安全だって考えたんだよ」
そう言うとゴードンさんは順番に僕たちを睨みつけた。
「でも、だからってそれだけで俺を殺人鬼にするんじゃねぇよ」
「僕にしてみれば、怪しいのは貴方かイリスさんの2人しか残っていないんです。その中で明らかに怪しい行動を取っているのは、貴方ですよね。それに、僕たちが信用できないのなら、全員を起こした上で貴方一人でトイレに行けばよかったのでは? そうすれば少なくともアンジェラさんは助かったんですから」
「冗談じゃねぇよ! それなら、その女で決まりじゃねぇか! それだけじゃねぇ! お前らが結託して他人を殺してねぇとも限らねぇだろ!」
僕の言葉に、ゴードンさんは前のめりになって食ってかかる。
「僕もスノーも、断じて殺人鬼なんかじゃありません」
「私も、ゴードンさんが怪しいと思います」
ずっと沈黙を決め込んでいたスノーが口を開いた。スノーの声はどこか冷静で、落ち着いているように感じられる。
「2人して俺を殺人鬼に仕立て上げようって魂胆かよ!」
「だって、初めの日にイリスさんが言ってましたよね。 大柄の人だったって。 それを信じるならゴードンさん、それが嘘だったとするならイリスさんが人狼ってことになりますよね?」
言われてみればそこの発言が食い違うのか。
人狼以外が嘘をつく必要はないだろうから、二人のうちのどちらかが人狼ということで確定なのか。まあ、僕たちにしてみればもう決まっていたようなものだけど。
「た、たしかにそうだ! なら、そこの女で決まりだろ!」
「私じゃないです! 私が人狼ならあの時点で人狼の仕業という可能性を口にしません! あそこで黙っていれば、野生の狼の仕業にできたんですから」
「なるほど、言われてみればそうですね」
イリスさんの言うことはもっともだ。
あの時点で目撃情報がなければアンジェラさんも都市伝説のことなんて思い出さなかっただろう。そうなれば、人狼の仕業なんていう可能性は浮上しない。少なくとも、これが狼の仕業ではなく人間の手によるものだという考えが出るのはもっと先の事になっていたはずだ。
「お、お前ら、寄ってたかって俺のことを……! ふざけんじゃねぇ!」
瞬間、俺はゴードンさんに力一杯首を絞められた。十分な酸素が頭に行かず、顔が熱くなる。
「あ゛っ……!」
「ラティくん!」
スノーが慌てて止めようとしてくるけど、彼女の腕ではゴードンさんの剛腕を止めることはできない。
だめだ……。
意識が朦朧とする……。
目の前が真っ赤に染まって行く……。
「死ね、死ねよ! お前らが全員死ねば俺は助かるんだ! そうだよ、みんな殺しちまえばいい! そうすれば助かるんだ!」
……そうか。
二人とも殺せば助かるじゃないか。
そう、殺せば助かる。
殺さないと助からない。
コロ、サナイ……ト……。
「なんだよ、これ……」
目の前に広がるのは、獣に食い散らかされたようなゴードンさんとイリスさんの死体だった。辺りには真っ赤な海が広がっていて、生臭い匂いが部屋中に充満している。
「あははは、気がついた? ラティくん」
そんな異様な光景の中、灰色の尻尾と狼の耳を生やしたスノーが椅子の上に座って楽しそうにこちらを眺めていた。
「ス、ノー……?」
「うん、そうだよ」
「お前、それ……」
「うん。 人狼だよ」
そう言うとスノーは徐々に狼の姿になりながら、こちらへと歩み寄ってくる。背丈はぐんぐん伸びていき、体格も今の彼女とは比べ物にならないほどしっかりして行く。
逃げないといけないのに……。
目の前の化け物から、逃げないといけないのに……。
なのに、スノーだと思ったら逃げられない。
逃げることを体が拒否している。
「なんで……」
「なんでって言われてもな〜。生まれた時から、こんなんだし?」
そう言うともはや完全に人狼の姿となったスノーは俺の目の前で犬歯をむき出しにして笑った。
「いやぁ、でも、ラティくんもなかなかな狼さんだね」
スノーの取り出した手鏡に映っているのは一匹の狼……いや、人狼。全身を赤黒い血で染めたその姿は、狩を終えたばかりの獣そのものだった。
背丈は2メートルはあるだろうか。
ゴードンさんを超える巨体だ。
そうか……。
ゴードンさんもイリスさんもどちらも嘘をついてはいなかったのか。
「知ってる? 人狼に噛まれた人は、人狼になっちゃうんだって。 ラティくんも人狼になってくれて嬉しいよ。 ラティくんにも私とおんなじになって欲しくて、わざわざこんなところまで来た甲斐があったよ。あははは、約束したもんね? ずっといっしょにいてくれるって」
いつの間にか人間の姿に戻っていたスノーは、楽しそうに笑った。
「また、たくさん殺そうね」
まるでゲームであるかのように笑う彼女を、狂った僕は愛おしく思えた。
────その夜、山奥のペンションから二頭の狼の遠吠えが響き渡った。
作者がお豆腐メンタルなので、感想などはお手柔らかにお願いします。