伍話〜孤独な部屋へ〜
5階まで、階段で昇るのは、毎日のことではあるが、やはり辛い。しかしながら、毎日続けることは、当然、適度な(?)運動になる。そのおかげかは、定かではないが、案外体力はあるほうだ。中学の頃は、部活動には所属していなかったが、100m走は、クラスで三番目に速かった。
やっとの思いで、扉の前にたどり着くと、ポケットから、乱暴に鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
簡単に開いた扉を入ると、靴が一つも見当たらない、その割には埃の溜まった、玄関が姿を現す。
左側の棚の上には、仲の良さそうな四人家族の写真が飾られている。父親、母親に挟まれるように、幼稚園生と小学校中学年ほどの、子供二人が挟まれるように、写っている。写真の左下の日付は、今からちょうど、10年前である。そこに置いてある物は、その写真一枚だけである。それよりも、新しい写真は、この家には一枚もない………。
正文は、その写真から目を逸らすように、靴を脱ぎ捨て、足速にリビングへと向かった。
勿論、リビングには誰も居ない………。
少し運動をすれば、喉が渇くのは、当たり前の事である。当たり前過ぎて、喉が渇いた理由なんて、気にもしないが、渇きを潤す必要を感じたので、正文は、冷蔵庫からコーラを取り出し、勢いよく飲み始めた。階段を昇る事が、毎日の事なら、それと同時に、この行為も毎日の事になるのだった。飲み終えると、自分の部屋に入っていった。