第八話、支えられ、受け入れる
第八話です
よろしくお願いします
天道のおかげで対抗手段については目処が立った。ある意味最大の懸念事項だっただけに少しばかり気が楽になった。このまま良い流れで犯人を捕まえることができればいいんだが。
「天道、それじゃあ引き渡しは放課後、帰り際に頼む」
「うん。それはいいんだけどさ~」
俺の確認に対し天道は何やら言い淀んだ答え方をした。なにか問題でもあるんだろうか。
「いやさ~、ちょっとこっちからも要求があるといいますか」
「うっそマジかよ」
これパパからのメール~、と懐からスマフォを取りだし画面を見してくる。ええと、何て書いてあるんだ。
『拝啓 日駆 蒼一殿
やあ、ひさしぶりだね。以前お世話になって以来のことだろうな。今回は君からこんな依頼を息子から受けるとは思っていなかったよ。
頼まれた品については安心してくれたまえ。最速で高品質の物を確実に御届けしよう。
ただ一つ問題があってね。
息子の人気は知っての通りだと思うが社内でもかなりの人気ね。息子から特定の人物に物を送るのに納得のいっていない社員が反発しているんだよ。
そこでだ、息子と君とで正式に友達となってもらえないだろうか?
困っている友達に救いの手を差し伸べたとなれば息子の美談として社員も納得するだろう。
私としても恩人の君にこんなことを頼むのは忍びないが会社の内に軋轢を残したくないのだ。どうかお願いできないだろうか。
敬具
天道グループ代表取締役 天道 貞将』
「一体なんだってんだ」
「ほう、おもしろい親父さんだな」
とてもフランクなその文章にはなんとも面倒なことが書いてあった。なんだそのお友だちならOKみたいな判定は、その従業員ども頭が緩んでるんじゃないだろうな。
こちらの立場などお構いなしなこの『お願い』にどうしたものかと悩んでいると、こちらの顔を覗き込むようにして天童のにんまりとした表情がこちらを見ていた。
「・・・・・・冗談じゃないんだよな?」
「そうだね~、パパはこういったことじゃ嘘付かないし~」
「おいおい、仲間外れは嫌だぜ。俺もお友だちになりた~い!!」
さっきまで上がりつつあった感情が一気に萎えてくるのを感じる。今までそういったものを作らずに生きて来たためどうにも抵抗を覚えるのだ。
顔見知り程度であればほどほどの関係でいられるがそれが友人関係になってくると、どうしても自分の内側に一歩近くなる。
その距離感にいてくれた人は今までの人生の中で数えるほどもいない。俺にとって周りの人間と距離を取って一人でいること、それが普段道理であり、俺の日常なのだ。
だがそうも言っていられない。
そもそも人に頼ろうとするときにいちいち距離感で悩んでいてどうする。こっちから近寄ったんだ。想像してなかったなんて言い訳にもならん。
少しだけ、少し変わるだけだ。俺は日常を取り戻す。その覚悟で動いた結果を受け入れる。
俺はこいつらをまっすぐと見た。先程と変わらない表情でこちらを見ていた。
「さだとらとおともだちになってくれる~?」
「・・・・・・よろしくな」
「俺は俺は!?」
「・・・さて・・・どうするか・・・」
「そんな!?」
冗談はさておき、こうでもしないと円滑にことを進めることが出来ないなら迷っている場合ではない。
「ただ一つだけ言わせてくれ」
そう、友人扱いでも譲れない点があるのだ。
嬉しがるやら驚くやらで忙しい二人に告げる。
「天道。友人と、そう呼ぶのを事態が解決するまで待ってほしい」
「ふむ~、どして~?」
「俺のケジメの問題だ。協力してもらって解決しませんでしたでは、格好がつかん。しっかりとやりおえて、そこで改めて呼ばしてもらう」
友人の立場はあくまで対等だ。寄りかかるでもなく、支えるでもなく。
左近司も天道も、俺の頼みをきちんと聞いてくれた。ならば俺は、自分の声に応えてくれた二人に対し、誠実に行動しなければならない。そうでなければ友人などと呼べるものか。
「そういうことなら、しかたないね~」
「えっ! どういう事態!?」
若干一名わかってくれていなかったがまあいいだろう。これで公庫の憂いはない。あとは自分次第だ。
「それじゃあ天道、あとは任せた」
「まかされました~」
「左近司、天道を頼むぞ」
「お、おお。なんか知らん間に話が進んでたが任せろ!!」
天道たちを先に行かせ、こうして昼間の会談は終わった。
◾
教室での帰り際、何人かの教師に囲まれてる女子のグループを見つけた。中心には委員長の姿があり、どうやらまたなにか問題があった
ようだ。
彼女が話をし、それを周りの女子がさらに補足しているようで教師側もだいぶ事態を把握できているらしい。
少々気にはなったが下手に首を突っ込んでどうにかなるわけでもない。視線を外し、早々に足を教室へ進めた。
場を去るとき、誰かの視線を感じたが、すぐに逸れていった。あの中のだれかがこっちに気付いたんだろうか。まあそこまで気にすることでもないだろう。
午後の授業もこれといって変わりなく進行していった。粗方作戦も出尽くし、あとは実行するだけという段階までになったところで本日最後の授業が終わった。
授業担当のお決まりの台詞にそれぞれが返していくなか、こちらも帰り支度を始める。
教科書なんかを片付けていると誰かが近づいてきた。
委員長だ。そちらを見やれば少し困った風な顔でこちらに来る。やはり顔色は悪い。俺みたいなやつの方ではなく保健室か病院に行くべきだ。そんな内心に関わらず、委員長はこちらに話しかけてきた。
「ごめんなさい日駆君。少しお話きいてもらっても良いかしら?」
「あー、その・・・、それって時間かかるかい?」
「そうね、この前の件についてもだからちょっと長くなるかしら」
「残念だけど今日はちょっと用事があってすぐに家に帰りたいんだ神田橋のことは気にしてないから委員長が気にすることはないしなんだか顔色が悪いみたいだし俺なんかと話すよりも体調を良くした方がいいんじゃないかなそういうことで俺はこれで」
まずい。女の長いは本当に長いのだ。前に経験しているからわかるが、それこそ一日掛かりで付き合うはめになったことだってある。今はそんな時間は本当にないのだ。ここは逃げの一手を打つ他ない。
あっ、待って。という彼女の言葉を振り切り、早足で教室から退散した。うわー、なにこれ超心痛むんですけど、張り裂けそうなんですけどそんな悲しい顔しないでよ俺悪者みたいじゃん。
罪悪感と周りからの視線に耐えられずさらに早足になる。ちくしょう俺だってほんとはこんなことしたくないわ! だけどこっちだってのっぴきならない状況なの他のこと気にしてらんないの後でいくらでも話きくからぁ!!
自然と弁解のようなものが胸の内に沸き上がってきたがどうしようもないので無視。いやがおうにも上がってしまった速度のおかげで下駄箱まですぐだった。
手早く靴を履き替える。そして玄関の近くに設置された傘置き場まで移動し、そこにあるものを確認して笑いそうになった。
そこにはこの学生の場には不釣り合いなほど高級そうな傘が二本、俺の指定場所へと刺さっていたのだ。
これこそが俺が天道に頼んでいたものであり、今回の作戦の主軸となる。
遠慮なく二本の傘を抜き取り、その重量に頼もしさを覚え、その仕事ぶりに感心する。
さあ行こう。
頼みの応えてくれたヤツの期待に応えるためにも、絶対に成功させてやる。
俺は未だ見ぬ相手に対し、それでもなお強く歩みを進めた。
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