壱話〜此処から始まる物語〜
世界には二つのことしか無い。
幸福と不幸の二つだけ。
そう、生きる不幸と死ぬ幸福……………………………それだけのこと。
ふと、目を醒ますと、いつもと同じベッドの上。なにか変な夢を見たような気がしたが、それもすでに遠い記憶となりつつある。
今日は、高校の入学式。やっと、この俺、紅羽正文は、義務教育とか言う、ルールという名のロープで固く縛られた世界から抜けだし、自由という名詞(形容動詞だったかな?)が良く似合う、素晴らしき世界に足を踏み入れることになった。皆で汗を流し、共に笑い、共に泣く。なんて、暑苦しいことをしようとは思わない。青春なんて、正直どうでもいい。まあ、恋愛の一つや二つぐらいならしたいとは思う。俺だって男なんだし。
とか、考えてたが壁の時計を見ると、既に8時を回っている。そろそろ支度をしないとまずいな。
入学式の日から寝坊して、走って学校に向かう途中、曲がり角で、女の子にぶつかって…………それが同じクラスの子だった。なんて、漫画みたいな展開にはしたくないからな。
なんて思いつつ、俺はおもむろに、まだ少し大きめの制服に腕を通した。
辺りが、朝の喧騒に包まれる中を、俺は黙々と歩いてる。幸い、家から学校まで徒歩で行ける程の距離なので、すぐそこに見える駅に吸い込まれる人混みに雑じる必要は無い。毎朝あれだと大変なんだろうな、と心配する余裕すらある。
逆に、吐き出される人達に目を向けると、俺と同じ制服を着た人の固まりが幾つかある。
なんてぼーっと考えてると、いきなり後ろから肩を叩かれた。少し驚きながら、振り返ると、そこにあるのは、良く見知った顔だった。
「なんだ、山崎か。」
中学から三年間同じクラスだった山崎だ。
「なんだとは、なんだ!朝っぱらからシケた顔しやがって。」
「別にシケた顔をしているつもりは無いんだがな。朝だからじゃないのか。それにしても、お前はいつもいつもテンションが高いな。」
どうやったら、そんなに毎日楽しそうに過ごせるのか聞きたくなるくらいに、常にハイテンション、超ポジティブシンキングなやつだ。
とかなんとか言ってるうちに、学校が見えてきた。
掲示板に張り出された、クラス分け。膨大な文字の羅列から自分の名前を探し始める。「俺の名前は…………………」